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August 14, 2018

クリテイカルシンキングの必要性

少し古いが、2017年2月の「小4教育技術」にあった出口汪氏の特集記事のコピーが見つかった。
2020年に向けた基本的なスタンスがよく分かる。

小学館編集部の言葉
◆2020年度から実施される次期学習指導要領と、現行のセンター試験に替わって「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)を導入する大学入試制度の改革。それぞれが「思考力 判断力 表現力」を重視し、今後は「記述式の問題」「複数の正解があり得る問題」などへの対処に、より論理的な読解力と表現力、さらに欧米型のクリテイカルな思考が必要がとされています。

・・・子どもや保護者にとっては、新学習指導要領より、大学入試改革の方が重要かもしれないし、むしろ、大学入試の傾向から逆算して、小中高での取り組み課題が明らかになってくるのではないかと思う。

出口汪氏の言葉
◆文部科学省が従来からモデルにしている欧米の考え方「 クリテイカルシンキング」とは、ある問題について、主観を交えずに客観的に様々な角度から分析して、複数の可能性から相対的に適切なものを選ぶ能力のことで、次期学習指導要領ではこの要素がさらに強まるとされています。文部科学省はとくに、答えのない問題への対処や、複数の正解があり得る問題で最適解を導き出す能力などを重視するということですね。
つまり、教科書に答えがあって、先生が教えてくれることを何ら疑うことなく頭に入れて答えればいいという、これまでのやり方とは真逆な教育になるということです。
自分自身で考えていく過程で、ひょっとしたら答えが見つからないかもしれない、あるいは複数の答えが現れるかもしれないという学習が導入されるわけですが、こういうことは、現実社会で生きているとあたり前に遭遇する問題ですよね。世の中で起きている事柄、われわれが直面している問題には絶対的な正解は存在しないわけですから、極めて現実的な学習であると言えます。

・・・答えのない問題、複数の正解がある問題への対処か。たった1つの正解を暗記する教育とはまさに真逆である。
極めて大切な指摘なのに、すぐに記憶から遠のいてしまう。何度も何度も擦り込んで自分のものにしていきたい。

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August 12, 2018

問題解決能力とは?

問題解決学習というと、子どもに任せっぱなしのイメージがあって印象はよくないが、「課題や問題を自分で設定して、自力解決する力」が大切なのは言うまでもない。

◆「総合的な学習の時間」などを通じて体験的・問題解決的な学習活動を展開することを求めたい。

と文科省も書いている。
しかし、通常の授業でも
「今日は、この問題についてみんなで考えてみましょう」と言えば問題解決学習なのか、
「自分の疑問を列挙して、どうしたら解決するか考えてチャレンジしてみましょう」と言えば、問題解決学習なのか、がよくわからない。
もしそうだとしたら、普段の授業は、ほとんど問題解決学習ということになる、何をあらたまって言うことがあるのかと思うくらいだ。

平成15年に追加されたPISA型問題解決能力は以下のように定義されている。
ーーーー
問題解決の筋道が瞬時には明白でなく、応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学、科学または読解のうちの単一の領域だけには存在していない、現実の領域横断的な状況に直面した場合に、認知プロセスを用いて、問題に対処し、解決することができる能力
ーーーーーー
これはひどいな〜、長過ぎてよく分からない。

◆習得した自分の知識や技能を活かして、問題に対処し解決する力

ぐらいの定義でよいだろうか。
要するに、「習得、活用、探究」のことか。

問題解決のプロセスについて、デユーイは5つの反省的思考が機能していると述べている。

1 困難に直面する
2 困難がどこにあるか
3 仮説を設定する
4 仮説を練り上げ推理する
5 仮説を検証する

PISA調査では問題解決に必要なプロセスを6つ示している。

1 問題の理解
2 問題の特徴づけ
3 問題の表現
4 問題の解決
5 問題の熟考
6 問題解決のコミュニケーション

これらのプロセスのどこに、既習の事実や経験を活かすを入れるかさえも明確でない。
普通の教師にはとうてい理解できないので、結局「問題解決学習」って何だということになる。
抽象的な言葉だけ並べて、我々を縛るにはやめてほしい。

