「10年後の世界を生き抜く最先端の技術」
先日読んだ『10年後の世界を生き抜く最先端の教育』茂木健一郎・竹内薫著(祥伝社)の次の一節が印象深かった。
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私たちは模範解答ではなくて、その子の思いや考えを書いてほしいんです。でも模範解答に染まっちゃうとなかなか書けない。(中略)やがてくるAI時代は、間違いを恐れて正解だけを求める人は生きていくのが大変になる。だから、そういう模範解答を書く子どものは、そうじゃないよ、自分で考えていいんだよ、ということを言ってあげないといけない。そして、模範解答の枷から外してあげる。すると、けっこう自分で楽しく書き始めるようになって、ものすごい発想が出てきたりするわけです。
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このフレーズと重ねるように、向山洋一氏の『斎藤喜博を追って』を再読する。
教室とは、まちがいを正し真実をみつけ出す場だ。
教室は、まちがいをする子のためにこそある。
教室には、まちがいを恐れる子は必要ではない。
・・・まちがいを恐れてはいけないことを教室目標として年度当初に掲げ説明をしている。
むろん、スローガンとして掲げるだけなら誰にでもできる。
「まちがいを生かす授業」「まちがいに意味を持たせる授業」「何を言っても間違いにならない授業」を展開しなければ、子どもの意識は変えられない。
中でも具体的に描写があるのが、参考書の模範解答を否定し、自分たちで新たな解答を創り上げていく「青森のリンゴ」の授業である。
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「参考書で勉強するのも大切だけど、もっと大切なのは自分の頭でまず考えてみることだよね。事実を一つ一つ確かめたり、考えたりしてみることだよね。
さあ、参考書はあてにならないことがわかったから、自分の頭で考えてみよう。思いつくことは何でもいいから発表してごらんなさい。」
ぼくは、子どもの発言をうながした。
「本当に何でもいいの」と、子どもは言いながら、一人が発表すると次から次へと意見が出された。
「鉄道があるからだと思う」という意見が始めに出された。
「とってもいいことだよ。そうすると長野以北で、しかも鉄道が通っている所ということで、ずいぶんせばめられるよね」、とぼくはことさらにほめた。
「とにかく、商売だから、もうかるんだと思う」と、ある子どもが言った時に、みんなドッと笑いころげた。
「それも、大切だ。どうしたら、もうかるのかな」と質問し、商品作物が一地域で集中して作られることによって、価格が下がることをおさえた。
どの意見もどの意見も認めていった。何を言っても認められたから、子ども達は、面白いように意見を続けた。
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・・・向山氏が、「どんな意見も受け入れる態度」を示しているかがよく分かる。
だから次々に自由度の高い意見が出されていった。
また、笑われるような子どもの意見にも、きちんと意味づけをしている。発言した子どもの自尊心が高まるよう支援していることが分かる。
◆<優等生>の頭がたいしたことがないことを示すことから、本当の授業は出発するのである。
というフレーズは、次のようにも置き換え可能だ。
◆<模範解答>がたいしたことがないことを示すことから、本当の授業は出発するのである。
決まりきった質問をして、決まった子だけが答えるという授業とは違って、一見あたりまえに見えることを否定し<優等生>の答えの底の浅さを見せつけるところから出発するこうした授業を、子ども達は喜んだ。
・・・などは、まさに「主体的・対話的で深い学び」の具現化だ。
「青森のリンゴ生産が日本一なのは気候が適しているから」という模範解答を否定するダイナミックな向山実践が、正解がないと言われるAI時代に対応する授業であるかが分かる。
なお、昨今のキーワードに「ダイバーシティ」がある。
「ダイバーシテイ」=「多様性・幅広く性質の異なるものが存在すること」というキーワードで向山実践を考えてみても、
「思いつくことは何でもいいから発表してごらんなさい。」
「どの意見もどの意見も認めていった。何を言っても認められたから、子ども達は、面白いように意見を続けた」
というスタンスの授業は、まさに「ダイバーシテイ」である。
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