ひゅ自分が得意でない経済問題について、論理の学習ネタとして扱ってみる。
【問題提起】
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/goto/20061214n79ce000_14.htmlには「これは一体、正しいモノづくりの姿なのだろうか? 」と題して次のように述べられている。
「いったん持ち上げた加工品は手から離さず次の工程につなげ」
「体を90度回せば0.3秒のロス」。
日本の工場ではストップウオッチ片手に作業者の動きを分析し、ムダな動作をできるだけ排除し、効率を上げようとする。
そんな努力を積み重ねる一方で、原料や部品、製品が太平洋、大西洋、インド洋を縦横無尽に行き交っても「高度なサプライチェーンに立脚した
最適地生産」と納得してムダには気をとめない。
今、世界のモノづくりは工場の内と外で完全に矛盾したことを行っている。
Aの発想は、コスト削減のために「移動ロス・輸送ロス」を抑えること
Bの発想は、コスト削減・利益拡大のために、海外も視野にいれること
AとBに矛盾がないか、というわけだ。
「コンパクト・プロダクション」とは、筆者の造語だが、モノの動きを極力抑えた、上流から下流までが短いコンパクトなモノづくりこそ、持続可能であり、これから世界の製造業が目指すべき目標ではないかと説く。
フードマイレージ、地産地消も「コンパクト・プロダクション」と同じ発想だろう。
世界に生産拠点を求めることが主流というイメージがある。
しかし、国内生産を堅持する論理というものがある。
たとえば2000年のコンパックコンピュータの記事。
http://www.senryakukou.com/mlmg/200002/21noki.html
◆コンパックコンピュータは販売の7割を占める企業向けパソコンの全量を国内生産に切り替える。今夏にデスクトップ型の生産を移管、年内にサーバー、来年以降にはノート型も国内生産に移す計画だ。
◆消費地での生産により2週間かかる納期を5日間に短縮する。パソコン生産の中心はコストの低いアジアに移っているが、市場の急激な変化に対応するために国内での最終組み立てを強化する動きが出てきた。
◆国内生産シフトで人件費などは上がり、パソコンの原価は高くなる。一方で顧客対応上、販売代理店が持っていた流通在庫を大幅に削減できる。さらに国内生産の方が不良率が低いため、同じ価格で販売してもコスト競争力は逆に高まるとみている。
◆日本ヒューレット・パッカードも昨年国内生産を開始。NECなど国内勢も最終組み立て工程を日本に残している。
━ 経営戦略考コメント ━
●メーカーの戦略にとっての最重要ポイントは「何を作るか」だが、「どこで作るか」もないがしろにできないポイントだ。より消費地に近い場所で生産するのがよいとされている。顧客ニーズをとらえやすく、機敏な対応も可能であり、物流コストも低く抑えられる。
コンパックをはじめとするパソコンメーカー各社がこの原則に立ち返ったというのがこの記事だ。パソコンは人件費の安い海外で生産するのが当たり前、という風潮に対するアンチテーゼでもある。
●生産活動における重要ポイントはQCDと呼ばれる3要素であり、すなわちQuality(品質)、Cost(原価)、Delivery(納期)だ。
それぞれが相反する面もあるので、これら3要素の組み合わせを最適にすることが競争力強化につながる。海外生産は、コストの面でメリットがあるが、品質や納期の面では不利だ。コンパック等はQCDの3要素を総合的に判断して、国内生産の道を選んだと言える。
●海外生産を国内生産にシフトすることによるコストアップ要因は人件費だ。しかし国内生産することによりビジネスの競争力を高め、販売・生産台数を上げれば製品一台あたりの人件費を低下させることは可能だ。輸送費が削減されることは、コストダウン要因になる。
●品質とコストとは相反するようにも見えるが、実は品質が上がればコストは下がる(品質=仕様という意味ではない)。部品・材料のムダがなくなるし、不良品の処理に関わる経済的・時間的・精神的コストはバカにならない。「国内生産の方が不良率が低いため、同じ価格で販売してもコスト競争力は逆に高まるとみている」というコンパックの弁はその通りだ。
●このように、QCDの3要素は必ずしも対立する概念ではない。コンパックは海外生産から国内生産へとシフトするという生産の仕組みの改革により、3要素すべてを大きく改善することを目論んでいるのだ。
・・・別々のウエブの記事であるが、先のABに矛盾がないことが、このQCDが対立概念でないという解説でクリアできたことになる。
もちろん2000年の記事だから説得力がないとも言える。その後コンパックはヒューレッドパッカード(HP)に吸収される。そのHPのサイトでも、国内生産のメリットがよく分かる。
http://h50146.www5.hp.com/products/workstations/pro_quality/core_value/cost.html
日本で販売される製品の多くが、その生産過程の拠点を海外へと移行する中、HPは「国内生産」にこだわり続けています。HPは、メーカ都合ではなく、消費者ニーズにあった製品をご提供し続けたいという思いで、国内に生産拠点を置いたモノづくりに徹しています。
現在、日本で出荷しているすべてのPC Workstationは、昭島の工場で生産されています。