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August 07, 2018

因果関係を見抜く「反事実」の考え方

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 中室牧子氏の「原因と結果の経済学」(ダイヤモンド社)では、因果関係があるかどうかを見抜くことの大切さがけてたら、主張されている。根拠のない通説にだまされないために・データの勝手な解釈にだまされないためにである。

 広告のおかげで、今年はアイスクリームの売り上げが伸びた。

のような場合だ。
 
 中室氏は、次の3点でチェックせよと言う。
「まったくの偶然ではないか」
「第三の変数(要因)はないか」
「逆の因果関係はないか」

そして、因果関係を証明するのに「反事実(反実仮想)」を想定し、比較してみよと言う。

◆もし、〇〇がなかったとしたら、どうなっていただろう。

 今年は暑かったから、広告がなくても結構売れてたかも。
 
と第三の要因が浮上するかもしれない 
 「アイスクリーム総選挙」みたいな特別番組があったら、そりゃあ、そっちの影響の方が強いはずだ。

 ただし、中室氏は経済学者だから、あてずっぽうで「反事実」を想定して、あてずっぽうで適否を決めるわけでじゃない。
 実際には、もう広告を出してしまったのだから、今さら「もし広告を出さなかったら」という直接の比較をするのは不可能だ。
 だから、類似条件で試した実験を比較材料にして検討することになる。これがエビデンス=因果関係を示唆する根拠である。

 国語の世界・言葉の世界で因果関係を云々言うだけなら「エビデンス」は要らない。 
 しかし、経済の世界では「エビデンス」が必要になる。
 そこの違いをきちんと自覚しておかねばと思う。

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August 06, 2018

仮説思考で仕事の速度と精度を向上

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Associe2018年8月号、赤羽雄二氏の連載「最速で成果を出す時短術」(P101/102)

仮説思考と仕事の時短術が、どうつながるのかを気にしながら読んだ。
なるほど!
ここは引用でなく、自分の言葉で書きますね(時短のため)。

簡単に言えば「石橋を叩いて渡る」という完璧主義では、調査や検証や結論までに時間がかかり過ぎる。
だから、およその目安をつけて、いけると思ったら「見切り発車」する思い切りのよさが必要である。動き出してから、その都度、速やかに修正をすればよいのだ。

むろん、仮説だから間違いを犯すこともある。だからこそ、見当違いな仮説にならないように、日頃から情報収集をして思考トレーニングをすることが大事になる。

最後だけは、正しく引用します。

◆常に「自分はこう考える」と仮説を持って動き、走りながら検証・修正するように習慣づければ、あなたの仕事のスピードは格段に向上していきます。

 「自分はこう考える」「自分だったらこうするに違いない」という仮説は、つまりはシュミレーションだ。
 当事者意識の喚起でもある。いつも問題意識を持って生活しているとも言える。
 やってみなきゃあ分からないなら、やってみるしかない。 そこで迷っていたら、タイミングを逸してしまう。運命の女神さまは逃げてしまう。
 「見切り発車・当たって砕けろ」と言うと、無鉄砲なマイナスイメージが強すぎるけど、「仮説思考で仕事の速度と精度を向上」と考えれば、勇気をもって踏み出せるかもしれない。
 
 先のダイアリーでも書いたが、ここでも、「仮説思考」は、「論理の力」ではなく、「論理の無力」というのがよく分かる。
 
 論理的な正しさだけを優先すると、おそらく失敗の可能性がゼロに近づくまでまで人は踏み出せないだろう。
 人は勝負をかけるとき、論理ではなく、感性で判断するものだ。
 あてずっぽうの感性か、経験に裏打ちされた精度の高い感性かの違いは、むろんあるが、迷っているばかりでは、チャンスは回ってこない。
 「宝くじを買わない人は、絶対に当たらない」と言う。
 宝くじを買うのは、確率から考えると、非論理的な行動かもしれない。
 でも、その非論理性にためらっていたら、当たるチャンスは巡ってこないのだ。

