重松清の世界 『ナイフ』
恥ずかしい話だが、今年4年ぶりに中学校勤務になるまで
「重松清」についてほとんど知らなかった。
ほとんどというのは『ビタミンF』で直木賞をとったということだけ。
今年度、中学校に異動して学校の図書館の書籍・学級文庫として割り当てられている書籍を見ていて、妙に「重松清」が目に付いた。
『きよしこ』『「日曜日の夕刊』などを先に読んだのだが、何といっても驚いたのが「ナイフ」(新潮社)だった。
テーマは、ずばり「いじめ」。
「いじめ」をモチーフにした4編と、授業ボイコットのような夫婦の出来事を描いた1編からなる作品集。
冷淡ないじめのシーンは胸がえぐられるような思いだった。
①本当にこまで教師は気づかないものか。
②そこまでされても、子どもは教師に訴えないものなのか。
という思いもあるが、そうではない。
①こういういじめは間違いなくある。
②教師の気づかないようにいじめが起きる。
③子どもは、やすやすとは親や教師に訴えない。
という意識をもたねばならないことを思い知らされた。
『ナイフ』の第3章の「大輔君」は、執拗ないじめにあう。
1学期最後の日(結局本人が最後に登校した日になる)は、公開オナニーと称し、体を押さえつけられ、靴で踏みつけて射精させられる。
幼なじみの少女は、その現場を目撃し、多少の良心の呵責も持ちながら、教師には言わなかった。
教師に言ったらおしまいだという子供間の暗黙のルールを守るのだ。
幼なじみの子がそこまでされても教師には訴えないのだということが教師の僕にはショックだった。
そうしたルールの遵守は1章でも2章でも見られた。
いくらひどいいじめでも親や教師には言わないのである。
振り返って、自分のクラスをながめてみる。
本当はいじめの事実が見えていないだけなのではないか・・・。
「親友だよね」と言いながら相手を威圧する「えびす君」のような子がいないかどうか・・・。
『ナイフ』の発行が1997年。
7年前だから、やはり「いじめ」が話題になった頃だ。
この本の存在を知らずにいたことは残念だと思う。今なら新潮文庫からも出ている。
春日井まるの会は、以前「いじめ」に関するレポートをまとめて冊子にしたことがある。
文部省がいじめの緊急アピールを出した年だ。
その中で、僕もいくつか書いた。
「親や教師に言えないようないじめがあると思え」というようなことも書いた。
忘れかけていた当時の「いじめ」への意識を喚起させてくれたという意味では、中学異動した今年、この本を手にすることができてよかったと思う。
この本を読んでからクラスを眺める意識が明らかに変わった。
ありがたい出会いであった。
ただし『ナイフ』は重い。
ほかの人にどの本を薦めるかと言ったら『きよしこ』を選ぶ。
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Comments
精力的な書き込みを読ませていただき、重い腰をあげて「ナイフ」を読み始めました。まずは、表題の「ナイフ」を今読みました。
Posted by: 理科大好き人間 | December 02, 2004 10:39 PM
「ナイフ」からいきましたか。「ナイフ」が一番無難かもしれません。娘さんがいたら第一章を読ませたい、でも読ませたら娘さんの日々の行動が気になって仕方ないから、読まないように言うかも。同じように生徒に読ませたら教室で真似されやしないか気になって仕方なくなる怖い本だと思います。
Posted by: 竹田博之 | December 18, 2004 12:59 AM