恩田陸「ネバーランド」
重松清ばかり読んでもなあということで、本屋で恩田陸の作品を探した。
恩田陸が直木賞をとれないのはおかしい、と新聞に書いてあったからだ。
何の予備知識もないままに手頃な厚さの一冊を買った。
文庫裏の解説に「「イブの番の『告白』ゲームをきっかけに起こる事件」という表現がある。
この「事件」は大げさ。ミステリーなのかと楽しみにして読み始め、「ホラー」かと期待したが、それはなかった。
文庫裏の解説に「日を追うごとに深まる『謎』。やがて、それぞれが隠していた『秘密』が明らかになっていく」という表現もある。
読み終えてみると確かにその通りだが、「謎」「秘密」の割にはトーンが明るい。
そして文庫裏の解説の最後は「青春グラフテイ」という表現。
ああ、読み終えて一番納得したのはこの表現だね。いかにもネアカな高校生の7日間のエピソード。
「ネバーランド」の元の意味は大人の踏み込めないピーターパンの世界で、この場合は男子寮。
酒飲んで鍋物つくってトランプやって告白タイムやって喧嘩して年賀状書いて記念写真撮って・・・というのがいかにも青春っぽくていいですね。友達の下宿で大騒ぎした自分の学生時代を思い出した。
そして3人組の一夏の体験を語った『夏の庭』を思い出した。『夏の庭』は小学生が主人公。そいつを高校生にしたようなイメージである。
もちろんこの高校生4人には「秘密」も「謎」もある。なかなか大変な過去を背負っている。
それは一歩間違うと、天童荒太の『永遠の子』」になりかねない重たい過去だが、それでもサラリとしているのは高校生である彼らが過去を乗り越える個々の強さと、仲間を持っているからだ。『永遠の子』はもっと小さい頃の話だから、そこが違う。
もっと言うと、この高校生はかなりのリッチで、リッチなればこその悩みや心の傷が出てくるのである、そこも『永遠の子』とは違う。貧困ゆえの悲惨さがないから、どんな暗い過去も明るく受け止めることができるのだ(その分、リアリテイがない。だからピーターパンの「ネバーランド」という題でちょうどいいのだ)。
ミステリーやホラーを期待するなら、止めた方がいい。
心地よい青春モノを期待するならおすすめする。
3時間あればイッキ読みできる。軽いタッチの本が読みたい方におすすめの一冊である。
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