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「仮説推論 アブダクション」

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「仮説推論 アブダクション」は、簡単に言うと、推理小説の犯人探し。
 出てしまった「結果』に対して、原因を仮説として立てて検証していく方法だ。

 パースは、次のように定式化している。

◆驚くべき事実Cが観察される
◆もしHが真であれば、Cは当然の帰結であろう。
◆よって、Hが真であると考えるべき理由がある。

分かりにくいなー。

◆常識では説明できない驚くべき結果が見られた場合に
◆その結果を説明できるような大胆な仮説を推論すること。
そう考えないと説明がつかないような仮説を確定すること。
◆結果から原因を遡求するので、リダクションとも呼ばれる

この典型例が万有引力の思想を考えついたニュートンである。
 (林檎が落ちるのをみて万有引力の思想を考えついたという逸話はたんなる伝説ではなく信頼のおける実話のようで)

============
ニュートンの思索の非凡なところは、まず林檎が落ちるという事実に対する彼の「驚き」にあります。(中略)ニュートンの驚きと疑念そのものがかれの独創的な洞察力と想像力によるものです。もちろんニュートン以前の人びとも林檎が落ちるのを見てきているし物体は支えられないときには落下するということは誰もが知っています。しかしかれらに林檎が落ちるという事実は何ら意外な出来事ではなく「驚くべき事実」ではなかったのです。そういう驚きや疑念はすぐれた洞察力と想像力によるものであり、ただ経験を積めば誰にでも自ずと生ずるというものではありません。(中略)

ニュートンの驚きと疑念、その驚きと疑念を解決するためにかれが考え出した諸仮説、そしてついには万有引力の原理という偉大な仮説の確立ーこのニュートンの発見過程を顕著に特色づけているのは一連の創造的な仮説形成的推論、すなわちアブダクションです。
「アブダクション 仮説と発見の論理 米森裕二緒 勁草書房p57から60
============

とまあ、難解な一冊の一部ながら読んでいて、驚くものがあった。

 AIに驚きがないなら、新たな仮説推論は生まれない。
教育技術にしろ、学問研究にしろ、理屈も大事だが、まずは「驚き、興味、喜び」を含む知的好奇心が大事なのだと思う。対象に対する深い愛情と言ってもいいかもしれない。

 先のダイアリーでNHK講座の「ロンリのちから」の中で、1つだけ「論理の力」が及ばない回があったことに触れた。

 「仮説を思いつくかどうかは発想力の問題。言うなれば『論理の無力』」

と語ったのが「仮説推論」の回だった。
 いくら論理的思考に優れていても、それだけでは発想は浮かんでこない。一種のひらめきのようなものが必要だ。
 名探偵は「論理的思考」だけではなれないのだ。
 「仮説推論」の回だけを「論理の無力」とまとめたNHKも、なかなか奥が深いのだ。

 なお、松岡正剛氏も「パース」や「仮説推論」について詳細に書いている。
 そちらを、しっかり読むことをお勧めしたい。
 松岡正剛氏の解説を読むと、その分かりやすさにほっとしてしまう。
 と同時に、同じ本を読んで、これほどの解説を書ける知性に圧倒されてしまう。

https://1000ya.isis.ne.jp/1566.html
https://1000ya.isis.ne.jp/1182.html

 なお、自分がメモ書きした下記の分類のページを松岡氏もWEBで紹介している。

※推論Inferenceには、2通りあって

(1)分析的推論analytic or explicative inference
  ①演繹deduction

(2)拡張的推論ampliative inference
  ①帰納induction
  ②アブダクションabduction

 演繹的推論は前提から必然的、包含的に導かれる結論だから内容を超えた知識の拡張はない。
 拡張的推論は、経験に基づく推論なので、前提の内容を超えた知識や情報を与える。
 その分、拡張的推論は正確さを欠く。

