12月7日のPISA(学習到達度調査)で、読解力は15位から8位に上がったとの結果が出た。
地元中日新聞の記事によれば、
◆文部科学省は改善の背景について全国学力・学習状況調査を通じてPISAを意識した授業の工夫や読書活動の推進が効果があったとしている。
とある。
別の場所では
◆過去二回の調査で読解力の順位が低下し、日本では学校での朝の始業前に「朝読書」に取り組むなど力を入れてきた。
とある。
読解力低下の対策は「朝読書」だけなのか?
これでは「読解力は授業では育たない」と宣言しているようなものだ。
新聞記事は、「NIE」(教育に新聞を) の効果も指摘している。
「NIEが小中高校で広がっていることも、好成績に影響したと考えられる」とあるが、読書の効用と同じだ。
じゃあ、国語の授業を止めて読書だけやってれば力はつくのか?
国語の教科書を使うのを止めて新聞を使っていれば、もっといい点がとれるのか?
かつて国語の名人と言われる野口芳宏氏が話していた記憶がある。
◆自分の読解力をつけてくれたのは読書であると答える人が多く、国語の授業で読みの力を付けたと断言する人はまれである。
だとするならば、一体国語の授業とは何なのか?
・・・・力をつける国語の授業が「鍛える国語」であり、いくぶん野口氏が否定的だった「分析批評」であった。
ところで、相関関係の考察についても疑問がある。
読書が読解力に寄与する、新聞が読解力に寄与するという考察は正しいか?
むしろ因果が逆という印象がある。
「読解力がある人は、読書の習慣がつく」 「読解力がある人は、新聞を読む習慣がある」のように。
とにかく、結果をどう考察するか。そこに我田引水のような強引さがないか、きちんと見極めたい。
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html
には、以下のような考察がある。
(7)生徒の背景と到達度(本文第2.5節)
2009年調査では、生徒質問紙の中で「趣味としての読書」「読書活動」「読む本の種類・頻度」「オンライン上での読みの活動」「就学前教育機関での教育経験」についても尋ねた。
● 「趣味で読書をすることはない」と回答した生徒の割合について、17か国中最も多いのはオランダで、次いで日本、アメリカ、アイルランド、ドイツの順であった。その割合が最も少なかったのは上海で、次いで台湾、香港、シンガポールの順であった。(「趣味で読書をすることはない」と回答した生徒以外の)「楽しみで本を読む」生徒について、2009年調査の割合が2000年調査の割合に比べて統計的に有意に多いのは、日本、カナダ、ブルガリア、香港、ギリシャ、タイの6か国で、日本の場合、2000年調査に比べ2009年調査の方が男子で約9ポイント、女子で約13ポイント増え、平均で約10ポイント増加した(本文第2.5.1節参照)。
● 読書活動について様々な観点から尋ねたところ、日本の場合、「読書は、大好きな趣味の一つだ」「本の内容について人と話すのが好きだ」「本をプレゼントされると、うれしい」の各項目について「どちらかといえばあてはまる」「とてもよくあてはまる」と回答した生徒の割合が、それぞれ2000年調査に比べて統計的に有意に高い。また、「本を最後まで読み終えるのは困難だ」「読書は時間のムダだ」「読書をするのは、必要な情報を得るためだけだ」「じっと座って本を読むなど、数分しかできない」の各項目について「どちらかといえばあてはまる」「とてもよくあてはまる」と回答した生徒の割合については、日本はそれぞれ2000年調査に比べて統計的に有意に低い(本文第2.5.2節参照)。
● 読む本の種類・頻度については、日本の場合、フィクション(小説、物語など)、ノンフィクション(伝記、ルポルタージュなど)を「月に数回」「週に数回」読むと回答した生徒の割合が、2000年調査よりも統計的に有意に高く、雑誌、コミック(マンガ)、新聞を「月に数回」「週に数回」読むと回答した生徒の割合が、2000年調査よりも統計的に有意に低い。また、読む本の種類と頻度別にみた総合読解力の平均得点については、日本の場合、雑誌について「読まない」グループの方が「読む」グループよりも得点が高く、それ以外の読み物については、「読む」グループの方が「読まない」グループよりも得点が高かった(本文第2.5.3節参照)。
● コンピュータや携帯電話などオンライン上での読みの活動の種類・頻度については、日本はEメールを読む生徒は多いが、ネット上でのチャットや討論会・フォーラムに参加する生徒は少ない。また、これについて各国の生徒を指標値によって上位から下位まで4群に分け、それぞれの総合読解力の平均得点をみてみると、中上位25%、最上位25%に属する生徒は最下位25%、中下位25%に属する生徒より総合読解力得点が高い傾向がみられた(本文第2.5.4節参照)。
● 幼稚園や保育所での教育歴については、日本の場合、ほとんどの生徒が1年より長く就学前教育を受けていた。また、就学前教育機関における生徒の教育歴別に総合読解力の平均得点をみてみると、日本の場合、1年より長く就学前教育を受けた生徒の総合読解力得点が最も高い。OECD平均では、就学前教育を受けた期間の長い順に得点が高かった(本文第2.5.5節参照)。
・・・しかしながら、読書活動は、あくまで背景にすぎないと私は思う。
