昭和44年のNEW THINK 「水平思考の世界」
エドワード・デボノ著 白井實訳(講談社)
「新しい考え方」というこの本の第1刷は、昭和44年9月。
春日市の図書館で借りたのは昭和44年10月の第3刷。
副題が「電算機時代の創造的思考法」。「電算機」って言葉がすごい。
ちなみに歴史的ヒットとなった12800円の電卓「カシオミニ」の登場が唱和47年(1972年)。
トランジスタから、IC、LSIと進化して、小型化・定価価格化が進んでいった頃だ。
デボノがこの本を出したのは1968年。この段階で、すでに「これからの時代は創造的思考が求められる」と主張している。
冒頭に次の言葉がある。
NEW THINK
The Use of Lateral Thinking in the Generation of new Ideas
和訳すると「新しい考え方 新しいアイディアの創出に向けた水平思考の利用」。
裏表紙には、次の紹介文がある。
◆自分のカラを破れ!
現代のようなコンピュータ時代にこそ、人間の創造的機能が大いに発揮されなければならない。
なぜならば、新しいアイデアを生み、新しい角度からものをみる頭脳、能力が、進歩成長の原動力となっているからである。
「水平思考とは問題解決のために”想像力ゲーム”を意識的に使うことである。
つまり、直線的なロジックでは見落とされてしまう新しいアプローチをみつけることである。
”水平思考の世界”は、読者を自分のカラから脱出させるための得難い本である」
非常に分かりやすい。
そして、AI時代の今もなお「創造的思考(水平的思考)が必要」と、同じことが言えるところに驚いてしまう。
前書きでは「新しい思考法」の解説が続く。
◆ソロモン王の時代から使われ、偉大な科学者や天才的発明家たちはこの思考法を用いてきたこと。
◆論理的思考・分析的思考は深く掘り進むので「垂直的思考」と呼び、別の場所に穴を掘る発想を「水平的思考」と呼ぶこと。
◆論理的な思考は、既成のアイデアの発展には役立つが、新しいアイデアを生み出すためには役立たないこと。
・・・新しいアイデアを生み出し、新しい角度から物事を見るのは、水平思考・創造的思考の役割なのだが、垂直思考(論理的思考)が不要なわけではない。
◆水平的思考は、垂直的思考にとって代わるものではなく、むしろそれを補うものであることを忘れてはならない。つまり、両者はコインの表裏のようなものであって、お互いが補い合うという関係にある。水平的思考が新しいアイデアを生み出し、垂直的思考がそれを発展させるのである。P13
◆閉鎖された多くの社会では、科学者も産業人も、きわめて似かよった考え方をもつようになるものである。そんな時、新しいものの見方を提供できる第三者が現れれば、新しいアイデアを生む刺激がもたらされるかもしれない。P53
◆間違えることに喜びを見出すといったら、へそ曲がりにみえるだろうが、間違いをすることは、古いアイデアから抜け出して、新しいものの見方をつかむことを意味している。間違わないというには、たんに自尊心を高めるだけであって、むしろ失敗した時にこそ、しばしばアイデアの改善がはかれるものである。P54
・・・発明王のエジソンが、失敗を失敗と思わない前向きな発想をもっていたことは必然であったことが分かる。今なお新鮮な指摘ばかりである。引用するときりがない。
◆一般に、問題に取り組む場合、はじめから問題の解決が存在する範囲を設定して、その枠の中で論理を積み重ねる方法がとられるものである。しかし、その枠は、その人の想像にすぎず、実際の解決は、しばしばその枠外にあることが多い。
たとえば、コロンブスの卵がそのよい例だろう。(中略)友人達は、卵を割ってはいけないという仮定の枠に縛られていたから、その問題を解けなったのである。
(中略)
こうした水平的解決は、垂直的思考家からみれば、いかさまのように見えることもがあるが、逆にいえば、水平的思考がいかに有用かを証明するものである。いかさまだという避難が、強ければ強いほど、批判者たちが、実際には存在しない厳格なルールと仮定にいかに強く縛られているかと言うことを、暴露しているにすぎない。こうして、新しいアイデアへの道は、間違った仮説によって阻まれてしまう。
P129
・・・「頭の体操」の問題を解いて、こんなのズルじゃんと思うことがあったが、それは常識に縛られているからで、そこで怒っても仕方ないのだということが分かる。
失敗や偶然も含んで、常識を超えた発想を目指すのが「水平的思考」だから、垂直思考は多数派、水平思考は少数派。むしろ誰も考えたことのない発想が大事で、真似や応用というよりは「ZERO TO ONE」の心意気が大事だということも分かる。
支配的なアイデアに固執するのは怠慢だとも書いてある(P54)。
