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May 19, 2013

教師の言語感覚を磨く

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 手元に『語感の辞典』(岩波書店)のまえがきのコピーがある。
 言葉には「意味」だけでなく「語感」がある。類義語を使い分けるセンスの大切さが、このまえがきを読むだけで、よーく分かる。
 意図的に改行・整理して提示してみる。

(1)「あした・あす・明日(みょうにち)」

「あした」は親しい人たちの間の日常会話でふつうに使われる。くだけた感じのことばだ。
「あす」は、それより少し改まった感じがあり、家族や親友などの親しい人に向かって使うと、若干取り澄ました響きがあって水くさい印象を与えかねない。
「明日」はさらに改まった感じが強く、格式ばった雰囲気になる。

(2)「ふくれる・ふくらむ」

「ふくれる」のほうがくだけた感じがいくらか強いことを別にしても、「ふくらむ」が自然に起こる全体的な膨張をさすことが多いのに対し、「ふくれる」はやや不自然で部分的な膨張をさすことが多い。そのため、「ふくらむ」は正常な変化ということから好ましい連想が働きやすく、「ふくれる」は以上な変化を思わせて悪い連想と結びつきやすい。
そのため、事実を伝えるだけの「予算がふくらむ」に比べ、「予算がふくれる」という表現はその膨張を好ましくないと考えているようなニュアンスがともなう。

(3)「休み・休憩・休息・・・・」

「休憩」か「休息」かと迷ったとき、両方やめて「休み」という語で間に合わせれば、そんな微妙な意味の違いに悩まずに済む。
「休み」には「休憩」も「休息」も含まれるから生まれるから、たしかにそれでも間違いではない。
 が、「休み」は、その「休憩」と「休息」だけではなく「休暇」「休日」「休業」から「欠席」「欠勤」「欠場」までを含む広い意味の言葉だ。
 そういう区別をせずに単に「休み」とするのは、松も欅も楓も桜も白樺も無差別に「木」で片付け、小腸と大腸どころか胃も肝臓も膵臓も区別せずに「消化器」で間に合わせるような、そんな粗っぽさで現実を切り取ったことになる。
 目的によってはそれで済む場合もあり、もっときめ細かく表すべき時もある。場面や文脈などに応じて、自分の感覚・感情・認識をどこまで細かくとらえ、それをどれほど忠実に伝えたいかという、その時その場の表現意図に的確に対応する表現を追い求める。

(4)「うれしい・楽しい」
 ほのぼのとした感情が胸に広がるとしよう。
「うれしい」ということばしか頭に浮かばない人はためらわずにそう書く。
「楽しい」という言葉も頭に浮かぶ人はどちらが適切かを考え、好ましいことが起こったのを知った瞬間に始まる喜びであれば「うれしい」を選び、実際の行動をとおして継続的に感じる満ち足りた快さであれば、「楽しい」を選ぶはすだ。ある人はさらに「喜ばしい」「愉快だ」「痛快だ」といったことばを含めた中から最適の一語を探すだろう。同じ「喜び」であっても、その多様なあり方を「わく」「みなぎる」「こみあげる」「ほとばしる」と描き分ける。

(5)その他
 「ごはん」には茶碗、「めし」には丼、「ライス」には平たい皿のイメージがぴったりする。
 「女」は子供でも違和感がないのに、「女性」は大人を、「女子」は比較的若い女性を連想させやすい。
 「工場」も「こうば」と読むと小規模で近代的な設備が備わっていない雰囲気になる。 

 言語感覚の鋭い人は、適切な表現を的確に判断し、きっぱりと最適の一語をしぼりこむ。最適な一語にたどりつく道筋は二つある。
 一方で「意味」の面から、
「人類」「人間」「人」「人物」「人材」、
「宵」「晩」「夜」、
「本降り」「大降り」「土砂降り」「ざあざあ降り」
といった語のそれぞれの違いを明確に識別し、
「ふれる」と「さわる」
「ふくらむ」と「ふくれる」
の微妙なずれを見分ける。
と同時に、他方で「語感」の面から、
「夕方」「夕刻」「夕暮れ」「夕間暮れ」「日暮れ」「たそがれ」、
「妻」「家内」「細君」「かみさん」「ワイフ」「家の者」
といった同義語群からそれぞれの感覚の差を感じとって使い分ける。職人の芸だ。 

・・・「職人の芸」を子供たちに求めることは無理がある。
しかし、子どもたちにも言葉の細部の違いに注目させ、言語感覚を磨くくらいのことは指導していきたい。
「まえがき」には、次のような記述もある。
 (本書は)知らず知らず言語感覚が鍛えられ、いつか日本語を味わう喜びにひたることになれば理想的である。

