悪意を感じる文章を分析する
中日新聞(東京新聞)朝刊10月26日(金曜)のコラム記事中日春秋は、石原都知事批判の文章だった。
先日の「週刊朝日」の、ハシシタの特集も悪意が読み取れたが、この石原批判もなかなか下品である。
読解力トレーニングとして、分析してみよう。
http://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2012102...
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森喜朗元首相が産経新聞のインタビューに興味深い内情を暴露していた。
昨年四月の都知事選に出馬する意思のなかった石原慎太郎知事を、前自民党幹事長で長男の伸晃氏と二人で説得したという
▼「ここで降りたら党幹事長でもある伸晃君のためにならない。彼の首相の芽はなくなるよ」。森さんのこの言葉が効いたのだろうか。夜中まで説得して翻意させたという。石原さんは「必ず息子を頼むよ」と言ったそうだ
▼総裁選で森さんが伸晃氏を支持したのには、そんな事情があったらしい。息子が総裁になれなかったことで事情は一変したということだろうか。親バカという「我欲」から四期目の知事選に出馬した石原さんがきのう、任期半ばでの辞職を表明した
▼大津波を「天罰」と表現した(翌日に撤回、陳謝)暴言にもかかわらず、大震災後の強いリーダーを求める都民の強い支持を受け、「東京から国を変える」と胸を張った人は「東京のために国政でやらなければならない」と変心した
▼八十歳という年齢や健康面、橋下徹大阪市長の率いる日本維新の会との連携も視野に入れて、新党結成の最後のチャンスと判断したのだろう
▼突然、言い出した尖閣諸島の都有化によって、結果的に日本経済は巨額の損失をこうむった。憲法の廃棄を訴え、ナショナリズムをあおる石原新党に果たして支持は集まるだろうか。
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まずは産経新聞のインタビュー記事の引用から始まるが、そもそも、これが怪しい。
先日、iPS細胞のねつ造騒ぎがあって、
「裏は取ったのか。事実確認はできているのか」
が問題になった。
じゃあ今回はどうなのだろう。
インタビュー記事で本人がしゃべったから事実とは限らない。
本人のインタビューほど自分に都合のいいように話すことも多いからだ。
森さんが、自分が政界に大きな影響を与えたんだと思わせたくて語っている可能性もなくはないのである。
①石原さんは「必ず息子を頼むよ」と言ったそうだ。
②総裁選で森さんが伸晃氏を支持したのには、そんな事情があったらしい。
③息子が総裁になれなかったことで事情は一変したということだろうか。
①②③の文末「言ったそうだ」「あったらしい」「いうことだろうか」は、確定できない推定の連続である。
これは、伝聞ゆえの責任回避に読める。
しかし、伝聞推定に基づいて、次のように言い切る。
④親バカという「我欲」から四期目の知事選に出馬した石原さん
出た!
①②③が伝聞推定なのに、そこから導いた④の文は「親バカ」「我欲」と断言してしまっている。
そして、「親バカという「我欲」から四期目の知事選に出馬した石原さん」と、悪意に満ちた枕言葉で「石原さん」にマイナスイメージを与えている。
⑤大津波を「天罰」と表現した(翌日に撤回、陳謝)暴言
「天罰」の発言は、文脈の中では震災の被害者に向けた言葉でなかったことは明らかであるが「暴言」と断じている。
きわめて作為的である。
⑥「東京から国を変える」と胸を張った人は「東京のために国政でやらなければならない」と変心した
『変心』[名](スル)考えが変わること。心変わり。「金に目がくらんで―する」
文例をみれば分かるように、「変心」にはマイナスイメージがある。
「決意した・決心した」ではなく「変心した」というところが巧妙である。
⑦突然、言い出した尖閣諸島の都有化によって、結果的に日本経済は巨額の損失をこうむった。
そのような側面もある。しかし、このまま放置して済む問題ではなかった。
尖閣の問題は、石原知事の責任もあるが、野田政権の責任もある。長い間の国全体の責任もある。
その全てを石原氏になすりつけるのは、責任転嫁である。
それに「結果的に日本経済は巨額の損失をこうむった」の「結果」など、正確にはまだ出ていない。
長い目で見たときに、尖閣国有化は日本にとって巨額の利益になるかもしれない。
歴史の審判は10年後・20年後に下されるかもしれないのだ。
⑧憲法の廃棄を訴え、ナショナリズムをあおる石原新党に果たして支持は集まるだろうか。
「憲法の廃棄」には、それなりの正当性がある。
「ナショナリズム」にも、それなりの正当性がある。
どの国家も「国家を守る」を口にするのは当然のことだ。
藤原正彦氏は『国家の品格』で、次のよう述べている。
「政治家とか官僚とか、日本を代表して世界と接する人々は当然、ある程度のナショナリズムを持っていてくれないと困る。 」(P115)。
政治家である石原氏が国益を考える「ナショナリスト」であることは、むしろ当然なのだ。
しかし、「憲法廃棄」「ナショナリズム」のマイナスイメージを利用して石原氏にマイナスイメージを刷りこんでいる。
見事だ。
これほどネガティブキャンペーンをしながら、石原新党に支持が集まった時、コラム担当者はどう弁解するのだろう。
ちなみに、石原知事について、自分はフラットな立場で見ているつもりです。念のため。
※石原氏の「天罰」発言については、以下の背景がある。
http://d.hatena.ne.jp/black-mant/20110315
記者A「最後に石原知事にお伺いします。知事は、今日のですね、蓮舫大臣との会談の後で、日本人の我欲についてお話されて、
『津波をうまく利用して、我欲をうまく洗い流す必要がある。積年にたまった日本人の心の垢を。これはやっぱり天罰だと思う。』
とおっしゃいましたけれども、これは意味はどうあれですね、被災された方にとってはですね、非常に不謹慎な発言だと思いますが…」
石原「いやいや、あの時申し上げた。
『被災された方にはですね非常に無残な言葉に聞こえるかもしれませんが』と言ったじゃないですか。言葉を添えてますよ。」
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