重松清の世界 「その日のまえに」
さすが重松清。
泣かせる「ツボ」を離さない。作品にハズレがない。
「愛する人の死」というテーマは、ストレートすぎるが、やはり、ぐっとくる。
「その日の前」「その日」「その日のあと」という構成だけでも、ぐっとくる。
44歳を超えた自分は、人生の半分を折り返したのだろうか?
いや、折り返しどころか、何かの事情ですぐにでも死を迎えるのかもしれない。
「死」は計画できないから辛い。
だからこそ、永遠のテーマだなと思う。
もちろん、「その日」まであと数ヶ月と宣告されるのも辛い。
この作品のように 「その日」を宣告されたら、自分はどうするだろう。
宣告されない突然の死よりも、有意義な生き方(死に方)ができるだろうか。
「その日の前」には誰かに会って、過去を懐かしんで、やり残したことを埋めておくだろうか。
「その日のあと」で、読んでもらえるような手紙を作るだろうか。
「その日」に備えて家族には何を伝えようか。
そういう、自分の「その日」を比較したくなる作品群だった。
別々の短編だと思ったら、最後につながっているというあたりは見事だ。
それでも『流星ワゴン』と比べると、少し印象が薄い。
それは、『流星ワゴン』が、見事な虚構の構成の中で「死」を考えさせるのに対して、『その日のまえに』は、ストーリーに奇抜さがなかったからである。
自分の来るべき「その日」と比較するにはいいのだが、虚構を読む楽しさは弱かったのである。
まあ、「その日」の主役が女性が多かったので、感情移入しづらかったこともある。
リアリテイのありすぎる設定なので、辛すぎて逃避したくなったのかもしれない。
重松作品には、ふだん我々がつい目をそらしてしまう現実を直視するよう訴えかけてくる作品が多い。
そういう意味でも、この作品は実に重松作品なのである。
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