「仮説推論 アブダクション」
「仮説推論 アブダクション」は、簡単に言うと、推理小説の犯人探し。
出てしまった「結果』に対して、原因を仮説として立てて検証していく方法だ。
パースは、次のように定式化している。
◆驚くべき事実Cが観察される
◆もしHが真であれば、Cは当然の帰結であろう。
◆よって、Hが真であると考えるべき理由がある。
分かりにくいなー。
◆常識では説明できない驚くべき結果が見られた場合に
◆その結果を説明できるような大胆な仮説を推論すること。
そう考えないと説明がつかないような仮説を確定すること。
◆結果から原因を遡求するので、リダクションとも呼ばれる
この典型例が万有引力の思想を考えついたニュートンである。
(林檎が落ちるのをみて万有引力の思想を考えついたという逸話はたんなる伝説ではなく信頼のおける実話のようで)
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ニュートンの思索の非凡なところは、まず林檎が落ちるという事実に対する彼の「驚き」にあります。(中略)ニュートンの驚きと疑念そのものがかれの独創的な洞察力と想像力によるものです。もちろんニュートン以前の人びとも林檎が落ちるのを見てきているし物体は支えられないときには落下するということは誰もが知っています。しかしかれらに林檎が落ちるという事実は何ら意外な出来事ではなく「驚くべき事実」ではなかったのです。そういう驚きや疑念はすぐれた洞察力と想像力によるものであり、ただ経験を積めば誰にでも自ずと生ずるというものではありません。(中略)
ニュートンの驚きと疑念、その驚きと疑念を解決するためにかれが考え出した諸仮説、そしてついには万有引力の原理という偉大な仮説の確立ーこのニュートンの発見過程を顕著に特色づけているのは一連の創造的な仮説形成的推論、すなわちアブダクションです。
「アブダクション 仮説と発見の論理 米森裕二緒 勁草書房p57から60
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とまあ、難解な一冊の一部ながら読んでいて、驚くものがあった。
AIに驚きがないなら、新たな仮説推論は生まれない。
教育技術にしろ、学問研究にしろ、理屈も大事だが、まずは「驚き、興味、喜び」を含む知的好奇心が大事なのだと思う。対象に対する深い愛情と言ってもいいかもしれない。
先のダイアリーでNHK講座の「ロンリのちから」の中で、1つだけ「論理の力」が及ばない回があったことに触れた。
「仮説を思いつくかどうかは発想力の問題。言うなれば『論理の無力』」
と語ったのが「仮説推論」の回だった。
いくら論理的思考に優れていても、それだけでは発想は浮かんでこない。一種のひらめきのようなものが必要だ。
名探偵は「論理的思考」だけではなれないのだ。
「仮説推論」の回だけを「論理の無力」とまとめたNHKも、なかなか奥が深いのだ。
なお、松岡正剛氏も「パース」や「仮説推論」について詳細に書いている。
そちらを、しっかり読むことをお勧めしたい。
松岡正剛氏の解説を読むと、その分かりやすさにほっとしてしまう。
と同時に、同じ本を読んで、これほどの解説を書ける知性に圧倒されてしまう。
https://1000ya.isis.ne.jp/1566.html
https://1000ya.isis.ne.jp/1182.html
なお、自分がメモ書きした下記の分類のページを松岡氏もWEBで紹介している。
※推論Inferenceには、2通りあって
(1)分析的推論analytic or explicative inference
①演繹deduction
(2)拡張的推論ampliative inference
①帰納induction
②アブダクションabduction
演繹的推論は前提から必然的、包含的に導かれる結論だから内容を超えた知識の拡張はない。
拡張的推論は、経験に基づく推論なので、前提の内容を超えた知識や情報を与える。
その分、拡張的推論は正確さを欠く。
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