『償い』(矢口敦子)
36歳の医師・日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の街で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑い始めるが……。
絶望を抱えて生きる二人の魂が救われることはあるのか?
感動の長篇ミステリ。(カバーの紹介文より)
タイトル買いしたくなる本。しかも、このカバーの紹介文だ。表紙絵もきれいだし書店に平積みされているから、ついつい手にしてしまう。朝日新聞に紹介されてから売り上げが急に上がったという話を聞いた。
http://book.asahi.com/bestseller/TKY200804020211.htmlが、朝日新聞に掲載された書評なのだろうか。
ただ、「そんな切実な心の叫びが、強く響いてくる」とまで評されると、そこまでスゴイかなあと思ってしまう。
よかった。けっこう深い内容だった。様々な人物が交錯して少々読み取るのに苦労したが、着想がさすがだと思った。個人の書評の中にはこっぴどいものもあり、そのように批判する真意もよく分かったが、あえて、よかった点のみ取り上げる。
「人を殺したら罪を問われるのに、心を殺しても罪は問われないのか」という問題提起は「償い」と絡んで興味をそそられた。
妻の心の痛みをが理解できなかった主人公は、妻を自殺に追いこんでしまう。
主人公は結果的に職を断つことで自分に罪を課している。
妻の心を殺した罪に悩み、妻を殺した「償い」として、自分の人生を犠牲にする。そのような「償い」もあるのだ。
何もそこまで自分が背負わなくてもいいではないか、と思う他人の苦しみまで背負いこんでしまう少年の姿も悲しい。
自分が生きてしまったことまでをも責めの理由にし、そこまで含めて「償い」をしなければならないのだとしたら、このタイトルの意味は重い。
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