「自分でアイデアを創りだすよりも、できあいの組織化されたアイデアを受け入れる方が、はるかに楽である(P54)」の指摘は耳に痛い。
◆だから、垂直的思考家たちは。こうした厳格なルールが存在しない、すべてのものがいつも疑われているような流動的な状況をきわめて不愉快に思う。ところが、それが無限の無秩序の状況だからこそ、そこから水平的思考によって新しいアイデアが生まれうるのである。
いろいろなものの見方を採るということは、頭脳にとっては不自然なことである。だからこそ、意識的にそう努力しなくてはならない。P129
◆垂直的思考の第一の欠点は、結論を出す方法が見つかったら、それ以上よい直接的な方法をさがす必要がなくなることである。しかし水平的思考では、要点をつかんだあとでも、確実な方法を求めることができるにちがいない。一部分だけ適切だという方法には固執しないから、もっといい方法が見つかるだろう。P138
・・・脳科学的に言うと、人は安定を好むので、意図的に新しいことに取り組まないと退化を始めるのだということに通じる。
「ひらめき」と言えば、努力は要らないと思えそうだが、常識を超える・自分の殻を破るには努力が必要だ。エジソンも99%の努力を主張している。
水平思考だから勉強しない・常識を学ばない・論理を無視していいというわけではない。先にも引用したように垂直と水平はコインの裏表なのだ。
130ページには、その努力の方向が示されている。この4つの方法を具体化すると「オズボーンのチェックリスト」につながっていくことがよく分かる。
(1)ものの見方の数を3つなり5つなりあらかじめ決めておく。(最初から解答・解法を1つだときめてかからない)
(2)ものの関係を意識的にひっくり返す。太陽が地球の周りを回っているのではなく、地球が太陽の周りを回っていると見るように。
(3)状況を扱いやすいように変えてみる。(シンプルに考えてから、最初の状況に当てはめてみる)
(4)問題の力点を別の部分に移してみる。(まったく違う観点で問題解決に取り組んでみる)
「水平思考の世界」=「ラテラルシンキング」=「創造的思考」の奥は深い。
新しいアイデアを生みだすための「偶然」は、「遊び」から生まれることが多いとデボノは言う。
◆ものごとを論理的に割り切る大人が、遊びを無益なものと決めつけ、大人とは責任を持って行動する人であると定着してしまうと、遊びはまったく興ざめになってしまう。
(中略)別にこれといったアイデアをが浮かばなくとも、遊び回っている状況に十分慣れ親しんでいれば、そこから将来アイデアが生まれる基盤ができる。
偶然(チャンス)の相互作用でアイデアを促進させるもう1つの方法は、”ブレーンストーミング”という古い手である。つまりたくさんんの人が一堂に会し、日頃の論理的抑制を止めて、みんなが思いつくままのことを述べ合うことである。どんな的はずれなばかげたことを言ってもよい。こうすれば論理的な思考を抜きにして意見を発表でき、他人の考えを批判することをさし控えるようになり、大変よい頭の体操になる。
このようにしてお互いが刺激し合って多くのアイデアを生み、相互作用の偶然性によって、参加者が誰も思いつかなかった新しいアイデアを生みだす可能性が出てくるのである。P161~162
◆さまざまなものの見方の練習をしていると、与えられた僅かな情報から、その意味をつかみとる能力が、だんだん増大するものである。水平的思考に慣れると、偶然によって情報をつかむことができ、偶然によってアイデアを関連づけることが、ますます上手になってくる。アイデア自体が変わるのでなく、アイデアを”収穫”することに慣れるのである。P169
◆新しいアイデアはたいてい、まともに探し求めたことによってでなく、むしろまったく無関係なことからヒントを得たり、推し進められるものである。
このアイデア開発の思考過程は、ものごとを遂行する方法としては回りくどいので、論理的方法でやれば、もっと直接的に達成できるといえるかもしれない。しかし、論理には、それが働く方向が要求される。
ところが、アイデアというものは、大半、一定の型にはまった方法に固執しなかったからこそ生まれてきたのである。P195
◆型にはまった教育をいくら受けても、水平的思考の習慣は開発されない。新しいアイデアを生む能力は、長年にわたる垂直的思考にも染まることにない、生来の適性の問題である。だが、水平的思考にある程度熟達すれば、それが役立って、誰でも新しいアイデアの開発ができるようになるだろう。P213・214
◆水平的思考は技術の習得でなく、むしろ一種の頭脳の習慣である。この習慣は、特殊な訓練で体得できるし、意識的な方法でできるはずである。P215
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