授業の名人と言われた有田和正氏が、「湾岸戦争」を授業で扱ったのが1991年。
『社会科教育』91年8月臨時増刊号(明治図書)は圧巻の授業記録集である。
「憲法第九条」の授業では、憲法第九条の解釈がどう変わってきたか、1946年の吉田茂総理からマッカーサー元帥・参議院本会議・田中角栄・中曽根康弘総理などを経て、1990年の海部俊樹総理までの発言を一覧にした資料を提示して子どもに考えさせている。
憲法九条の解釈は、自衛隊の解釈でもある。
授業では
「自衛隊は違憲か?」
「なぜこんなあいまいな憲法を作ったのか」
も問われている。
シールズの学生たちも、ぜひ、この問いに答えてみてほしい。
そして、
○「戦後46年」と湾岸戦争
○「戦後46年」平和であったわけ
○「国際連合」は役に立っているか
○国連の働きと戦争
○「国際連合は必要か」の授業
と授業が続く。
授業者である有田氏の指導方針は、次のように示されており、思想の押し付けにならないよう配慮している。
◆できる限りのデータや資料を提示して、子ども自身に判断させるようにする。
子どもが自分で調べて判断する力があればよいが、なければ教師の価値判断をおしつけることになりかねない。
わたしの社会科は、「結論は、子どもが調べて出す」ということに徹してきたので、時事問題もあつかえる状況になってきた。
(前掲書P9)
有田学級の子供たちは帰宅後も徹底的に調べ、自分なりの結論を出している(今のようにネットからのコピペができない時代です)。
◆自分たちが平和になろうとしても、むこうの国の人たちが、そういう考えをもってなくて、私たちにせめてきたら、この憲法ではたたかえないので、やられてしまいます。
(中略)日本だけでなく、他の国も協力しなくては、この憲法は達成できないのではないでしょうか?
◆自衛隊の軍備は防衛のためにつくられていて、海外での作戦行動は考えられていません。あくまでも、侵略から国を守るというように形成されているから、憲法違反ではないと思います。
◆自衛隊をおくことじたい、違反ではないでしょうか。防衛、自衛のための軍隊なら良い、という意見も出ましたが、わたくしたちの憲法によると、九条は、軍隊をおかない・・ということも書いてあったので、自衛隊を派遣どころか、おくことすらも、いけないことだと思います。
◆「(日本は)多国籍軍側についているということは戦争に加わっているということ」
◆「第九条がなければ、日本は絶対に参戦していると思う」
◆「国連に加盟している日本は、国連側というか、多国籍軍側に味方するのが当然」
◆「戦争を完全になくすこというのは、多分、不可能だと思う。安全保障委員会がいくらがんばったって。」
◆「相手の国も領土を広げてお金を増やしたいとか、石油を掘りたいとか、そういうことを考えて戦争をしかけたでしょう。だから人間の欲望というのが消えない限り、戦争はなくならないと思う」
◆「誰が何と言おうと国連が『駄目!』と言ったら駄目だというほどの力を持っていないから戦争が起こるのです」
など、現実味のある意見(判断)を述べている。
授業を参観した角谷京一氏は、次のように言う。
◆口先だけで「戦争反対」を唱える人々よりも地面に足がついている子供たちは、本当は「戦争なんかいやだ、絶対にやるもんか」と言いたいのに、現実を見るとためらってしまうのではないか、と私に考えさせるほどにすごい子供たちなのである。その子供たちを育てたのが有田先生なのである。
藤岡信勝氏は、同書の中で、「湾岸戦争」が起きた当時の状況を、次のように述べている。
◆平和を高唱して誰からも文句をつけられない時期は幸せだった。日本人の多くが憲法第九条の理想主義をよりどころに心情的平和主義にどっぷりとつかり切っていることができた。1990年8月2日以降は、この心情的平和主義の正当性は無残に打ち砕かれてしまった。
・・・湾岸戦争では、国際秩序の維持のために負担の分担が日本にも求められた。
兵を出さずにお金ですませたと批判も起きた。
これが、25年前の出来事である。
あらためて、当時のことを思い出してみると、PKO法案に対する反対デモが、あの頃もあった。
小牧の自衛隊基地の付近には、警察が詰め所があったし、ピーク時は付近の道路で検問もあった。
実際に戦争が起き、我が国がどこまで兵を出すかお金を出すかと大騒ぎしたのだから、PKO法案の通過の賛否については、今より切実だった。
今回の安保法案が「戦後の安全保障の大きな転換」という意見もあるが、「湾岸戦争」が「大きな転換」であったと思う。藤岡氏の言う「心情的平和主義」の崩壊である。
集団的自衛権について、急に議論になったという意見もあるが、「湾岸戦争」以後、25年間、この国が背負っていた問題であると思う。
湾岸戦争を知らないシールズの学生には、この25年間の経緯をぜひ調べてみてほしい。

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