『渡辺崋山』 ドナルド・キーン(新潮社)
先のブログの延長で、『渡辺崋山』を読んだ。
渡辺崋山の面白さは、幕末の知識人の置かれた立場の面白さにある。
主君に忠実な儒学を学んできた崋山は、家老職で海防策を担当し、鎖国を擁護する立場である。
しかし、西洋事情を研究していく中で、列強の最新の動向を知り、鎖国体制の限界に気づいてしまう。
そもそも、昌平坂学問所の儒官(総長)の佐藤一斎自身が、朱子学だけでなく陽明学まで及んだ先見的な人物で、一斎の膝下から育った弟子が佐久間象山、渡辺崋山ら幕末に活躍した英才であった
崋山も幕府を擁護する立場にありながら、幕藩体制の行き詰まりが予見できてしまった知識人たちの1人であった。幕藩体制の批判をしたとして「蛮社の獄」でとらえられてしまったが、開国の動きは、もはや止めようがなかった。
もちろん、家老職にありながら、絵画の世界に通じ、その道を究めようとしていた点も面白い。
生計を立てるために、絵画を描く必要があった点にも悲哀を感じるが、
蟄居の身にありながら絵画を描き続けたことを咎められたとして、藩主に迷惑が及ばないよう自決した点にも哀しい。
ドナルド・キーンは、開国の先駆けというよりは、画家としての業績のすばらしさを中心に書いているようにも読めた。
また、当然ながら、重要資料は江戸時代の「古文」である。
古文を提示し、合わせて現代語訳も提示している。
自分自身も、原文で理解できる日本人でありたいとつくづく思った。
本人の刊行インタビューがネットで見られる。読後にこれを読むと、納得することが多い。
http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/331707.html
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