1、インターフェイス
オズボーン氏の論文「雇用の未来」によると、教員は、「コンピュータに代替えされにくい職業」に該当されている。
◆コンピューターに代替されにくい仕事 オズボーンの論文「雇用の未来」より
・レクリエーションセラピスト・最前線のメカニック、修理工
・緊急事態の管理監督者・メンタルヘルスと薬物利用者サポート
・聴覚医療従事者・ 作業療法士・ 義肢装具士・
ヘルスケアソーシャルワーカー ・口腔外科・ 消防監督者
・栄養士・ 施設管理者 ・ 振り付け師
・セールスエンジニア(技術営業)・ 内科医と外科医
・指導(教育)コーディネーター・心理学者・警察と探偵
歯科医師・小学校教員
・・・教員はAIにとって代わられない職業であるとして、安穏としていたが、その理由は何なのだろうか?
◆AIより人がしゃべった方が子供が安心する?
◆たくさんの子が一度に何か言った時の対応も、人間の方がうまくいく?
◆言葉では伝わらないメッセ―ジを表情から読み取るのは人間の方が得意?
コンピュータに代替えされにくい理由を把握し、そこを伸ばしていかなければ、AIに代替えされてしまう。
そんなわけで、今漠然と考えているのが、「コミュニケーション」に近いが、もう少し限定して「子ども相手のインターフェイス」という意味である。
「インターフェース」という用語がある。
◆通常、単にインターフェースという場合は、パソコンと周辺機器を接続するコネクタやスロット、接続する規格といった、異なる2つの機器の接続部分をいいます。
これとは別に、人間とパソコンの接点という意味もあります。
◆もともと、顔と顔を向かい合わせるということから「コミュニケーション」に近い言葉です。
しかし、段々いろんな分野で拡大使用されるに連れ、「接続」あるいは「コミュニケーション」の際の「約束事:技術:方法:接続用ハード」という風にあらゆる意味で使われてきています。
・・・調べてもよく分からないし、コンピュータ用語なんだから深く知らなくてもいいかと思っていた。
ただ、「コミュニケーション」に近い言葉とか、「人間とパソコンの接点」というあたりが、くせもので、例えば、次の記載を読むと、無視できなくなる。
◆コンピュータよりも人間に向いている仕事は、ほかにもあります。
たとえば銀行のATMや駅の発売機などに不便を感じたことのある人は多いでしょう。相手は人間なら要望を口で言えば対応してもらえるのに、機械の場合は複雑な操作を自分でしなければなりません。
コンピュータでも「できる」と言えばできるのですが、人間にとっていちばん好ましいインターフェイスは、やはり「人間」の場合も多いのです。
「これからの世界をつくる仲間たちへ」落合陽一 小学館 P58
情報を伝えるインターフェイスの部分だけを人間が担当する・・そのような職業はAIに奪われないで済むわけだ(ただし、AIの下請けという見方もできる)。
落合氏は、例をいくつか挙げている。
◆新幹線の座席の確保は、ややこしい条件がある場合は人間が介在した方がスムーズに確保できる。
◆観光案内所も、コンピュータに教えられるより、対面で人から案内された方が心地よい。
◆ファストフード店やファミリーレストランも、どんなに自動化が進んでも、接客するインターフェイスを人間が笑顔でしてくれれば、安心して食事ができる。
考えてみればニュースや天気予報だって、読み上げるだけなら人間である必要はない。ただし、人間の方が心地よい。特別なサービスだから別途課金してもニーズはある。
「インターフェイス」が「AIにない人間のよさ」であるとして、他にどんなよさがあるのかをしっかり追究していきたい。
例えば、だれでもできる単純再生産の仕事(形式知)は代替される。むしろ単純なゆえの苦痛な労働は機械の任せたほうが人間の為である。速さや正確さや持続力では人は機械に勝てない。
一方、その人ならではのコツ・スキル・秘伝の技・匠の技など(暗黙知)は、プログラム化されない限り代替えされない。ただし、匠の技の再現などは各分野で躍起になって進められている。
2 子どものAIと、暗黙知
「大人にAI 子どものAI」という言葉を知った。
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人工知能やロボット工学の領域では「モラベックのパラドックス」という概念が言及されてきた。
例えば数式を解くよりも、絵に何が書いてあるか判別することのほうが難しいという「大人ができる高度に知的なことよりも子供ができる簡単な運動や認識の方が、コンピュータで実現することは難しい」という常識があった。
「誰が日本の労働力を変えるのか?」野村総合研究所 東洋経済新聞社 P81・82
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・・・「モラベックのパラドックス」については、ネットでたくさん検索できた。