なぜならOECD調査の読解力問題は、「読む」だけでなく「自らの意見を述べる」ことまで要求するもので、過去の調査でも「自分の意見表明=読解表現力」の弱さが問われてきた。
毎日、朝読書を15分続けたからといって「読解表現力」の力が向上するとは思えないのだ。
OECD生徒の学習到達度調査(PISA2009)について[髙木文部科学大臣コメント] 平成22年12月7日 が、WEBで見られる。
便宜上、改行を入れる。
http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1299985.htm
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本日、OECD(経済協力開発機構)が2009年に実施したPISA調査(ピザ調査:生徒の学習到達度調査)の調査結果が公表されました。
今回の調査結果によると、
(1)我が国の読解力は前回調査(2006年)と比べて平均得点が統計的に有意に上昇し2000年調査と同水準(上位グループ)まで回復したこと、
(2)数学的リテラシーは前回同様OECD平均より高得点グループに位置したこと、
(3)科学的リテラシーも前回同様上位グループを維持していることが分かりました。
各リテラシーとも前回調査から下位層が減少し上位層が増加しており、読解力を中心に我が国の生徒の学力は改善傾向にあると考えます。
また、生徒に対する質問紙調査からは、2000年調査時点との比較で読書活動が活発化し、読書に対して積極的に取り組む傾向などがみられています。
平成22年6月に閣議決定した「新成長戦略」において、「国際的な学習到達度調査において日本が世界トップレベルの順位となることを目指す。」としているところですが、今回の調査結果から、我が国はその目標に向けて順調に歩みを進めていると考えます。
これは、まず、何よりも生徒本人、家庭、各学校、地方公共団体が一体となって学力向上に取り組まれた成果のあらわれであると考えています。
また、全国学力・学習状況調査の実施(平成19年4月から)とそれを踏まえた取組のほか、「学びのすすめ」(平成14年2月)、学習指導要領の「基準性」の明確化による発展的内容の指導の充実(平成15年12月)、読解力向上プログラム(平成17年12月)などの文部科学省のこれまでの各種政策が一定の効果を挙げたものと認識しています。
一方で、
(1)世界トップレベルの国々と比較すると依然として下位層が多いこと、
(2)読解力は、必要な情報を見つけ出し取り出すことは得意だが、それらの関係性を理解して解釈したり、自らの知識や経験と結び付けたりすることがやや苦手であること、
(3)数学的リテラシーは、OECD平均は上回っているがトップレベルの国々とは差があること、
(4)読書活動も進展したとはいえ諸外国と比べると依然として本を読まない生徒が多いことなどの課題も明らかになっています。
これらの課題に対応するため、文部科学省としては、来年度以降全面実施される新学習指導要領により思考力・判断力・表現力の育成に努めるとともに、35人以下学級実現のため、教職員定数を改善するなど教育条件を整備し、「個に応じた指導」の推進にしっかりと取り組んでまいりたいと考えています。
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・・・・「読解力を中心に我が国の生徒の学力は改善傾向にある」と「読書活動が活発化し、読書に対して積極的に取り組む傾向などがみられています」との考察はあるが、そこに因果関係があるとまで断じてはいない。
だからこそ、先に述べたように「読解力がついてきたから、読書する習慣がついてきた」という逆の見解も可能ではないかと思うのだ。
さて、【学力向上に関するこれまでの施策とPISA2009の結果】には、
○「学びのすすめ」公表(平成14(2002)年1月)
→
①基礎・基本の確実な定着、
②発展的な学習の推進、
③宿題を出すなど家庭学習の充実や、朝読書の推進など
○学習指導要領(平成15(2003)年12月)等の一部改正
→ 子どもの実態に応じた、発展的内容の指導を充実
(「学習指導要領の基準性」を明確化、教科書に「発展的な学習内容」の記述)
○「読解力向上プログラム」策定(平成17(2005)年12月)
→ PISA型「読解力」の育成を目指し、読書活動の充実など、学校、
国・教育委員会での取組を明示。
○「全国学力・学習状況調査」実施(平成19(2007)年4月~)
→ 調査結果等を踏まえた、学校、国・教育委員会での取組による
検証改善サイクルの構築。
とある。
現場の感覚でいうと、読解力向上に寄与したのは
◆2000年から改訂された国語の教科書が、話し合いや発表を重視していたこと
◆総合的な学習の時間や各教科においても話し合いや発表活動が行われるようになったこと
◆学力調査でも「記述問題」が出題され、「記述問題」に対する現場の危機意識が変わってきた。
などであり、「自分の意見を表明する」の実践がようやく実を結びかけてきた点にあると自分は感じている。
いずれにしても、「朝読書を行う学校が増えたから、読解力が向上した」という見解はイージーだと思う。
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