夏期研修国語講座(石原千秋著「大学受験のための小説講義」)
市の夏期研修で国語の担当者の1人となった。
自分は、石原千秋著の『大学受験のための小説講義』(ちくま新書)を参考に15分程度のプレゼンをした。
冒頭に選んだフレーズは
<テキストは2度読め>
①「それからどうなるか」という問いに即してストーリー(時間的経過)を読む
②「なぜか」という問いに即してプロット(因果関係)を読む
我々はふだん「このあとどうなるか」のストーリーだけにこだわって小説を読んだりドラマや映画を見たりする。
しかし、作品を読み味わうには「どうしてなんだろう」という問いかけも必要である。
ストーリー(時間的な経緯)を読む方は、答えが確定することが多いから授業もやりやすい。
一方、因果関係を読む方は、答えが確定しないことが多いから、教師も自分の答えに自信がなかったり子供の答えが正しいのかどうか判断に迷うことがあって授業がやりにくいともいえる。
それでも、文学作品を授業するなら、まずは①、続いて②を行うという手順が必要ということになる。
自分の考えに自信がなくても、とりあえず「なぜだろう」に答えてみる。そのような行為を繰り返すことで、教師も子供も読みの力がついていくと考えている。
提示した第2のフレーズ群は次の3点だ。
①小説は書いてないことを読まなくては読んだことにならない
②小説の読解では「想像力」が問題となる
③俗に言う「行間を読むこと」が、小説には求められる
さらに、受験テクニックとしては次のフレーズもあるので提示した。
④気持ちを問う設問は、傍線部前後の状況についての情報処理であることが多い。
①②③だけだと行間読みは「勘や気分」でよいような誤解を生じる。
④が入ると、論理性・論理的整合性が必要であることを伝えた。
この後、仮説推論・三段論法の例を提示し、論理的な読み取りの大切さえを理解してもらったつもり。
1つ目は、シャーロックホームズが、初対面のワトソンが アフガニスタンから来た事を言い当てる場面。
①医者らしいが、軍人の雰囲気をもった男、といえば、軍医ということになる。
②顔は黒いが、手首は白いから、熱帯地方から帰ったのだろう。
③彼のやせこけた顔を見れば、苦労し、病気をしたのはすぐわかる。
④左手の動きがぎこちないところをみると、左腕にけがをしているな。
⑤英国の軍医がこんな目にあう熱帯地方といえばアフガニスタンしかない。
ただし、このホームズの推理も、案外「偶然当たった」の感も否めない。
2つ目は、ごんぎつねの独り言
①兵十のおっかあは、床についていて、うなぎが食べたいと言ったに違いない。
②それで、兵十が、はりきりあみを持ち出したんだ。
③ところが、わしがいたずらをして、うなぎを取ってきてしまった。
④だから、兵十は、おっかあにうなぎを食べさせることができなかった。
⑤そのまま、おっかあは、死んじゃったに違いない。
⑥ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいと思いながら死んだんだろう。
⑦ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。
このごんの懺悔の気持ちは、①の時点で既に「思い込み」に近いから、あとはますます「おもいこみ」がエスカレートしている。極端に言えば「被害妄想」ならぬ「加害妄想」だ。
むろん、この「ごん」の思いは加害者妄想だと推論した自分の解釈も、「妄想」かもしれない。それは、子供たちに問うてみればいい。(会場では、それは「考えすぎだ」という表情の人が多かった)。
◆自分なりの小説の読み方を自覚的に把握するために、小説から取り出した物語を、一つの主語とそれに対応する熟語一つから成る一つの文に要約する練習をしておくといい。
石原氏の書物には引用元は「これは、フランスの批評家ロラン・バルトの<物語は一つの文である>という立場にならって(『物語の構造分析』みすず書房、1979年)」と明記されており、「僕が大学の授業でも実践している方法である。この練習を繰り返すと、学生たちはめきめき力を付ける。」とある。
この場合の「物語」についてはイメージしにくい。
しかし、「主題」と置き換えてみたらすんなり納得できた。
◆自分なりの小説の読み方を自覚的に把握するために、小説から取り出した主題を、一つの主語とそれに対応する熟語一つから成る一つの文に要約する練習をしておくといい。
◆<主題は一つの文である>という立場にならって実践している方法である。この練習を繰り返すと、学生たちはめきめき力を付ける。
「はじめ」と「終わり」によって区切られた出来事をまとめる基本型は二つあるとの指摘もある。
これも、従来実践してきた解法の1つである。。
①「~が~をする物語」(主人公の行動を要約したもの)
例:「メロスが約束を守る物語」「人と人が信頼を回復する物語」
②「~が~になる話」(主人公の変化を要約したもの)
例「メロスが一家の主人として自立する物語」
研修会では、主役の成長にもっとも影響を与える人物としての「対役」の存在を提示した。
◆口先だけで信頼を語るメロスは、デイオニス(あるいは様々ん人に出会って)、信頼を体現する真の勇者になった。
・・・メロスを変えたものは何か?という主発問が成立する。
◆いたずら好きのごんは、兵十に出会って、心の優しいごんに成長する。
・・・・ごんを変えたものは何か(同情か謝罪か)という主発問が成立する。
◆一人前の漁師をめざす太一は、与吉じいさに出会い、村一番の漁師になった。
・・・太一を村一番にしたものは何かという主発問が成立する。
それにしても解釈は不思議なもので
『走れメロス』で言えば、人間不信だった暴君がメロスに出会い信頼を回復する」と言うように主役の入れ替えも考えられる。
『ごんぎつね』で言えば、「兵十に償いの気持ちが通じた話」「通じなかった話」の両方が想定できる。
『海の命』で言えば、太一は「父親の生き方を求めた」「否定した」の両方の解釈ができる。
主題は1つ・解釈は1つに確定すべき場合もあるが、多様に読めばよい場合もある、柔軟な教師のスタンスが必要である、ということで話を終えた。
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Comments
はじめまして。
こういう風にみごとに応用していただけると、嬉しいです。
なお、「主題」は国語教育では「作者の中心的な思想」となってしまいがちですが、私は「解釈の要約」と再定義しています。
Posted by: 千秋楽 | August 07, 2011 02:10 AM
千秋楽さん
わざわざコメントありがとうございます。
「こういうふうに見事に応用していただけると」という文面からは、石原千秋氏ご自身のような気もするのですが・・・。
ところで井関義久氏の「分析批評」では「主題」を
「主材=主な出来事」と「主想=主な思想」とに分けていて、これ重宝しています。これを使うと「戦争」は大概「主材」になります。
また「解読」「解釈」の2つを使い分けるのは鶴田清司氏の書物から学びました。
Posted by: 竹田博之 | August 11, 2011 01:13 AM
HHIS I shulod have thought of that!
Posted by: Cordelia | August 30, 2011 03:36 PM
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Posted by: Bobbye | December 29, 2013 08:47 PM