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「10年後の世界を生き抜く最先端の技術」

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先日読んだ『10年後の世界を生き抜く最先端の教育』茂木健一郎・竹内薫著(祥伝社)の次の一節が印象深かった。

==========
私たちは模範解答ではなくて、その子の思いや考えを書いてほしいんです。でも模範解答に染まっちゃうとなかなか書けない。(中略)やがてくるAI時代は、間違いを恐れて正解だけを求める人は生きていくのが大変になる。だから、そういう模範解答を書く子どものは、そうじゃないよ、自分で考えていいんだよ、ということを言ってあげないといけない。そして、模範解答の枷から外してあげる。すると、けっこう自分で楽しく書き始めるようになって、ものすごい発想が出てきたりするわけです。
=============

 このフレーズと重ねるように、向山洋一氏の『斎藤喜博を追って』を再読する。 

教室とは、まちがいを正し真実をみつけ出す場だ。
  教室は、まちがいをする子のためにこそある。
  教室には、まちがいを恐れる子は必要ではない。

・・・まちがいを恐れてはいけないことを教室目標として年度当初に掲げ説明をしている。
 むろん、スローガンとして掲げるだけなら誰にでもできる。
 「まちがいを生かす授業」「まちがいに意味を持たせる授業」「何を言っても間違いにならない授業」を展開しなければ、子どもの意識は変えられない。

 中でも具体的に描写があるのが、参考書の模範解答を否定し、自分たちで新たな解答を創り上げていく「青森のリンゴ」の授業である。

=============
 「参考書で勉強するのも大切だけど、もっと大切なのは自分の頭でまず考えてみることだよね。事実を一つ一つ確かめたり、考えたりしてみることだよね。
 さあ、参考書はあてにならないことがわかったから、自分の頭で考えてみよう。思いつくことは何でもいいから発表してごらんなさい。」
 ぼくは、子どもの発言をうながした。
「本当に何でもいいの」と、子どもは言いながら、一人が発表すると次から次へと意見が出された。
「鉄道があるからだと思う」という意見が始めに出された。
「とってもいいことだよ。そうすると長野以北で、しかも鉄道が通っている所ということで、ずいぶんせばめられるよね」、とぼくはことさらにほめた。
「とにかく、商売だから、もうかるんだと思う」と、ある子どもが言った時に、みんなドッと笑いころげた。
「それも、大切だ。どうしたら、もうかるのかな」と質問し、商品作物が一地域で集中して作られることによって、価格が下がることをおさえた。
 どの意見もどの意見も認めていった。何を言っても認められたから、子ども達は、面白いように意見を続けた。
==================

・・・向山氏が、「どんな意見も受け入れる態度」を示しているかがよく分かる。
 だから次々に自由度の高い意見が出されていった。
 また、笑われるような子どもの意見にも、きちんと意味づけをしている。発言した子どもの自尊心が高まるよう支援していることが分かる。

◆<優等生>の頭がたいしたことがないことを示すことから、本当の授業は出発するのである。

というフレーズは、次のようにも置き換え可能だ。

◆<模範解答>がたいしたことがないことを示すことから、本当の授業は出発するのである。


 決まりきった質問をして、決まった子だけが答えるという授業とは違って、一見あたりまえに見えることを否定し<優等生>の答えの底の浅さを見せつけるところから出発するこうした授業を、子ども達は喜んだ。

・・・などは、まさに「主体的・対話的で深い学び」の具現化だ。

 「青森のリンゴ生産が日本一なのは気候が適しているから」という模範解答を否定するダイナミックな向山実践が、正解がないと言われるAI時代に対応する授業であるかが分かる。

