向山洋一先生の学級開きの準備
向山洋一全集④「最初の三日間で学級を組織する」を読み返し、教え方セミナーの準備をしている。
1年生を受け持つことになった向山先生の動きが詳細に書かれているが、その知的探求の過程がすごい。
【場面1】
鏡・ロッカー・窓・壁面・黒板・背面黒板・スクリーン・電灯スイッチなどの高さを測定し、子どもの目線で確認し、他教室と比較して、どの高さが1年生に適切かを検討している。
➀『高さ』に疑問をもつ
→②いろんな場所の高さを実際に測ってみる
→③比べる
→④考察を加える
まさに1人アクテイブラーニングだ。
確かに一度追究心に火が着いたら、どこまでもやりたくなってくるテーマだ。法令による建築基準・高さ基準なども調べたくなってくる。
ここでは向山先生ご自身が測定されているが、中学年・高学年なら子どもたちに調べさせてみても熱中できる課題だ。
【場面2】
最初に何をさせるかで、候補を挙げてはシュミレーションして断念している。
その繰り返しで、入学式前日は心配で寝つかれなくなってしまったと述べるくだりがある。
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たとえば、トイレに行かせる時の言葉である「トイレに行きたい子、先生についていらっしゃい」でいいのか?「行きたい人」なんていうと「見学したい」子もついてきてしまうのではないか?「おしっこがしたい子」と言ったらいいのか、でも「うんち」がしたい子もいるかもしれない。では「おしっこやうんちがしたい子」と言うのか、これだと、教室の空気が崩れてしまい気がする。私は、このような「言葉の選択」に迷う。(中略)
というように「トイレに行かせる」というところだけで、延々と難問・奇問が続出するのである。日頃考えたこともない問題が生まれ、この場合問題を作った本人である私が解かねばならず、夜中にゴソゴソ起きて本を調べたり、ノートに整理したりして、いっこうに眠りにつけないのである。
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➀難問・奇問を自分で列挙する。
→②日頃考えたこともない問題が生まれる
→③自分で解くために、本を調べ、ノートに整理する。
というのも、一種のアクテイブラーニングだ。
たった1つの言葉にもこだわるから、何度言ってもぶれのない言葉が確定する。
「神は底部に宿り給う」というのは、まさにこのことだ。向山先生の「発問の吟味」の仕方がよく分かる。
何をさせるかも大事だが、「何と言うか」も大事だ。
アマ教師は、「ここでトイレに行かせる」など、やるべき内容を決めたら、それで満足してしまう。
その時、何と言ってトイレに行かせるか、1つ1つの教師の行動について「何と言うか」を確定しなければ指示がぶれ、子どもの混乱を招く。
そこまで確定してこそプロ教師だ。
【場面3】
「名前を読んで返事をさせる」という場面設定でも思考活動が繰り返される。
➀名前を呼んだら「はい」だけ言わせる。
・・・・味もそっけもないので修正
②子どもが「はい」と言ったら、教師が「いい返事だね」と添える。
・・・全員に「いい返事だね」と評価していくのは、少し無理が生じてくるので捨てる。
③子どもが「はい」と言ったら、教師が一言添える。
・・・その子にあった言葉を一人ももらさずかける自信がないので捨てる。
④子どもに何か一言を言わせる。
・・・緊張した中で他の言葉が言えるはずがない。一年生には酷な方法なので捨てる。
⑤基本方針が浮かび上がってくる
一子どもが返事をする 二 返事以外に子どもが何か一言いう 三 教師とふれあいを作れる
⑥子どもに「はい、向山先生」と言わせる。
・・・これなら、どの子もできる。
自分でプランを立てたら、とことん吟味し、欠点があれば別の案を考えていく。
すばらしい知的作業である。
しかも、修正プランを練る中で、⑤のように基本方針が明確になっていく。
「そもそも、この場で必要なことは何か」が明確になったから、修正案の内容も研ぎすまされていくのだ。
「危険だなと思える時は危険は生じる」と修正案を自分で却下していく姿勢は、見事な危機管理の鉄則である。
とりあえず思いついたプランをやってみるというイージーな取り組みとは全く違う。
向山先生の授業作り=発問づくりの神髄が垣間見える。
何度もシュミレートとして、危険な選択肢の排除を繰り返すのだ。
「捨てる」
実際の授業行為や指導言を確定するまでに、いくつの案を捨ててきたか。
捨てた数だけ、授業が洗練し、子どもの混乱が回避される。
向山先生でさえ、ここまで吟味して言葉を選び、授業行為を選んでいる。
それに比べて自分はどうかを反省せざるを得ない。
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