ほめる効用~脳科学と応用行動分析学のアプローチ~
茂木健一郎氏『脳を活かす勉強法』(PHP)の書籍紹介には次のように書いてある。
"喜びを感じることで、「快感」を産み出す脳内物質「ドーパミン」が分泌され、脳はその快感を再現しようとして脳内に新しいシナプス(神経回路網)を形成する。それにより快感を生み出す行動が次第にクセになり、繰り返していくうちにその行動が上達していく…。
これを「強化学習」といいます。"(本文より抜粋)
・・・褒められる快感が、次の行動の刺激になる好循環が「強化学習」である。
「部下の扱いにご注意!ほめないと不機嫌になる女・負けるとヘコみっぱなしの男」と題したコラムの一部にドーパミンとセロトニンの話が出てくる。
http://diamond.jp/series/mf_rules/10017/
内容を私の文責で精選すると次のようになる。
①他人からの称賛、感謝、愛情を受けると、脳の腹側被蓋野(ふくそくひがいや=「報酬系」と呼ばれている部位)などの部分が刺激を受ける。
②ここからドーパミンという快楽を生み出すホルモンが大量に分泌され、気分はハイになる。
③もし、報酬系が刺激されず、ドーパミンが十分に分泌されない生活を送っていたら、頑張ってもご褒美がもらえないことに脳が気づき、だんだんとやる気が失われてしまう。
④ドーパミンがどっと出たあとは、セロトニンもおおいに分泌される。
「セロトニン」は心に安らぎを与えてストレスから守る役目をする別名「幸福ホルモン」。
ドーパミンが快楽を高め、感情をたかぶらせると、セロトニンがドーパミンの暴走を防ぎ、感情を鎮めるアクセルとブレーキのような関係である。
⑤気持が不安定なところへ、報酬系が刺激を受けない状態が続いたら、イライラが募り、気分も落ち込んでしまう。
⑥逆に、「ほめ言葉」によって報酬系の部位が刺激されるとドーパピンが分泌され、同じく心を鎮めるセレトニンが分泌されるので、イライラもせず、ニコニコしていられる。
・・・「褒める」ことの効用を、ドーパミン・セレトニンといった脳科学で説明したのは上記のような記事。
一方、「応用行動分析学」でも「褒める」行為の効用を述べている。
行動の「ABCモデル」について、以下のサイト記事が分かりやすかった。
http://wakuwakubooks.seesaa.net/article/117190300.html
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Aは、Antecedents(誘発要因)
Bは、Behavior(行動)
Cは、Consequences(行動結果)
人が行動を起こす前には、何かしら、その行動を促す事柄やきっかけがあります。
これが「誘発要因」です。
次に、それをきっかけとして、何らかの「行動」が起こります。
その結果、行動者にポジティブな事柄やネガティブな事柄が起こり、行動者は何かを感じることになります。
これを「行動結果」と呼びます。
人間の行動はすべて、このように
「誘発要因→行動→行動結果」
というサイクルに沿って起こるのだそうです。
例えば、「レストランの看板を見て、店に入り、食事をする。値段が手頃でおいしかった」という一連の行動をABCモデルに当てはめると次のようになります。
誘発要因 レストランの看板を見る
→行動 店に入り、食事をする
→行動結果 値段が手頃でおいしかった
このような体験をすると、みなさんどうでしょう。
次にこのレストランの看板を見たときに、「また入ろう」ってなりますよね。
でも、「値段が高くてまずかった」という行動結果であれば、そのレストランの看板を見てもまた入ろうとはしないはずです。
このように、将来、再びその行動が起こるか否か、その可能性を高めたり、減少させたりするのは、「行動結果」によるのです。
ここでもう一度おさらいしておきましょう。
将来の行動の頻度は、行動の前に存在する条件(誘発要因)ではなくその行動の直後に何が起こったのかにより決定される
ここに、最近
”ほめる”
ということが注目されている理由があるんですね。
単に、部下をほめておだてたり、気持ちよくさせるためにほめるのではなく、次の行動を促すためにほめるのです。
これは、子育てでも同じですね。
「宿題しなさい」「~しなさい」
と口うるさく言うよりも(誘発要因)、
「宿題をちゃんとやったり」望ましい行動をしたときにタイミングを逃さずほめてあげることが大切なんですね。
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・・・行動のABCは、ビジネスシーン(マネジメント)でも、大切なポイントとして紹介されている。
次のサイトも分かりやすかった。
http://www.yuasa-keiei.jp/article/13688975.html
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目的Aのために行動Bをしたとき、得られた結果Cが望ましいものであれば、人は行動Bを繰り返すのです。
逆に得られた結果が望ましくないものであれば、行動Bをとらなくなります。
人間とはそういう生き物なのです。
人間に限らず、全ての動物が望ましい結果を得ようとして行動するのです。
このことを踏まえて、企業のマネジメントについて考えてみましょう。
従来のマネジメントでは、行動科学でいうところの「先行条件」重視の発想でした。
目標数値やゴールさえ設定すれば、社員はそこに向かって動いてくれると考えています。
そして、社員が思うように動かないと叱責し罰を与えるということをしてきました。
これは大きな間違いです。
行動科学の観点からみると、最も重要なのは「ABCモデル」でいうところの「結果」なのです。
望ましい結果を得られると学習したとき、人は同じ行動を繰り返そうとするのです。
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http://www.flet.keio.ac.jp/~yamamotj/article%20(J.%20Yamamoto)/OT0908.pdf
では、山本淳一氏(慶應義塾大学文学部心理学専攻教授,文学博士)
が、「応用行動分析学で作業療法が変わる」というテーマで、次のように述べている。
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作業療法において,患者の動機づけと意欲を高め,達成感を増やし,よい行動を引き出し,維持するには,見通しのある先行刺激を与え,最適なヒントや援助を工夫し,少しでもよい行動が出現したら十分ほめられ,よいフィードバックや達成感が得られることを繰り返すことが大切です.
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・・・良い結果を起こし、よい評価(褒め言葉)を得られたら、人はますます、その良い行動を繰り返そうとする。
これが「エラーレスラーニング」と重なることは言うまでもない。
◆将来の行動の頻度は、行動の前に存在する条件(誘発要因)ではなくその行動の直後に何が起こったのかにより決定される
◆目標数値やゴールさえ設定すれば、社員はそこに向かって動いてくれ ると考えています。
そして、社員が思うように動かないと叱責し罰を与えるということをしてきました。
これは大きな間違いです。
行動科学の観点からみると、最も重要なのは「ABCモデル」でいうところの「結果」なのです。
・・・・我々教師の中にも、このような「大きな間違い」が放置されている。
しっかり意識改革していかなくてはならない。
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