「色彩を持たない 多崎つくると 彼の巡礼の年」
「色彩を持たない
多崎つくると
彼の巡礼の年」
村上春樹の新刊。
これも、とてもよかった。
読みやすく、それでいて奥が深い。
共感できる部分も多々あった。
謎ときのための行動(巡礼)というストーリーも、きわめて明快でよい。
何のとりえもないと卑下していた多崎は、実は周囲からはうらやましがられていた。
拒絶された自分だけが辛いと思っていたら、実はみんなもそれぞれ辛い思いをしていた。
自分以外の4人で仲良く過ごしていると思っていたら、多崎がいなくなってバランスを失っていた。
そのような皮肉(アイロニカル)な状況が、謎解きの過程で明らかになっていく。
まあ、ラストで「?」が残ったものの、1巻で完結していてけるよかった。
ラストも、あれくらいなら読者に委ねてもらってもかまわない。
これで続編待ちとなると、いらいらしてしまう。
でも、ひょっとして、三部作ぐらいになるかもしれない。
灰田の秘密、シロの秘密、沙羅との今後など、続編の要素は山盛りなのだから。
「読みやすい」という印象をもったのは、摩訶不思議な村上ワールドがあまり出てこなかったからだ。
灰田がらみで、父親の話・夢の話・失踪については謎のまま終わってしまったが、それ以外は、常識の範囲でストーリーが理解できた。
その常識さは「ノルウエイの森」程度といったところか。
若き日の友情に対する悔恨、あるいは年をとる分だけ、輝きが失われていく自分に対する悔恨が想起された。
誰だって若いころには多かれ少なかれ「いつまでも続くと信じられた親密な友情関係」がある。
その中には、恋愛感情抜きにキープすることの難しい男女混合グループみたいなものも含まれる。
そのような友人関係の衰退や崩壊は、誰にとっても悲しい思い出である。
自分はどん底に突き落とされるような絶縁を経験したことはない。でも、そのような状況におかれたらどれほど辛いかは想像できる。
傷つきたくないから他人との距離をとる気持ちも痛いほど分かる。
また、若いころは「何でもやってみたい』という可能性に満ちているが、大人になると、その可能性が1つづつ失われていく。
その現実を受け入れるのはすごく悲しいし、若いころ輝いていた友人が平凡になってしまったのを目の当たりにするのも、すごく悲しい。
奥が深いというのは、きらりと光る名文句にあふれていたから。
「ああ、この文章すごいな」「この台詞いいな」という箇所がたくさんあった。
哲学的なもの・人生訓みたいなものもあって、学術的なものか、作者独自の見解か分からない。
完全には理解していないのだが、むしろ、その言葉の難解さにひかれる部分もあった。
特に灰田・沙羅・エリとの会話は実にスマートで知的であった。
そのような知的な会話ができる人間関係をうらやましくも思った。
色彩。
「つくる」という名前。
「駅」の役割
定番ともいえるしゃれた料理や服装の描写。
どれもよかったな。
作品のベースになっている音楽「巡礼の年」を、理解できていたら、もっと作品を味わえたのかなと思う。
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Comments
Thanks designed for sharing such a good idea, paragraph is good, thats why i have read it completely
Posted by: albuquerque nm janitorial service | January 21, 2014 12:39 PM