「証明教育」という概念
「数学的思考法―説明力を鍛えるヒント」 講談社現代新書 新書 – 2005/4/19
著者の芳沢光雄氏は、検索をするとたくさんの著書があることが分かる。
数学の面白さや数学的思考の大切さや受験数学の問題点などを述べている点では、この本も同じである。
「説明力を鍛える」とは、「証明問題を解く」の意味なのだと考えて読んだのだが、そういうわけではなかった。
それでも、数学がいかに日常の問題に関わっているかを具体的に示していた。
特に、証明問題の扱いについてIT大国のインドに比べ、いかに日本がいい加減かが分かった。
◆ITのソフトウエアの面で世界をリードしているのがインドの技術者だということはよく知られた話だが、
それには中学生の頃から鍛えられた「証明力」がものをいっているにちがいない。
インドの数学教育では、たとえ証明問題でなくとも、証明問題のようにきちんとした説明文を書かなくては、最後の答えが合っていても大幅に原典されてしまう。
ソフトウエアというのは、命令文の論理的な連なりでできている。
インドの技術者たちは「証明力」について、”理想的”な教育を受けているからこそ、複雑なソフトウエアでも、全体の構成から各部分の細かい命令文に至るまで、しっかりしたものを作ることができるのだ。
(中略)
インドとはまったく対照的に、日本の中学校での証明教育の実情はまことに惨憺たる状況である。昭和40年代と比べると、現行(2002年学習指導要領改定)の中学校数学教科書の証明問題数は3分の1になってしまった。挙句の果てに、「証明の全文を中学生に書かせるのはかわいそうだし、試験に出しても点が取れない」などと”同情”して、なんと「三角形」だの「平行」だのという単語だけを”穴埋め式”に書かせるという、まったく日本固有の異常な教育があちこちの中学校で行われているのである。 P24/25
◆本当に注目すべきことは、日本と比べて内容面でのレベルが高いことではない。「証明力」を鍛えるという姿勢が、初等教育から大学入試まで一貫しているということである。日本の技術評論家諸氏も、インドの技術者について「英語を使えることや賃金面での優位性もさることながら、数学とくに証明教育で鍛えた問題解決力と論理力が優れている」という点を90年半ばから指摘している。
ハイテク分野で世界的に高く評価されているインド国立工科大学の入試問題集が手元にあるが、2000年度の数学の問題は16題全問とも証明問題である。マークシート方式中心に問題を解くテクニックばかり学習しているような日本の受験生では、手も足も出ない問題ばかりだ。ちなみに筆者もチャレンジしてみたが、
制限時間内に解けた問題数は約半分で、全問を解くのには制限時間のほぼ2倍の時間を要した。
もっとも、約20万人受験して2500人ほどしか合格できないという寂しさを考えると、それも仕方がないのかもしれない。P29
◆日本のマスコミはなぜ、このような日本とインドの”違い”を報道しようとしないのか、ぜひ理由を知りたいものだが、これだけでもインドの数学教育が「証明力」の前段階での「試行錯誤」、そして「証明力」の後段階としての「説明文」を重視していることを窺い知ることができるだろう。P30
・・・書籍の前半でこのように「証明教育」の不足を訴えていたので、後半に具体的な「証明力・説明力」のヒントがあるかと期待して読み進めたが、残念ながら、それはなかった。
「試行錯誤・説明・証明教育」によって、問題解決力と論理力が鍛えられるのだという筆者の主張をもう少し掘り下げてみたい。
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