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人工知能 (AI) やロボット工学の研究者らが発見したパラドックスで、伝統的な前提に反して、高度な推論よりも感覚運動スキルの方が多くの計算資源を要するというものである。(Wiki)
一歳児のスキルが難しい
ロボット工学者のハンス・モランベックは「知能テストで大人を負かすとか、チェッカーをするといったことは、コンピュータにとってさほどむすかしくはない。だが知覚や運動といったことになると、一歳児のスキルを身につけることさえむずかしく、場合によっては不可能だ」と鋭くも見抜いた。(56ページ)
http://kocho-3.hatenablog.com/entry/2016/02/12/070710
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・・・分かるようで分からない。でもこの場合の自分の「分からなさ」をどう克服するかが「子どものAI」かもしれない。
◆「どうしてこんなことが分からないの?」「どうしてこんなことができないの?」と思える簡単なレベルのことを習得させることの方が難しいということは実感できる。
例えば、「1+1」が分かる子に「1+2」を教えるのは容易だが、「1+1」が分からない子に「1+1」を教えることは難しい。
◆経験の浅い先生は「何が分からないかが分からない・どうして分からないかが分からない」ことが多い。
◆通常学級の子どもより特別支援学級の子どもの方が教えるのが難しいのは、高度な内容理解より、基本的な内容の理解の方がむしろ難しいことを示している。
あれ?
ここまで書いてきて、それは「形式知」と「暗黙知」の違いと重なるのではないかと思えてきた。
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暗黙知と形式知は、マイケル・ポランニーが『暗黙知の次元』で示した「知識(ナレッジ)」の認識論的な分類です。
ポランニーは、「私たちは、言葉に出来るより多くのことを知ることができる」と言い、言語などの明示的・形式的表現では伝達不可能な知を暗黙知と呼んでその存在を指摘し、言語などの明示的・形式的表現での伝達が可能な知を形式知と呼びました。
暗黙知は、特定状況に関する個人的な知識で、形式化(言語化、データ化、情報化)したり他人に伝えたりするのが難しいものです。
一方、形式知は明示的なもので、論理的な伝達・表現手段によって伝達することが可能なものです
(中略)
人は運転の仕方を教習所の座学で習って知識を得ていても、始めてクルマに乗っていきなりスムーズに運転することは出来ません。実際に経験してはじめて気づくことが多いからです。特にマニュアル・シフトの操作は、事前に操作方法(形式知)を知ることは必要ですが、アクセルとクラッチとシフト・ノブを動かす微妙なタイミングと深さは、何度もエンストしてみてはじめてベストなバランスを習得できるものです。そうして習得した知識を今度新たに免許を取得しようとしている人に教えようとした場合、やはりいくら親切にアクセル、クラッチ、シフト・ノブの話をしても、新人ドライバーは一度はエンストするでしょう。言葉では伝えきれない知識があるのです。
このように身体的運動を伴う暗黙知に関しては、いくら言語化して説明しようとしても伝えきれないものが残ります。
http://www.osamuhasegawa.com/%E6%9A%97%E9%BB%99%E7%9F%A5-%E5%BD%A2%E5%BC%8F%E7%9F%A5/
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落合氏も前掲書で次のように述べている。
◆他人にはコピーのできない暗黙知を自分の中に貯めていくことが大事。いまはインターネットで一瞬にして情報がシェアされ、世界中に拡散していく時代ですが、そういう誰でも知っている情報をたくさん持っていることには何の価値もありません。
◆いまの資本主義社会は物理的リソースではなく「人間」が最大の資本ですから、シェアできない暗黙知の持ち主が大勢いる会社が強い。(中略)専門性が低く、何でも器用に処理できる浅く広い人材のほうが、これからは人材としての価値を評価されにくいのです。
・・・ただし、通常は高度のスキルになると「暗黙知」が必要になるのだが、「子どものAI」は「子供ができる簡単な運動や認識の方が、コンピュータで実現することは難しい」 とある。
難しくない方が難しいからこそパラドックスなので、そう考えると「子どものAI」と「暗黙知」は意味が違うことになる。
私見で次のようにまとめてみたが、全く自信はない。
◆「モラベックのパラドックス」を含む話をしたいき、この用語が分かっている人との間なら、会話はあっという間に済む。
しかし、この用語が分からない人と話をするには、相手が分かるように言い換えながら話をしないといけない。そのドンピシャのアドバイスや例示は、なかなかマニュアル化できない。
相手が分かっていない状況を把握することにしたって、ちょっとした表情や言動を読み取る高度なスキルは必要にある。大学教授の講義を思い起こせばわかるように、 優れた知識をもっていることと、分かりやすく教えることとは全く別次元である。