 日々の国語の授業も、「知らず知らず言語感覚が鍛えられ、いつか日本語を味わう喜びにひたることになれば理想的である」。
 むろん、その大前提は、教師自身が表現の細部に注目できるかどうか、教師自身の言語感覚だ。
あっと驚く発問の着想の秘密は、見開き100問の発問作りという教師修行であり、すべての言葉を辞書で引いてみるという地道な作業である。
 上記の辞書は『語感の辞典』であるが、TOSS推奨の『基礎日本語辞典』(角川書店)も、同義語・類義語の差異を解説した辞書である。 

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May 18, 2013

寝てゐても団扇の動く親心

4月の教え方セミナーの中で、この川柳で、模擬授業があった。

(1)「寝てゐる」のは誰か

 定番の発問は、これである。

 A:親が寝てゐる
  B:子が寝てゐる

というように、答えが2つに分かれて討論が白熱する。

 しかし、よーく考えると、「親が寝てゐる」状況と、「子が寝てゐる」状況は対立しない。

  A:親○ 子×
 B:親× 子○
 C:親○ 子○
 C:親× 子×

の組み合わせを考えれば、Dの「親×子×」を除いて3通り成り立つ。

 A:親が寝てゐる
・・・寝ながら子どものためにうちわを動かしている。

 B:子が寝てゐる
・・・親にあおいでもらっている。

 C:両者寝てゐる
・・・子が寝つくまで、うちわをあおいでいるうちに親も寝てしまった。

 逆に言えば、

◆子どもが寝てゐるかどうかはどちらでもよいが、親は寝てゐる。
自分が寝てしまっても、なお、子どものためにうちわを動かすその姿が「親心」なのだから。

という解釈が成り立つ。

(2)話者は誰か

という発問は聞かれたことも考えたこともなかったが、模擬授業中に考えた。

A:親が自分で「寝てゐても団扇の動く親心」とは語らない。話者は親ではない。

B:第三者が話者なら、「寝てゐても団扇の動く親心」だなあという感慨は成り立つ。

C:起きている子どもが話者なら、寝てしまっても団扇を動かす親の姿をみて「親心」だなあと感慨にふける姿は成り立つ。もちろん、子どもが寝てゐると解釈するなら、子どもは、話者にはならない。

というわけで、(1)を聞かれた時の、自分の意見は、次のようなものだった(ただし、言葉足らずだったので伝わらなかった)。

※誰が「寝てゐる」かは、話者が誰かによって変わってくる。
 話者が子ども(子どもが起きているならば)、「寝てゐる」のは親である。子どもは寝ていない。
 しかし、第三者が話者なら、「寝てゐる」のは、親でも、親子でもよい。
 いずれにしても、少なくとも、親が寝てゐなければ、この川柳の主題には合致しない。

(3)この場面は昼か夜か

 もう20年以上前に、自分が小学校6年生に実践したときの主発問は、これだった。
 季節は夏だから、寝る場面が昼でも夜でも成立すると考え、二者択一で考えさせた。
 話し合いの意見を聞いていると、個々のイメージが分かれていることが明らかになってくる。

・時間帯は、いつか?
・この場合の「親」は、誰のことか?
・子どもは、男か、女か、いくつくらいか?
・子どもは、寝ついたか、寝ついていないか?
・どこで寝ているのか?
・どんな音が聞こえてくるか?

 そのような個々のイメージを確定させて、1つのお話(日記)にしてみようという活動をさせた。
 古い話で、児童の作文例のデータがない。
 たしか『現代教育科学』に書いた。
 GWに実家に探しに行ったのだが、見つからなかった。残念!

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May 14, 2013

全国学力調査 6学年国語Aの【4】問題

 「見れた」「見られた」の使用状況を示した世論調査の結果について答える問題。
 しかし、いきなり「見れた・見られた」の使用状況の表を提示されても、それが「ら抜き言葉」の例示だと分からない児童が多いと思う。
 世論調査の表と年代ごとの考察を元に、

「16さいから60さい以上までの『見られた』と『見れた』のわり合のちがいをまとめると・・・・」

に続けて、40字以上50字以内でまとめる問題がある。

 これは、要約の力が求められる。

 問題中に、次の表記がある。

(1)16さいから19さいまでのわり合では,「見れた」が「見られた」を大きく上回る。

(2) 20代,30代でのわり合においても,16さいから19さいまでのわり合と同じようであることが分かる。

(3) 50代でのわり合は,「見られた」と「見れた」の差が1ポイントで,ほぼ同じである。

(4) 60さい以上でのわり合を比べると,「見られた」が「見れた」を上回る。

 この4つの記載を50字以内にまとめろという設問だ。
 実際に模範解答を見ないで、解いてみた
 まず、4つの年代に分かれた4文を、分布割合で統合させる。

◆16さいから19さいまで・20代,30代でのわり合では,「見れた」が「見られた」を大きく上回る。
◆ 50代でのわり合は,「見られた」と「見れた」の差が1ポイントで,ほぼ同じである。
◆ 60さい以上でのわり合を比べると,「見られた」が「見れた」を上回る。