 なお、昨今のキーワードに「ダイバーシティ」がある。
「ダイバーシテイ」=「多様性・幅広く性質の異なるものが存在すること」というキーワードで向山実践を考えてみても、

「思いつくことは何でもいいから発表してごらんなさい。」
「どの意見もどの意見も認めていった。何を言っても認められたから、子ども達は、面白いように意見を続けた」

というスタンスの授業は、まさに「ダイバーシテイ」である。

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NHK教育テレビの高校講座「ロンリのちから」

NHK教育テレビの高校講座「ロンリのちから」をWEBで全部視聴してみた。

http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/ronri/

(1)三段論法  
(2)誤った前提・危険な飛躍
(3)逆さまのロンリ
(4)接続表現・ことばをつなぐ
(5)水掛け論・理由を言う
(6)暗黙のロンリ   
(7)仮説形成
(8)否定のロンリ
(9)類比論法
(10)合意形成
(11)見せかけの根拠
(12)推測の確かさ
(13)「だから」に反論する
(14)因果関係
(15)ニセモノの説得力
(16)事実・推測・意見
(17)問題を整理する
(18)横ならび論法
(19)ずれた反論
(20)異なる意見を尊重する

 最初は「三段論法」。全体に含まれる個別の主張は、当然正しい。これを「当たり前」と言ってのけるところは、ある意味で滑稽だった。三段論法で正しさを導かれる意見は、実にバカバカしいほど「当たり前」なのだ。
 ただ、この20回の中に「帰納法・演繹法」の解説はなかった。
 論理の専門性よりも、「水掛け論」「ずれた反論」「見せかけの根拠」「にせものの説得力」「横並び論法」など、論理的でない相手に言い負かされないことの重要さを説く回が目立った。
 また、「合意形成・問題を整理する・異なる意見を尊重する」は、議論する際の態度の問題だった。

 その他のメモ書き。

「逆さまのロンリ」・・AならばBを逆にすると、「逆は真ならず」という場合がある。特に理由が複数ある場合。

「暗黙の論理」は、三角ロジックで言うところの「大前提」。言わなくても分かっていると思って省略すると、誤解が生じることがある。「常識から来る決めつけ」や「論理の飛躍」は、ここ。

「類比論法」と「推測」は似ていた。また「類比」は「帰納法」に近い。「A1・A2が正しいなら、Aも正しい」は、類推であり、帰納法であり、100%正しいとは言い切れないから「推測」である。

「否定」は、数学で取り組んでいるので高校生には分かるが、「すべてない」の否定は「一部ある」という全否定・全肯定、部分否定と部分肯定の区別はややこしい。

「事実・推測・意見」は、小学校から繰り返して指導している内容だが、大人になればなるほど、もっともらしい意見を事実のようにすりかえる事例が多いから、大事な指導内容。

 さて、1つだけ「これも『ロンリのちから』」という決め台詞を使わない回があった。
これが「仮説推論」の回。

「仮説を思いつくかどうかは発想力の問題。言うなれば『論理の無力』」

 これもまた、すごい「決め台詞」だった!

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August 01, 2018

「頑固な羊の動かし方」(ケヴィン・レーマン)

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 「1人でも部下を持ったら読む本」というサブタイトルだけなら違和感がないが、タイトルが「頑固な羊の動かし方」(ケヴィン・レーマン著 草思社刊)。
 部下を羊に例えて、どうしたら手なづけられるかを説いた本かと思うと、人間的ではないなあと、ためらいもあったが、とても参考になった。
 管理職だから読むのではない。学級担任でもぜひ読んでみるとよい。
  学級担任にはトップリーダーとなるべき心かまえとそれなりのスキルが必要だからだ。
 逆に向山洋一氏の「授業の腕を上げる法則」がビジネスリーダーにも読まれたのも、同じ理屈だ。