・・・これは「子どものAI」はなく、「暗黙知」の解説だろう。
もう、どっちでもいいのだけれど、以下のスキルが人工知能の及びにくい分野であるのならば、我々教師はそのスキルをしっかり磨いていかねばならない。
(1)「何がわからないか、相手の困り感をキャッチする」
(2)「相手の分からなさにしっかり対応して、分かりやすく教える・分かるまで教える」
3、AIの代替が難しい特徴
「誰が日本の労働力を変えるのか?」(野村総合研究所 東洋経済新報社)では、AIの代替えが難しい職業の特徴として3つのワードを挙げられている。 P108-109
(1)「創造性」
人工知能は、知識を整理することはできても新たな抽象概念を創出することは簡単ではない。
摸倣することはできても、独創的な芸術性を習得することは難しい。
(2)「ソーシャルインテリジェンス」
他者との協調や説得、サービスなど。
人工知能は、音声や文字を認識し、その情報に基づいた最適な対応策を提示することが可能。
個人間の信頼が必要とされる場面や顧客の表情や言い淀んだ様子を考慮しながら対応を変えるような高度なコミュニケーションは不得手。
(3)「非定型」
一定のルーテインワークやマニュアルで対応できる定型業務は自動化しやすい。
作業プロセスにまとめることが難しく複雑で、臨機応変な対応や状況判断が求められる
英国のBARCLAYS銀行が求める人材像は、「正確に処理ができる人」から「EQに優れ、顧客との会話がしっかりできる人」であり、これからはホテルのコンシェルジェのように、相手の要望に応じてサービスを提供する非定型な業務が求められているとの記述もある(P110~111)。
このコンシェルジェというのは、前述の「インターフェイス」と同じ意味だ。
また、トーマス・H・ダベンポート「AI時代の勝者と敗者」を引用して、デジタル労働力と共存する5つの仕事が示されている。P193~199
(1)新しいデジタル労働力を生み出す仕事
(2)デジタル労働力の上に立つ仕事
(3)デジタル労働力とビジネスをつなぐ仕事
(4)デジタル労働力でないことに意味がある仕事
(人がやることの意味)
(5)デジタル労働力にやらせるにはコストが見合わない仕事
あるサイトでは、人工知能やロボット時代を迎えるにあたっては、間としての強みをますます磨かなくては通用しなくなるとして、3つの「スキル」アップが必要だとあった。
(1)プランニングスキル
斬新なアイデアや逆転の発想、新しい組み合わせや思いつきなど、新しいコンセプトや枠組み作りには欠かせないスキル。
(2)マネジメントスキル
目的に導き、目標を達成させるように導く言葉や態度によるコミュニケーションのスキル。
(3)ソリューションスキル
困難から逃げずに向き合って課題解決に導くスキル。
https://andai.co.jp/new-ways-of-working/ より
なお、日経ASOSIEの10月号では、AIに代替えされる仕事 に共通する3つの特徴が挙げられている(P80)。今後求められるスキルの真逆になっていることがよく分かる。
(1)創造性をそれほど必要としない
(2)対人コミュニケーション要素が少ない
(3)定型業務が中心
茂木健一郎氏の『人工知能に負けない脳 ── 人間らしく働き続ける5つのスキル」では次のことが書かれている。
人工知能の進化は私たちにとってむしろ新しいチャンスである。
人工知能の得意な分野は人工知能にまかせて、私たちはその力を利用しながら、人間らしさが活かせる分野に活路を見いだせばいい。
つまり、「人間にしかできないこと」「人工知能の不得意な分野」を伸ばすべき時代。
その5つのスキルが
(1)「コミュニケーション」
(2)「身体性」
(3)「発想・アイデア」
(4)「直感・センス」
(5)「イノベーション」
茂木氏は次のように述べている。
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茂木 人工知能は、感覚的なことができません。
例えば、おいしい、楽しい、心地よいという感覚を感動に換えるといったことはできません。
また、非典型的事例の判断も苦手です。膨大なデータをカテゴリー別にソートすることはできますが、ビッグデータに至らぬ少数事例に基づく判断などはできません。
人工知能は、データの蓄積がなければ何も判断ができません。
対して人間は、さまざまな角度から見て直感で判断することができます。
http://news.livedoor.com/article/detail/10681916/
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人間がもつ「感覚」を大事にすること、つまり「人間力」を磨くことが最優先されるべきということになるだろうか。
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