« お手伝いする子は、成績もよい | Main | 説得の2方向~ダブルスタンダード~ »

December 23, 2015

実践的知能(機知)は、家庭で育まれる

Tensai_2
 「天才! 成功する人々の法則 (講談社)マルコム・グラッドウェル

 Amazonの書評を見ると、訳者である勝間和代氏に対して手厳しい。
 確かに「天才」に興味を持って手にした本だが、原題は「アウトライアーズ=統計において他の値から大きく外れた人たち」である。
 内容が「天才」についての記載が多いかと思うと、そうではない。落胆する人がいても不思議ではない。
 まあ、そうだとしても、面白い1冊だった。
 「好機」
 「一万時間の法則」
 「航空機事故の民族的法則」
 「水田がつくる文化の精神」
など、いろんな章が役に立った。2009年発行だが、これまで目にする機会がなかった。ビジネス書のコーナーのチェックが甘かった。

 中でも、このところ、何度か書いている「非認知スキル」と同義なのかなと感じたのが、「実践的知能」だ。

=================
教授連中を言いくるめて殺人容疑を切り抜ける、あるいは指導教官を説得して午前のクラスを午後に変更する。
このような技術を、アメリカの心理学者ロバート・スタンバークは、”実践的知能”と呼んだ。
スタンバーグによれば、実践的知能には「誰に何を言うかを理解し、どのタイミングで言うか、そして、どのように言えば最大の効果があるかも承知している」ことも含まれる。
いわゆる”物事の進め方”だ。(中略)
 すなわち、知識のための知能ではない。状況を正しく読み、自分の望みを手に入れるための知能である。
そして、IQで測られる分析能力の類いとは決定的に区別される。
専門用語を使えば、一般的知能と実践的知能は”直角”の関係だ。つまり正反対ではないがまったく異なる。
一方があるからといって、もう一方があるとは限らない。
(中略)では、実践的知能はどこから生まれるのだろう?分析的知能がどこから生まれるかはわかっている。少なくとも一部は遺伝子からだ。ランガンは生まれつき頭がいい。IQとは、ある程度まで、もって生まれた能力だ。ところが、実社会で役立つ機知は知識である。習得すべき技術なのだ。
そのような態度や技術はどこかで身につけなければならないが、それらが身につくと考えられる場所は家庭である。P116~117
====================

 「原爆の父」と呼ばれたオッペンハイマーと、並外れた知能の凡人クリス・ランガンの差は、「自分の望みを周囲から引き出す、機知ともいうべき能力を備えていたから」であり、それは家庭環境・家庭教育の差であったと結論づける。
 学校だけに我が子の将来を託してはいけない。
 家庭は家庭のすべき役割を果たしていく必要がある。

 このような家庭の責務を書いた箇所がある。
 一部A・Bと表記して引用する。P118~119
====================
 【A】の親業のスタイルを、”共同育成”と名づける。【A】の親は積極的に”子どもの才能や考えや技能を育み、評価”しようとする。
一方、【B】の親は、”自然な成長による結果”を待つ戦略傾向にある。
【B】の親は子どもの面倒を見る責任は認めるが、子どもに自由に成長させ、子ども自身の発達に任せる。
 ラローは、どちらが勝っているわけではないと強調する。(中略)
だが、実際問題、共同育成には大きな優位点がある。
予定の詰まった【A】の子どもたちは、多様な体験の機会を次々に与えられる。
組織の中でチームワークと対処法を学ぶ。大人とよく会話する方法や、必要に応じて自分の考えを相手に伝える方法を覚える。
 ラローの言葉を借りれば、【A】の子どもは、”権利”意識を身につけるのだ。
======================

 およそ察しが付くと思うが

A=中産階級、B=貧困家庭

が入る。
 確かに日本でも東大入学者の保護者の年収の高さが話題になる。
 ただ、学校関係者としてフォローするなら、収入の問題としてとらえるのではなく、

A=豊かな心の保護者(子どものために協力を惜しまない保護者)
B=無関心な保護者(多忙な保護者・お金だけで解決する保護者)

になると思う。
 裕福な家庭が、子どもの要求のままにゲームさせ放題・テレビ見放題であるならば、それは精神的な貧困家庭と言わざるを得ない。
 むろん、それは保護者の教育度の差ということかもしれない。

=================
 それは文化的な優位点だ。
アレックスがそのような技術を持つのは、短い人生の間に、アレックスの両親が、高い教育を受けた家庭のやり方で労を惜しまず教えてきたからだ。
促し、励まし、勇気づけ、ゲームのルールを教え、病院に向う車の中でちょっとしたリハーサルまでやってみせる。
 これこそが主に階級の持つ優位点だ、とラローは指摘する。
アレックスはケイテイより幸せだ。
アレックスのほうが裕福だから。
いい学校に通っているから。
だが、同時に、そしておそらく何より重要なことに、アレックスが教わった権利意識が
現代社会で成功するためには好都合な態度だからだ。 P125
======================
 日本は、外国ほどの階級社会ではない。
 どのような保護者だって
 「労を惜しまず教え、促し、励まし、勇気づけ、ゲームのルールを教え、病院に向う車の中でちょっとしたリハーサルまでやってみせる」ことはできる。
 そのようなことを教わらなくても、無意識に行っている保護者も多い。
 マニュアルにあるから実行する保護者よりも、無意識に実行できている保護者の方が、「精神的に裕福な家庭」なのだと言いたい。

 P118には、次のようにある。

============
 裕福な家庭の親は、子どもの自由時間に深く関与し、さまざまな活動で我が子を送り迎えし、子どもに教師や監督やチームメイトについて頻繁に質問する。ラローが調査したある裕福な家庭の子どもは、バスケットボールチーム、ふたつのサッカーチーム、スイミングチーム、夏期のバスケットボールチームに参加していた上に、オーケストラでも活動し、ピアノのレッスンまで受けていた。
============

 一読すると、子どもにお金をつぎこんで、いろんなお膳立てをすることが、すごくよい行為のようにも思える。
 しかし、本人自身の動機付けがないと、成果は表れない。

◆なぜなら、脳が喜びを感じうためには「矯正されたものではない」ことが大事だからです。何をするにしても「自分が選んでいる」という感覚こそが、教科学習に欠かせません。
 「脳を活かす勉強法」(茂木健一郎PHP)P27

 多種多様な機会を与えることはすばらしいが、本人の興味を無視して無理やり押し付けているのだとしたら、、「心の貧しい保護者」の範疇ではないだろうか。

|

« お手伝いする子は、成績もよい | Main | 説得の2方向~ダブルスタンダード~ »

教育」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 実践的知能(機知)は、家庭で育まれる:

« お手伝いする子は、成績もよい | Main | 説得の2方向~ダブルスタンダード~ »