重松清の世界『舞姫通信』
テーマは「自殺」「死」。もちろん「死」の問題は「生きる」の問題でもある。
ある高校を舞台とし、ある教師を主人公としているので、教師の僕には設定場面に親近感があった。
「普通に会話しているが、実はその生徒の名前がよく分かっていない」というのは僕も経験したことがある。
それでも、作品全体にはリアリテイがない(そのことを批判するつもりはないが)。
女子高生の1人が自殺すること・双子の兄が理由もなく自殺すること・心中未遂の青年をアイドルスターにしたてること。
これらが見事にリンクし合っている展開が、ある意味で見事すぎて、「出来過ぎ」のような感覚が残ったのである。
一番リアリテイのないのが、双子の兄の恋人であり、アイドルスターの仕掛け人である「佐智子」。
佐智子の心情に踏み込んだ描写がないだけに彼女の行動の真意が今一つかめない。それは主人公にとっても同じなのである。
それにしても作品の中で「舞姫通信」が出るタイミングがいい。
「舞姫通信」は舞台となる高校の生徒に向けて発信されたメッセージであるが、同時に作者が読者に向けたメッセージにもとれる。
僕などは、そろそろ「舞姫通信」が出てくるかな、と何度か期待した。生徒が期待するような気持ちとシンクロしてしまった。
そして最後に教師2人が合作して書こうとした「舞姫通信」。これが見事なクライマックスとなっていた。
この作品のストーリーは、結局のところ、(生徒には届かない)このラストの舞姫通信のために書かれているんだな、全てが、ラストの「舞姫通信」のための布石なんだなと思えた。
そこらあたりもまんまとのせられてしまったようで、見事だなあと思う。
「見事だなあ」と言いながら、実は、あまり、おすすめしていない。
「よかったー」と思えるような感覚がなかったからだ。まあ「自殺」がテーマだから仕方ないか。
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Comments
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