 次に、各年代を15文字程度に縮めてみる。
◆30代までは,「見れた」が「見られた」を大きく上回る。
◆50代ではほぼ同じである。
◆60さい以上では「見られた」が「見れた」を上回る。

 これでは、50文字超えるので、思い切って50代を切って一文にする。

◆30代までは「見れた」が「見られた」を大きく上回るが、60さい以上では「見られた」が「見れた」を上回る。

・・・これで50文字。ちょっと気になるので削ってみる。

◆30代までは「見れた」が多いが、60さい以上では「見られた」の方が多い。

・・・40字を下回ったので削りすぎで×。

◆30代までは「見れた」が「見られた」より多いが、60さい以上では「見れた」の方が多くなる。42文字
 
・・・こんなところか。

解答を削るのは勇気がいる。
とにかくこの問題を解くカギは大胆な要約力=大胆に削る決断力であると実感する。

さて、模範解答を見る。
 
 「やられた!」

◆年代が上がるにつれて,「見れた」を使うわり合よりも「見られた」を使うわり合が大きくなることが分かる。(五十字)。

・・・「年代が上がるにつれて」という言葉で分布結果をまとめるのは、算数や社会なら容易だが、国語の問題ということで、ためらってしまった。
 英断を下さないと「年代が上がるにつれて」といった文中にない言葉は使えない。

 さらには文末。

「~ことが分かる」とある。
 
 「全体から分かること」のまとめであるから、

「16さいから60さい以上までの『見られた』と『見れた』のわり合のちがいをまとめると・・・・ことが分かる」

というのが、全体構造になる。
 テストの答え方をきちんと指導しろと主張していながら、自分は文末を意識しはなかった。

 
 「年代が上がるにつれて」を使わず、「ことが分かる」でまとめなかった自分の解答は、どう採点されるだろうか。

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May 13, 2013

全国学力調査 6学年国語Aの【3】問題

◆新しく委員になった五年生は、放送機器の使い方が分からなくて不安そうにしていたので、ぼくは、これまでの経験を生かして、いろいろなことを教えてあげたいと思った。

この一文を「だから」を使って、2つに分ける問題。

①新しく委員になった五年生は、放送機器の使い方が分からなくて不安そうにしていた。
②だから、ぼくは、これまでの経験を生かして、いろいろなことを教えてあげたいと思った。

このように、複文を2つの単文に直す作業。
あるいは、2つの単文を複文にする作業。

ごくごく簡単な問題だが、授業の中で、このような活動(訓練)をきちんとしているだろうか。

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May 12, 2013

5月9日は日章丸事件の記念日

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5月9日の新聞に一面広告が掲載された。

60年前の今日。
日章丸は、
この国の未来を運んだ。

という見出し。

http://www.idemitsu.co.jp/gallery/newspaper130509.html

1953年5月9日。「出光の石油タンカー日章丸が、川崎港に帰港した」
というニュースが、世界中で報じられました。
それは、石油資源の国有化を宣言したイランから直接石油を輸入するという、
当時世界の石油市場を支配していたメジャーへの挑戦でした。
歴史に残るこの「日章丸事件」は、
敗戦から立ち上がろうとする多くの日本人を勇気づけるとともに、
今日の産油国との直接取引につながる大きな一歩となりました。
「人の力を信じ、世のためになる仕事をする。」
創業者・出光佐三の信念は、変わることのない出光人の信念です。
私たちはこの国のこれからを、エネルギーで支えてゆきます。

日章丸事件をモデルにした本屋大賞作品に一切触れることのない広告。
この潔さが「出光」のイズムなのか。

さて、我々は職業を選ぶ時の基準が
自分の長所や専門性の発露だったり
金銭面の待遇だったり、
将来性・安定性だったりする。

しかし、それと同じ土俵に

「人に役に立ちたい」

がある。

自分は自分の職業で

「人の力を信じ、世のためになる仕事をする。」

を貫いていきたいと思う。

※久しぶりに「舟を編む」の辞書編纂のあくなき追求の様子を読んで、あらためて一途に仕事することの尊さに打たれてしまった。
「世のためになる仕事をする」という点では、両者は同じなのである。

詳細は「海賊と呼ばれた男」の読書記録
http://take-t.cocolog-nifty.com/kasugai/2012/12/post-ad50.html

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