「国内生産」に対する「信頼」と「安心感」を確かな形にすることはもちろんのこと、きめ細かなところにまでこだわった品質やフィードバックの早さなど「国内生産」ならではのメリットを日本のお客様に提供していくこと、また、国内でお客様本位の製造プロセスをしっかりと構築することで、海外生産品に負けないコスト削減を実現することが我々の使命と考えます。
ワールドワイド企業ならではの部品調達手法などを介したコストメリットやHPの本来の品質の高さに加え、国内生産によるさらなるメリットを日本のお客様にお届けしています。
・・・アパレルメーカー「ワールド」が、国内生産にこだわるのも同じ発想だ。
http://monoist.atmarkit.co.jp/fpro/articles/forefront/02/forefront02c.html
「数年前にアパレル業界がこぞって中国に生産拠点を移転するといっていた時代に、ワールドの寺井社長は日本国内での生産を続けていた。淡路島などに工場がある。
もちろん中国でも作ってはいるが、それは『売り切り御免』の製品が中心である」
「ところが、ハイエンドの商品の中には、春夏物や秋冬物など、あるシーズンには必ず置いておかなければならないアイテムがある。さあ、これをどうするか。
中国にまとめてどかんと大量発注するのか。おそらく大ロットで発注すれば20%以上の期末残存在庫が出てしまう。ワールドはハイエンドの商品を毎週、後補充生産している。
このやり方なら、期末残存在庫は非常に少ないだろう。そうすると、中国にまとめてどかんと発注する場合に比べて20%ぐらい残存在庫に差が出てくる。この残存在庫をたたき売りする場合と比較すると、寺井社長によれば『中国人の賃金が仮にゼロでも、日本で作った方が安い』という。毎週後補充するのは、リードタイム的に中国生産
では無理。それで国内の工場で生産するのだけれど、その方が安いと寺井社長は見切る。
・・・『中国人の賃金が仮にゼロでも、日本で作った方が安い』は「勘」ではない。
「計算」であり「理論」であり、「事実」である。
たとえば、次のような計算がある。
http://wwwf1.mitsubishielectric.co.jp/e-factory/biz/strategy/25/index4.html
ex.2 中国で加工すると安くなるか?
日本での売値1,500円の製品をつくるのに、国内で加工した場合は、原材料費500円、加工費500円が掛かる。中国で加工した場合は、原材料費500円、加工費30円、物流費が行きは10円、帰りは30円掛かるとしてどちらが収益性が良いか?
【従来の会計論】
国内:製造コスト=500+500=1,000円 粗利=1,500-1,000=500円
中国:製造コスト=500+30+10+30=570円 粗利=1,500-570=930円
となって、断然、中国が良いということになる。
【Jコスト論】
加工に日本10日、中国20日、国内~中国間の輸送日数として行きに20日、帰りに20日掛かるとする。
国内:収益性=500円/(750円×10日)=0.07[/日]
中国:収益性=930円/31,700[円・日]*=0.03[/日]
*(500+10/2)×20日+{(500+10)+30/2}×20日+[{(500+10)+30}+30/2]
となり、逆に国内で加工したほうが収益性(利回り)が良くなる。このように、ある程度の粗利率のある製品では十分に太刀打ちできると言えるわけです。
このようにJコスト論を使えば、従来は「勘と度胸」で判断せざるをえなかったものが正確な数値としてあらわれてきます。これまで常識とされていたことが、実は間違っていたり、やはり正しかったり、客観的に検証できるのです。このJコスト論が日本のモノづくりの発展に少しでもお役に立てれば幸いです
・・・というわけで海外生産がいいか、国内生産がいいか、は安易に決められないことが分かった。
複数の要因が混ざっているからだ。
すると、以下のようなニュースも注意深く読むようになる。
<日経>◇トヨタ大幅減益 海外生産シフトも 2008/11/07 01:32
トヨタ自動車は2008年度の国内生産台数が前年度比約1割減の385万台となり、05年度以来、3年ぶりに400万台を割り込むとの見通しを明らかにした。
同社はここ数年、世界市場の拡大に合わせた輸出増に頼る形で高水準の国内生産を維持してきた。
今後、急速な円高に対応し、もう一段の海外生産シフトを迫られることにもなりそうだ。
内需低迷が続くなか、トヨタは国内生産の6割以上を輸出に回しており円高の打撃を受けやすい構造になっていた。08年度は世界全体の生産も792万台と約9%減らす計画だが
世界生産に占める国内の比率は07年度の49.1%から48.6%に下がる。
・・・この記事だけでは明らかにならないが、輸出する自動車は海外(現地)で生産する方がコスト削減できるのだから、国内生産を推奨する意義はない。
鳴海製陶が食器生産を国内から海外へシフト 2009年 5月12日 (火)
鳴海製陶は、収益改善に向けた取り組みに着手する。主力の食器部門で、秋までに生産を国内から海外へシフト。海外生産比率を現在の七割から八割まで引き上げ、人件費コストの削減に取り組む。さらに全社的に余剰感が出ていた人員を、全社従業員の約一割を削減する。
・・・この記事での食器生産が輸出向けなのか国内向けなのか分からないから、判断は保留せざるを得ないのである。
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