『出口のない海』(横山秀夫)
巻末の参考文献を見ると、内容が分かる。
・「人間魚雷回天」「ああ回天特攻隊」
どこまでが事実で、どこまでが虚構か分からないが、人間魚雷に乗り込んだ青年の詳細な心理が描かれている。
死を覚悟し、特攻に志願しながら、それでも生と死で揺れる心。
死を覚悟しながら生き残ってしまう複雑な心。戦友に先立たれる(先を越される)複雑な心。
嫁さんにしたいくらい大好きな美奈子との会話シーン・別れの場面も胸を打つ。
特殊任務のために詳しく話せない並木、死ぬのが分かっていて何も話せない並木。
そんな彼の美奈子へあてた遺書は何と爽快であることか。
戦争や軍隊の様子・人間魚雷の様子などを勉強することもできた。読みやすい文章で、長さもほどほどでストーリーにどんでん返しもない。確かに人間魚雷は悲惨な史実であるが、ラストは爽快な終わり方になっている。おそらくその点は批判もあろう。あまりに軽々しいと。
しかし、中学生が戦争の様子を知るのには、これぐらいの爽快さがちょうどいい。
本格的に悲惨さを味わいたいなら、参考文献の書物を読めばいいだろう。
戦争ものは悲惨だから読まない、という人にも、自信を持ってお薦めできる作品である。
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