ワイドショーのネタは、「日本的モラリズム」の典型
昨日・今日と、万引き犯のビデオ写真を公開するかどうかが話題になっていた。
ビデオ写真の公開が違法なら批判すればよい、違法でないなら店主の自由意思に任せるしかない、責任は店主がとればよいのであって他人がとやかくいう筋合いではない。
そんなことを感じたのは、岡本薫氏の言説を学んだからだ。
先日のワイドショーでは、海水浴場周辺での若者のマナーの悪さを扱っていた。
水着や裸足のままでコンビニに入ったり、タクシーに乗ろうとしたり、電車に乗ろうとしたりする。駅のトイレで体を洗おうとしたり着替えようとしたりする。
「迷惑ですね」「ひどいですね」というトーンのコメンテーターたち。
しかし、「商売だから強く言えない」「今のところ条例として規制する方針はない」と当事者たちは静観していると言う。
「条例で規制する気がないなら、どうしようもないじゃん」というのが、ルール中心の世の中の限界である。
迷惑だと思う店舗がそれぞれ「水着お断り・裸足お断り」と明記すればよい。自分の店舗だけ禁止にすると角が立つから、商店街でまとめてルールを作ってほしいというなら、そのように動けばよい。
「困ってます」と言いながら、何の手も打たず、商品を売っているなら、結局、お客さんの確保・利益の確保を優先しているのだということになる。
そんなことを感じたのは、岡本氏の言説を学んだからだ。
岡本薫氏の「日本を滅ぼす教育論議」(講談社現代新書)は読んだはずであったが、熟読していなかった。というよりも、自分のアンテナが低くて、読み取れなかったのだ。
この夏、岡本氏の「世間さまが許さない!~『日本的モラリズムと』対『自由と民主主義』~」(ちくま書房)を読んだ。
感服したことの一部が、「日本を~」にもきちんと書かれていたことが、再読してよく分かった。
さて、岡本氏は次のように述べる。
◆ 一方で「個性化・多様化」を推進しておきながら、他方で「ある特定のものを大切にするという心」を「一律に育てる」というのは、矛盾している、こうしたところにも、タテマエでは「個性化・多様化」を唱えつつ、心の底では無意識に「同じ心」による「一律」を目指してしまう日本人の特性が、よく表れている。
(中略)
したがってまずなすべきことは、「○○を大切にする心の教育」の「追加」ではなく、「行動」について、「ルールは守らなければならない」という「すべての人々に共通すること」を教えることである。
(「日本を滅ぼす教育論議」P116~117)
◆ 「自由と民主主義」の国では、言うまでもなくすべての人に自由が保障されている。39ページに示したように、人の「内心」は常に自由であり、また、ルール違反でない限り人の「行動」も自由だ。さらに言えば、人はあえてルール違反の行動をすることもあるが、その場合には、罰則が待っているだけだ。ルール違反の行動によって被害を受けた人もまた自由なので、警察に訴える自由もあるし、訴えない自由もある。訴えた場合も訴えない場合も、それなりのコスト(失うもの)は覚悟しなければならないだろう。自由を失う代償は、自分で支払わなければならない。
(中略)
大人が「ルール違反を罰するシステム」を使おうとせず、自分の「モラル感覚」を基準にモンクだけを言い続けている・・という問題は、国際的な規模で起こっている。
(中略)
まず第一の混乱の「原因」について言えば、その本質は、繰り返し述べてきたように、「自由と民主主義」や「個性化・多様化」によって人々の「同質性」が破壊され、「世間様のモラル基準」が機能しなくなったことにある。
しかし多くの日本人は、さまざまな社会的混乱の原因を、「モラルの低下」だと勘違いしているのだ。人々のモラル感覚は、「低下」したのではなく、単に「バラけた」だけなのである。そもそも「自由化」「個性化」「多様化」などといったことを意図的に進めておきながら、「それはモラル感覚がバラけているのておきながら、「それはモラル感覚がバラけるという結果も招くのだ」ということに気づいていないのが不思議だが、あくまでも「モラル感覚(心)はひとつ」という「同質性」を信じぬくのが「日本的モラリズム」の特性である。
(「世間さまが許さない!」P187~193)
・・・個性化・多様化教育と心の教育・モラル教育を同時に進めるのは「アクセルとブレーキを同時に踏む」(P199)ようなものだという指摘にも、納得した。
とにかく、この2冊をきちんと読みこんで、学校ができる「心の教育」、学校がすべき「心の教育」について、しっかり自覚したい。
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