天童荒太「ムーンナイトダイバー」
さすが「悼む人」を書いた天童氏。
津波に飲み込まれた被災地の人々に対する追悼の意識が強くにじみ出た一冊だった。
いとうせいこう氏の『想像ラジオ』もよかったが、こちらもよかった。
◆ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが… 311後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作誕生。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163903927
ネタバレを気にすると、なかなか自分の思いが表せない。
何度も海に潜る舟作。「3度目に事件が起こる・急展開を見せる」といったエンターテイメントの鉄則を考えると後半は何が起こるのか、読み進めるほどに心配で心配で仕方なかった。
無理を押して夜の海に潜る舟作の身に何が起こるのか、本当にラストまで生きられるのか。
そのような海の中で起きた出来事。
P226は、まさにクライマックスとなる圧巻の描写だった。
引用したくなる見事な箇所、つまり読みながら泣いてしまった部分は、例えば以下の箇所。
◆義兄が亡くなり舟作が生き残ったことになったことに「ごめんなさい」と「ありがとう」を繰り返す妻の満江の言葉(P138)。まさに、「サバイバーズ・ギルト」の心境を表現している。
「サバイバーズ・ギルト」=事故や天災などで生き残った人が、周囲が亡くなってしまったのに自分だけ生き延びたことに対して感じてしまう罪の意識に苦しむ人々のことだと知ったのは、読後のことだ。しかし、この言葉を知って、なるほど登場人物もサバイバーズギルトなら、こうして読書している自分もサバイバーズギルトなのかと納得した。「悼む人」は「サバイバーズギルト」なのだ。
◆義兄の娘である真由子が、津波で亡くなったのが「お父さんでよかった」と涙を流すシーン(P148)も感動的だった。生き残った者が、なぜ、こんなにも苦しい思いをしなければならないのだろうか。
◆そして、舟作が子どもたちに語った「海賊」の話(P214)。
どうして、こんな純粋な話が作れるのかと、天童氏の才能をすごいと思った。
この意味深な「海賊」の話があって、いよいよ最後のムーンライトダイブのシーン。
舟作が無事生還するのかが、当然気になってくる。見事な展開なのだ。
・・・それにしても、福島を舞台にした本書を読み終えて「熊本地震」。
熊本で被災された方のことを思わずにはいられなかった。
「想像ラジオ」の感想
http://take-t.cocolog-nifty.com/kasugai/2013/09/post-047d.html
「悼む人」の感想
http://take-t.cocolog-nifty.com/kasugai/2012/02/post-42f5.html
天童荒太氏のインタビュー
http://www.news-postseven.com/archives/20160225_387194.html
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