==================
 「究極のリーダーシップとは、ただ進むべき方向を示せるかどうかだけにあるのではない。その方向に群れを動かせるかどうかにあるんだ。君の部下たちが、君をリーダーだと思わなかったら、彼らは君に信頼を寄せることはないし、ついていくこともない。」

 「なるほど、分かりました。私は自分がついていくに値する人物かどうか、日々彼らに見せ続けなくてはならないということですね。」

「もし君が部下から信頼や忠誠心を得たければ、まず君から彼らを信頼し、忠誠心を示さねばならない。もし君がいい加減なリーダーシップしか示さなかったら、彼らも適当にしかついてこない。しかし、もし君が彼らにすべてを費やし、彼らのことを本当に思っていたら、彼らは心から君についていこうという気になるだろう」
P165/166
==================

 深い会話だなあ、
 「信頼されたければ、まず自分が信頼せよ。信頼されるに足る人間になる努力をせよ」ということか。
 付箋を貼った以下の部分も、「信頼される自分であれ」と説いている。
 
◆「人々は、一貫性があり、信頼でき、思いやりがあるリーダーを望んでいる。それらを持ち合わせたリーダーは、部下の厚い信頼や忠誠心を勝ち取ることができる」P76

◆「偉大なリーダーは、つねに部下たちに自分の価値観や使命を伝えつづけることによって、自らの理念を彼らに植えつけている。 人の気持ちはすぐに揺らいでしまうものだ。だから、良きリーダーはつねにコミュニケーションを取ることで、部下たちにそのグループにいることの意味や使命感を呼び起こしているんだ。」P77

◆「もし明日どうなるかわからなくても、今日信じることができるリーダーが目の前にいれば、不安を乗り越えることができる」P101

◆「(二つ目のポイントは)問題を放っておかない、ということだ。これまで、たった一匹の羊が群れ全体に悪影響を及ぼした例を、どれほど多く見てきたことか・・」P102

◆「新しいマネージャーは、つい部下たちをがんじがらめに管理しようとしてしまうものだ。彼らは、チームワークとは、みなが同じやり方をすることだと考えている。(中略)方向性の提示や目標の設定はしなくてはいけないが、どうやってそこまでたどりつくかは、彼らにまかせてしまうことだ」P117

◆「規律とは、罰を与えたり相手をけなしたりすることではない。それは教える、つまり指導することだ。(中略)だから、彼らの失敗を責め立てることとはまったくちがう。つまり羊飼いが群れを離れた羊めがけて棍棒を投げるのは、お前のことをいつも見ているよ、という表れなんだ。」p142

◆「だれでも自分が間違っているなどとは、指摘されたくないものだ。しかし、そのメッセージが、自分が心から信頼し、尊敬できる人からの言葉だったら、彼らはそれを、まるで信頼できる友人からの忠告のように喜んで受け入れるはずだ。だがそのためには、まず、君が信頼に値する人物であることを示さねばならない」

・・打ち込むことで、ひしひしと感じることができた。
 
  論語にあった「信なくば立たず」とも重なってくる。
  場合によってはリーダーには命を預けることにもなるのだから、預けるに足るだけの信頼がなければ、誰も命は預けないのだ。

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「採用基準」 ~この国はリーダーを育てられるのか?

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 経済産業省が提唱している「社会人基礎力」というのを初めて知った。なるほど、3つの能力と12の要素は、やや欲張りだが大切なポイントだと思う。

◆「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年から提唱しています。
企業や若者を取り巻く環境変化により、「基礎学力」「専門知識」に加え、それらをうまく活用していくための「社会人基礎力」を意識的に育成していくことが今まで以上に重要となってきています。

【前に踏み出す力(アクション)】

①主体性:物事に進んで取り組む力
②働きかけ力:他人に働きかけ巻き込む力
③実行力:目的を設定し確実に行動する力

【考え抜く力(シンキング)】

①課題発見力:現状を分析し目的や課題を明らかにする力
②計画力:課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
③創造力:新しい価値を生み出す力

