「海の命」の教材分析
久しぶりにお会いした佐藤洋一先生(愛知教育大学)から、「海の命」の教材分析の新しい視点をいただいた。
➀冒頭部には、時・人・場の設定が書かれていない。
現代小説の冒頭は、場面設定でなく、メッセージ性が高い。
「父もその父も、その先ずっと顔も知らない父親たち」と男しか登場しないことに、まず疑問を持たせたい。
このお話は、基本的に「男の話」なのだ。
父親たちが住んでいた海に「住んでいた」というには特異な表現であるから、ここも疑問を持たせたい。
たしかに、小学校教科書であったとしても、冒頭部で「いつ・どこで・だれが」が明確な作品なんでない。
その代わりにあるのが「メッセ―ジ」か。意識して見てみよう。
②海の2面性は「めぐみ」と「脅威」
③「海の命」の2面性は「少年の成長」と「自然への畏怖」
④「村一番の評価」の2面性は、「クエを獲ること」と「クエを獲らないこと」
⑤結婚(子孫の繁栄)は、成長物語の結末の典型
⑥「思い込み」には邪悪な思い込みと好奇の思い込みがある。
⑦色にも意味がある。「緑の目」は邪悪、「青の目」は幸福や愛情。ロイヤルブルーはイギリスの高貴な色。
といった指摘の中でも、一番の収穫は、クライマックス場面の「クエをとらない」意味について
⑧本当に一人前になるとは、自分が判断を下すこと・自立すること
お父や与吉じいさの教えに従うのではなく自分で意思決定することが真の自立。
太一は迷った末に、自分としての決断を下した。
それこそが、この作品の「太一の成長」なのだ。
そして
⑨現代小説である「海の命」は、複数の読みができる仕掛けがある。
だから、教師の1つの読みを押し付けると、読みの鋭い子が納得しないことがある。
むろん、このような教材分析と授業の組み立ては別物。
こうしたヒントを元に、どう授業を展開するかを考えるには大学教授でなく、教師の仕事である。
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