「好きなことだけやればいい」 中村修二
「好きなことだけやればいい 」 中村修二著 バジリコ 2002年発行
挑発的なタイトルだから問題提起ができるのだろう。
日米の学生の比較も、説得力がある。
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◆米国の学生たちは自分が専攻している分野が大好きだから勉強に励む。
好きだから一一生懸命やる。がんばって勉強するから実力がつく。
つまり、(中略)自分が勉強してきた分野で実践的で有効なスキルを身につけているのが米国の学生なのである。P31
◆日本の大学入試には減点方式が多い。今でこそ一芸入試などがあるが、センター入試も含め、ほとんどが減点タイプだ。百点なら百点という上限があり、ミスをするたびにそこから点数が引かれていく。
こうした方法だと当然、なるべくミスをしないのが成功への近道となる。どこからなにが出るかわからない広範な試験範囲をすべて網羅して暗記し、ケアレスミスも含め、失敗しないように用心しつつ試験にそなえなければならない。
つまり、減点方式というんは、悪くいえば、上の思惑ばかり先回りして考え、石橋を叩いて渡るタイプの冷血人間が得意とするテストなのである。こうしたテストによって選ばれた日本の受検秀才というのは、保守的で独善的な日和見主義者がほとんどだ。日本の政治や行政のトップが、いくら改革改革と叫んでもいっこうに進む気配が見えないのは、こうした人間ばかり集まっているからかもしれない(P39~40)
◆日米の学生で、もっとも大きな違いは自信だろう。日本の学生は自分に自信がない。だから大企業や役所に入ろうとする。一方、米国の大学生は自信たっぷりだ。ベンチャーを起業し、社長になって金儲けすることを目指せるだけのものを自分で持っている。
米国の学生の、この自信の源泉はいったいどこにあるのだろう。
つまるところ、大学教育の内容や質にあると私は考えている。米国の大学は入るのは比較的簡単だが、卒業するのは非常に難しい。大学時代、必死に勉強しなければ卒業できない。だから、卒業の時点で大きな自信がつく。
教授たちの多くも企業からの転職者だ。実際に自分でベンチャー企業を起こした人間もたくさんいる。教える側の、こうした生の体験が学生たちに影響を与えないはずはない。その結果、大学や大学院で過ごす間、日米の学生たちは子どもと大人くらいの差がついてしまうのである。(160・161)
◆日本では、いい大学に入ること自体が目的になっている。自分の好きなことややりたいことをもっと勉強したいから大学に行くのではない。自分が大学でなにを勉強したいか、あまりよく考えないまま入るから、大学に入った途端、人生の目的を見失ってしまうことも多い。目的がないから、勉強もせずに遊んだりバイトに精を出したりする。
本来なら専門知識をしっかり身につけて大学を卒業するのだが、遊んでばかりいるから社会に出てもまるで使い物にならない。自分たちに実力がないことがわかっているから、学生たちも自信がない。
つまり日本の教育は、自信のない若者を大量に作り出すシステムというわけだ、自信ない人間は、寄らば大樹の陰的な生き方しかできない。
(中略)私は、こうした元凶のほとんどは大学受験にあると思っている。 (195・196)
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・・・受験制度の問題に触れないわけにはいかないが、現状の受験体制で我慢している若者に「好きなことだけすればいい」と主張しても、どうしていいか困惑させてしまう。
中村氏のポジテイブな主張には賛同するが、たとえば、次のようなくだりで引っかかってしまう。
◆小さい子どものほとんどは勉強が嫌いだ。マンガを見たりゲームをしたり友達と遊んだりするほうが、よっぽど楽しいし好きなことである。そのうち勉強がおもしろくなる子どももいるし、絵を描いたり、ゲームが得意になる子どももいる。そのときそのときで好きな対象は変化する。それでも全然かまわない。好きなことは変化することが多いのだ。(P205)
・・・「小さい子どものほとんどは勉強が嫌いだ」「嫌いなものはやらなくていい」
となれば、子どもは永遠に勉強をしなくていいことになる。
しかし、中村氏も言うとおり、「そのうち勉強がおもしろくなる子もいる」のは、
◆嫌でもやらされているうちにおもしろさが分かるようになったか
◆おもしろさが分かるように授業の工夫や支援の工夫があったか
なのである。
だから、教師は「楽しくなければ授業はない」というくらいの覚悟で授業を創る。
実際には、そんなに毎日毎日楽しい授業にはならないかもしれない。
しかし、めざす方向としては、楽しい授業=知的好奇心を喚起できる授業をめざす。
無理矢理教え込んだって、いずれそのような知識は、はがれ落ちてしまうからだ。
身につく知識は、知的好奇心の喚起によって印象づけられたエピソードや経験なのである。
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