重松清の世界『半パン・デイズ』
ほのぼのとしたいい作品である。「泣き」も入る。さすが重松清!
文庫版はあとがきや解説があって、なにかと助かる。作者は子供のころ何度も引っ越しを経験していたことが分かった。
ということは、その引っ越しの経験が『きよしこ』に生かされているということだ。
そして、本書は逆の発想である。
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もしも親父の転勤がなくて、あの街から引っ越していかなければ、ぼくはどんな風に成長し、どんな人たちと出会い、どんな思いを胸に刻んでおとなになっただろう。『半パン・デイズ』は、そんな発想から書き起こされた。
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スタイルは『きよしこ』と同じで1つの出来事ずつ(1人の人物にスポットを当てるように)章立てされている。
小学校1年で引っこししてきた主人公ヒロシは、章を追うごとに成長する。半パンの似合う6年生までのエピソード。最終章は卒業間近の6年生だ。
いばりん坊の吉野君は、いつしか「ヨッさん」になり、「小学校のともだちを一人だけ選べと言われたら、吉野になる」ところまで親密になった。最終章は、ヨッさんとの最後の交流場面で、胸を打たれる。お互いが一人の女に子を好きになる設定などさすがである。
第三章のチンコばばあ、第四章のシュンペイさん・第五章のタッちん、といった対象人物のキャラがよくて、描写がよくて、作品世界に吸い込まれてしまう。
小学生ってこんなに冷静に世の中を見られるかな?と思う。
でも、子どもは結構「大人びた考え」ができる。大人の考えを読んでいる。
おそらく自分自身も大人の考えを裏読みしたり、大人に気をつかったりして暮らしてきた、そんなことを思い出したりした。
同年代でなくても共感できるストーリーで、誰にでもおすすめできるいい作品集である。
先にも述べたが、転居しないでずっと過ごしたストーリーが本書。
転居を繰り返し、その土地ごとでの人との出会いと別れを描いたのが『きよしこ』である。
転居や別れには悲しみがつきものだから『きよしこ』の方が、悲しい。
セットで読むことをお薦めしたい。
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Comments
Incredible points. Solid arguments. Keep up the great effort.
Posted by: Nashvilleseo.org | February 06, 2014 09:22 PM