【チームで働く力】

①発信力:自分の意見をわかりやすく伝える力
②傾聴力:相手の意見を丁寧に聴く力
③柔軟性:意見の違いや立場の違いを理解する力
④情況把握力:自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
⑤規律性:社会のルールや人との約束を守る力
⑤ストレスコントロール力:ストレスの発生源に対応する力

http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html
http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/h19reference.htm

 しかし、『採用基準』(ダイヤモンド社)では、この中に「リーダーシップ」の項目がないことを厳しく批判し、日本の将来を憂えている。
 欧米では「リーダーシップ」「クリエイテイビテイ」「イニシャテイブ(自発性)」「ジャッジメント(判断力)」などが重視される。

◆日本に足りないのはリーダーやリーダーシップであると同時に、「リーダーシップに関する、重要性や必要性の認識」です。(P172)
◆国が育てるべきと提唱している人材像の概念の中に、リーダーシップという言葉がまったく出てこないというのは、今や世界の中で極めて”ユニーク”だと言えるでしょう。(P173)

 それは「マネージャー(管理職)」の仕事ではないか?
 それは「コーデイネーター(調整役)」の仕事ではないか?
 それは「プレーヤー」の仕事ではないか?
 それは「雑用係・世話係」の仕事ではないか?

といった問いに”NO”と言えないようでは、リーダーの仕事があいまいになる。

◆「リーダーの仕事は、周りの人を楽しくさせることではなく、なんとしても成果を出すことなのだ」
◆「一人でも助からないならいっそ全員で死のう」ではなく「犠牲者は出るかもしれないが、一人でも多くを助けよう』と考えるのがリーダー

という言葉は重い(P110)。リーダーは時に孤独だ。

 続いて、リーダーがなすべき4つのタスク

(1)目標を掲げる・・チームが目指す成果目標(ゴール)の定義
(2)先頭を走る・・リスクや責任を引き受ける覚悟
(3)決める・・・・検討でも分析でもなく判断し決定する
(4)伝える・・・・説明責任

◆逆に言えば、決断をしない人はリーダーではありません。伝える努力をしない人も、先頭を走る覚悟のない人も、成果目標を掲げて見せてくれない人もリーダーとは言えないということです。調査する、勉強する、考えるなどの行為は、どれほどの時間と熱意をかけてそれらに取り組んでも、それでリーダーの役割を果たしているとは言えません。「後ろから部下を見守っている」のもリーダーではありません。目標を掲げ、先頭に立って進み、行く道の要所要所で決断を下し、常にメンバーに語り続ける、これがリーダーに求められている4つのスタンスなのです。P133

 リーダーの責任は重い。
 これまで自分の考えてきた「リーダー」が、いかに調整役に近かったかを反省した。

 「ラストマン」という言葉がある、最終判断をし、最終的な責任を負うのが「ラストマン」としての、トップリーダーの役目である。
https://toyokeizai.net/articles/-/72456


 『リーダーを目指す人の心得』(飛鳥新社)による「コリン・パウエルのルール(自戒13ヵ条)」

1 なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。
2 まず怒れ。その上で怒りを乗り越えろ。
3 自分の人格と意見を混同してはいけない。さもないと、意見が却下されたとき自分も地に落ちてしまう。
4 やればできる。
5 選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
6 優れた決断を問題で曇らせてはならない。
7 他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
8 小さなことをチェックすべし。
9 功績は分けあう。
10 冷静であれ。親切であれ。
11 ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
12 恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
13 楽観的でありつづければ力が倍増する。

 リーダーが、「カリスマ」ぐらいならいいけど、「ワンマン」になったら困るから、あえて社会人基礎力にリストされていないのだとしたら、極めて嘆かわしいことだ。
 あいかわらず日本は

「出る杭は打たれる」
「護送船団型」
「調整型の人材が重宝される」

ということになる。それがグローバルスタンダードではないのだということを、しっかり肝に銘じたい。
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