『カウンセラー 完全版』 松岡圭祐
有名音楽教師を突然の惨劇が襲う。家族を殺したのは13歳の少年だった……。彼女の胸に一匹の怪物が宿る。臨床心理士・嵯峨敏也の活躍を描く「催眠」シリーズ。サイコサスペンスの大傑作が、ついに完全版で登場!!
というのが、角川出版のPRの言葉。
完全版というわけで、以前の作品もあるのだが、そちらは読んでいない。
臨床心理士・嵯峨敏也シリーズの1つであるが、『催眠』と比較すると
音楽教師のまれな能力・あっさりと起こる殺人事件と復讐などは、ちょっと突拍子もない印象がある。
それは「千里眼」シリーズを読んだときの印象に近いかもしれない。
殺人事件がお好きな方にはいいが、殺人のない「催眠」のよさを満喫してしまうと、ド派手な分だけ、少し興ざめしてしまう。
いずれ書き込むが、この後、東野圭吾の「さまよう刃」を読んだ。
少年犯罪に憤った復讐劇という点では共通項がある。
罪を問われない少年犯罪に対する憤りは多くの日本人が感じていることなので、この手の復讐劇がスンナリと受け入れられてしまう。テレビの「必殺仕事人シリーズ」と同じで爽快感まで漂っている。
その点に、若干の違和感がある。おまけに、この作品の少年犯罪のリアルな描写は、さすがに読んでいて辛い。
最近の自分は安易に殺人が起こる子ども向けの「名探偵コナン」や「金田一シリーズ」さえ拒否してしまうぐらいなので、どうにも腰が引けてしまう。
どうして人間って殺人事件がこうも好きなのだろうか?
しかし、その復讐劇がメインでなく、それを題材にした心理描写・心理戦がメインなのだと考えれば、カウンセラー嵯峨の活躍は知的で面白い。カウンセラーという仕事の深さも勉強になる。嵯峨の行動は熱く優しいのだ。
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