重松清の世界 『エイジ』
『エイジ』は、新潮文庫と朝日文庫から出ているらしい。
大元は朝日新聞の連載だったそうだ。
中学生の通り魔事件という現代的な事件をモチーフにして、中学生の心理を鋭く描写している。
したがって「きよしこ」と違い、作者の実話かどうか迷う必要はない。
それにしても主人公エイジの心理描写がすごい。
部活動への思い・恋愛感情・クラスメイトの分析など、エイジの独白が中心になっている。
同じクラスの生徒が通り魔事件で捕まる。
戻ってきたらどうしよう・どうやって受け入れようといったクラスの生徒のリアクションもリアルに描かれている。
次第にエイジは「ひょっとしたら自分も通り魔になるかもしれない」と思うようになる。そして仮想殺人を起こす。
エイジにも通り魔の要素がある。本当にエイジも通り魔になるのではと、ドキドキしながら読んだ。
クラスの友達は事件を異様にはしゃいでいたが「うちの母親が通り魔に襲われたらどうしよう」と悩むようになる。
この友達のキャラがいい。
このキャラのおかげで、重い空気が和らいでいく。それは読者のとってもそうであり、エイジのクラスにとってもそうなのである。
通り魔のクラスメイトが戻ってきても受け入れられないだろう、と思っていた子どもたちが、結局は「犯人」を受け入れる。その結末でよかったのかどうか。
そんなにあっさり受け入れられるなら、作品中盤での迷いや犯人への非難は何だったのか。
『ナイフ』のどの章も深刻な「いじめ」がありながら、わりとすんなりと終わってしまった。その結び方とどこか似ている。
読み応えのある作品だっただけに、結びの部分にやや欲求不満を感じた。
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