経産省「前に踏み出す力」
経済産業省が提唱している「社会人基礎力」は、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されている。
【前に踏み出す力(アクション)】
①主体性:物事に進んで取り組む力
②働きかけ力:他人に働きかけ巻き込む力
③実行力:目的を設定し確実に行動する力
【考え抜く力(シンキング)】
①課題発見力:現状を分析し目的や課題を明らかにする力
②計画力:課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
③創造力:新しい価値を生み出す力
【チームで働く力】
①発信力:自分の意見をわかりやすく伝える力
②傾聴力:相手の意見を丁寧に聴く力
③柔軟性:意見の違いや立場の違いを理解する力
④情況把握力:自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
⑤規律性:社会のルールや人との約束を守る力
⑤ストレスコントロール力:ストレスの発生源に対応する力
今回、注目したのは「前に踏み出す力」。
以前は今の日本の若者は自信を持てないこと・子どもが正解志向になりがちであることに注目した。この傾向を考えると、間違えをおそれずに前に進む力が、とても大事だと考えたからだ。
決まり切った解答なら答えられるが、自分で考えた意見や突拍子もないアイデアを言うのをためらう子がいるのは、今に始まったことではない。
しかし40年も前から、向山学級は「自分の意見に自信をもて」「人と違う意見を考えた自分に自信を持て」という指導を繰り返してきた。
拡散的思考、あるいはラテラルシンキングの指導が向山実践の基盤にあるというのが、今の実感である。
向山学級が自由に意見を発表できたのは、そもそも「自由と平等」という向山先生の教育観・教育思想にあると考えている。
『斎藤喜博を追って』の「子どもに自由と平等を!」の章を読むと、向山氏は新任のときから、この点に強い思いがあったことが分かる(P107~120)
(1)担任してすぐの頃、子ども達はおずおずとしか意見を言わなかった。
・・・そうか、向山学級でも、スタートは意見は言わないのだ!
(2)「何を言っても良い」という討論の段階から出発したのであるが、研究授業の頃には、テーマからはずれた発言は他の子にたしなめられるようになっていた。
研究授業の時、子ども達はのびのびと、はきはきと、核心にせまった発言をしていた。
・・・研究授業がいつの時期か定かではないが、向山先生の指導によって、子どもたちは討論ができるようにまで成長した。しかし、年配の六年生担任が「三年生だから発言する。六年生になると発言しなくなる」と批判した。
向山氏は「自分自身の力の無さを省みない不遜な発言」に憤ったが、新任ゆえに我慢したとある。。
そして、この件に関する考察が次のように述べられる。
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六年生になっても発言している子は、いわゆる〈優等生〉であった。逆に言えば、〈優等生〉以外の子が段々と発言しなくなるのであった。〈優等生〉以外は、学校生活を通して段々と発言しなくなる事実は、学校の教育活動の中に原因があることを示唆していた。〈優等生〉によりかかった授業・教育活動がその原因であるはずだった。
教師が発問し、それに〈優等生〉が答えるという、貧弱な授業が目に浮かんできた。教材の本質を理解して、さまざまな角度から授業が展開できれば、そんなことはないはずであった。一人ひとりの子どものことをよく知っていれば、いろいろの考えをひき出せるはずであった。まちがいの中から真実につき進むという学問の基本をとらえており、それを組み立てる力量を持っていれば、そんなことはないはずであった。
つまるところ、教材を分析していく力量、一人ひとりを具体的に見る力量、学問的な素養、授業を組み立てていく力量の不足が、貧弱な授業を生み出し、〈優等生〉中心の授業にしている原因であった。
(中略)教師が貧弱な授業をしているという原因とともに、もう一つ重大な原因があった。それは、学校の教育の構造として、長い間につちかわれてきた古い教育の形であった。誰しもが疑うことがないようなないような日々の教育の中に、実は〈優等生〉だけが脚光を浴びる構造が存在していたのだった。
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・・・何度読んでもしびれる箇所だ。〈優等生〉に依拠した貧弱な授業は、差別構造に依拠した授業でもあるのだということがよく分かる。
◆誰もが自由に発言できる授業
◆誰の発言も大事にされる授業
は「自由と平等」を具現化する授業観・教育観があってこそであた。そして「自由と平等」を追求した向山学級だからこそ、レベルの高い討論が成り立ったのだ。
なお、「前に踏み出す力」に絞って考察したと書いたが、<優等生〉に依拠しない授業は、上記の【チームで働く力】に合致している。まさに集団教育力の作用なのだ。
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