「空中ブランコ」(文藝春秋)
恐るべし伊良部一郎!
「イン・ザ・プール」と、ほぼ同じ設定によるトンデモ神経科医のドタバタストーリーである。
風変わりな医者の伊良部と、奇妙な看護婦のマユミ。
僕のイメージでは「南海キャンデーズ」の2人と重なっている。
伊良部はもう少しデブ、マユミはもっと美人という設定になっているが。
さて、トンデモ神経科医の伊良部の元へ、毎度毎度患者がやってくる。
患者は怪しげだと思いながらも、意味のない注射を打たれながらも、再び診察に訪れてしまう。
そして、読者である僕も、ついついページをめくってしまう。
それは、やはり伊良部の医師としての診断にそれなりの信憑性があり、彼の治療にそれなりの成果が現れているからだ。
そうしたドクター伊良部の医療行為に対する安心感・信頼感が登場人物には芽生えているし、読者である僕にも芽生えている。
「強迫神経症」「ブランケット症候群」「イップス」「嘔吐症」。
精神科らしい医学用語に支えられているので、怪しげなんだけど、どこか納得させられるし、どこか安心させられるのだ。
そういう意味では、登場する患者だちは「イン・ザ・プール」の時よりも、すんなりと伊良部を受け入れ足繁く通院しているように思う。
「ホットコーナー」や「女流作家」などは、感動すら覚える仕上がりになっている。
まさに、癒しの1冊である。
このコミック系の作品が直木賞というのは、どうもなあ・・・。
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