アメリカ小麦と人造米と役人
『アメリカ小麦戦略』は学校でのパン給食やキッチンカーによる小麦粉料理の普及をねらっていた様子を記している。
資料として掲載されている1955年10月27日の「対日小麦市場開拓作業の進捗状況について」の報告書によると、アメリカ小麦の普及に協力していたのが厚生省、断固反対したのが農林省ということになる。
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厚生省は実に友好的で協力的である。(中略)彼らはこの10年間、食生活改善運動を進め、もっと野菜、魚、小麦、乳製品を食べなさいと指導してきている。このためにポスターやその他の資料も作成している。デモンストレーション用のキッチンカーなる調理バスもすでに試作され、主婦に小麦食品を含んだバランスの良い食事の作り方を教えている。
われわれの計画の1つは、厚生省の栄養改善運動をこのキッチンカーの使用によって拡大強化しようというものだ。ところが、農林省はこれに異議を唱え、これまで何の実績もないくせに農林省の生活改良普及員組織を活用した方がもっとうまくやれると主張している。
われわれの要請によって、日本の五大小麦加工産業団体からなる「小麦販売促進協議会」が組織された。ここには、製粉、製パン、ビスケット業者、マカロニ業者、製麺業者が含まれている。
この協議会が担当する事業として、パン職人の研修と小麦職人の全国宣伝キャンペーンを準備してきた。ここでまた農林省が口ばしをはさんだ。アメリカが日本の他の団体と直接に事業契約を結ぶのはまずい、これらの事業の資金委託は自分たちだけが任せられてしかるべきだと言う。農林省には食糧庁という部局があり、国民の食糧管理はすべてその管轄下にある。その権限の一部たりとも失う危険は冒したくないという。
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・・・国民の栄養を厚生省が考えて小麦の輸入に熱心だったのか?
アメリカで使えなくなった非加熱製剤を輸入してHIV感染者を増やしたのが厚生省なのだから、アメリカの余剰小麦受け入れに熱心だったのは別の理由なのかもしれない。
一方の農林省は、日本の将来を考えて小麦の輸入にストップをかけたのか?
この件については、この報告書の別の記述を読むと分かってくることがある。
小麦粉を原料としたアメリカ製の粒状食品アラーに反対して、人造米の普及に躍起になった農林省の事情について次のように記してある。
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アラーが疎んじられる背景には「人造米」の製造業者の圧力があるらしい。人造米業者は、人造米がたいして普及もしていないくせに、このアラーにとって変わられては大変だと騒ぎ出したのである。(中略)食糧庁は人造米の製造を認可した。そしてその時、何人かの食糧庁退職者が人造米製造会社に天下りしている。こうした製造工場は全国に50もできたが、日本国民は人造米を好まなかった。あまりに高価である上に、米のような味もしなければ栄養価値も乏しい。厚生省のある幹部は人造米の生産に大反対を唱えているほどである。
人造米がどうにも商品にならないことが判明するやいなや、製造業者たちは食糧庁にやってきて援助を要請した。人造米の開発・奨励の責任をとれというのだ。勿論、天下りした元役人はまだ庁内に影響力を持っている。かくして、食糧庁は他の官庁に働きかけ、防衛庁が自衛隊用に一定量を購入する手はずとなった。今のところ、人造米のまとまった市場はここだけである。
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なんとまあ、天下り役人の私利私欲は今に始まったことではないのだ。
人造米については、次のサイトが詳しい。
http://www.nipponstyle.jp/column/nttr/column_16.html
ちなみに「かっぱえびせん」は、開発当時、米不足だったことから小麦粉を使った「あられ」である。
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