『ドラゴン桜』12巻の学び
『ドラゴン桜』のストーリーも、かなり本格的な大学入試のノウハウになってきた。
それでも、一般的な学びがたくさんある。
昨年の秋に作者三田紀房氏の講演を聴き、ブログにも書いた。→ここ
その時の講演内容とも重なるところがあった。
医学部を狙っている大沢君という人物に
「苦しい勉強なんてしたくないだけだよ。だからどうやったら簡単に点数がとれるかいつも考えてるんだ」
「僕は一番楽な方法で大学に入りたい」
「コツコツなんてとんでもない、まるで逆・・・頑張るの大嫌い・・努力しないで済む方法ばっかりいつも考えてる」
という台詞を言わせている。
大沢君という真面目タイプの子に言わせているところがポイントで、これが龍山高校の矢島に言わせたら、ただの言い訳に聞こえてしまう。
ただし、大沢君は受験のテクニックだけを会得しようとしているわけではない。
「僕は受験にしか役立たない勉強を1教科だけ より突き詰めるなんてしたくない」
「東大の問題なら受験でしか使えない知識がいらないから5教科やっても色々勉強できて楽しいけどな。」
「数学も物理もパズルみたいで面白いし世界史も英語も何かと役立つし・・」
という台詞を言わせて、受験だけのための勉強に異議を唱えさせている。
①受験のためだけの勉強を勧める気はない。
②しかし、受験は通らなければならない。
③ならば、楽できるところはできるだけ楽をする。楽しめるところは楽しむ。
という三段論法なのである。
「楽できるところはできるだけ楽をする」という点では、川下りのエピソードの場面も同じである。
A・「橋がなければ泳いで渡る」 ・・・橋を探すのが面倒だから
B・「濡れずに渡れる方法を探す」・・自力で渡るのが面倒だから
普通ならAだが、東大生はBだという。
Bの発想は「情報を集める」「すでにあるものを利用する」につながり、
「何とか楽をできないか」を実現させるさまざまな科学技術の発展につながっていくと述べている。
なるほど、見事な論理だ。
「楽をしたい」というのは人間の根元的な欲求である。
それをきれいごとのように否定するよりは、素直に受け入れる方が現実的だと言える。
そもそも「温故知新」という格言だって、先人の学びをきちんと押さえなさいということで、先人の業績を学ばないことの愚かさを桜木は「自分で考えるということは何も考えてないということなんだよ」といさめている。
「受験のための勉強にならない」という意味では、理科の阿院先生の姿も素晴らしい。
特進1・2年の2学期の理科の実験を授業に取り入れようとしている。
「受験勉強だけかと思いましたが、ちゃんと授業もやるんですね」という反応に対し、
「教室で先生の説明を聞くだけでは科学的興味なんてもてるはずがありません」
「いろんな実験をして教科書の理論を自分の目で確かめるうちにさらなる科学的探求心が涌いてくる」
「1・2年生にはいろんな体験をさせてあげたい。それが受験につながって合格を後押しできるように」。
とコメントを返しており、『ドラゴン桜』が目先の受験テクニックの漫画ではないことが、ひしひしと伝わってくるのである。
受験勉強の目標設定、人生の目標設定という点で言うと、阿院先生は話した「二重目標」という発想も大切である。
「最低でもこれくらいは到達したい。(最低ライン)」
「でも、できるならここまで到達させたい(理想ライン)」
日々の生活はいつもこの二重目標の繰り返しだなあと思う。
実際は、その最低目標さえ達成できないこともあって自己嫌悪に陥ってしまうのだが。
「最低でも○○、最高で○○」は、現在の学校教育での授業の評価基準(C基準とA基準)の考え方と同じである。C基準の子どもを限りなくゼロに近づける努力が我々には求められている(ゼロに近づけたいからといって目標レベルを下げるのは本末転倒である)。
★オリンピック柔道の谷亮子さんの「最低で金、最高でも金」というのは、自分を追いつめるあまりにも過酷な二重目標だったよなあ(金メダルが取れたからよかったけれど)。
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