2つのイノベーション ~アメリカ型と日本型~
2015年度のビジネス書大賞受賞作は、シリコンバレーの起業家、ピーター・ティールによる『ゼロトゥワン 君はゼロから何を生み出せるか』だった。
アマゾンの商品紹介には以下のようにある。
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新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。
おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がnになる。
だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。
人間は天から与えられた分厚いカタログの中から、何を作るかを選ぶわけではない。
むしろ、僕たちは新たなテクノロジーを生み出すことで、世界の姿を描き直す。
それは幼稚園で学ぶような当たり前のことなのに、過去の成果をコピーするばかりの世の中で、すっかり忘れられている。
本書は、新しい何かを創造する企業をどう立ち上げるかについて書かれた本だ。
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◆ビジネスに同じ瞬間は二度とない。次のビル・ゲイツがオペレーティング・システムを開発することはない。次のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが検索エンジンを作ることもないはずだ。次のマーク・ザッカーバーグがソーシャル・ネットワークを築くこともないだろう。彼らをコピーしているようなら、君は彼らから何も学んでいないことになる。
・・・マネが得意と言われてきた日本人も、ゼロから何かを創る気概が必要なのだというのが「ZERO TO ONE」の精神だ。
ただ、「先生、イノベーションって何ですか」伊丹敬之(PHP)を読んで少し考えが変わった。
イノベーションには一発ホームランのような「大きなイノベーション」と、こつこつヒットを積み上げるような「小さなイノベーション」があり、どちらにもチャンスはあるので、「大きなイノベーションだけを見るな、と強調する必要がありそうです(P236)」と言う。
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イノベーションの世界で、インクレメンタル(逐次的)イノベーションとラデイカル(急進的)イノベーションと、二つの種類のイノベーションの区別をすることがあります。逐次的とは、少しずつイノベーションが起きていくことで、改良が進んでいくということです。小さなイノベーションがこのイメージです。急進的とは、一気にジャンプする、不連続なイノベーションで、まったく新しい技術の登場のようなものです。大きなイノベーションのイメージです。
日本企業は、インクレメンタルな小さなイノベーションをシコシコト積み重ねることが得意だし、このイノベーションは膨大な資源投入は必要ないでしょう。だから、日本に適したイノベーションのタイプ、ということになるでしょう。(中略)大きなイノベーションは、小さなものの中からの突然変異がよくあるんです。
こうして大きな成果が小さなイノベーションをシコシコやることから生まれ得るのであれば、その技を磨くことにむしろ日本企業は励んだらいい。
三つのことが大切そうです。第一に、あちこちで、多くの人が小さなイノベーションを目指してがんばること。小さいからといってバカにせずに、努力を惜しまないこと。第二に、それらを積み重ねる、つなげるように心を配ること。ここでは大きな視野で小さなイノベーションをたくさん見ている人が必要でしょう。第三に、大きなイノベーションに育ちそうになったら、そこに資源投入を惜しまないこと。そして、その前提として、大きく育ちそうなものの邪魔をしないこと。P247・248
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ホンダのオートバイも、トヨタの自動車も、回転寿司のレーンも、繊維産業が盛んな地域の精密な機械づくりのノウハウがあったからこそ成り立った伊丹氏は言う。
繊維機械の技術の蓄積がなければ、これらのイノベーションはなかったわけで、いつも「ZERO TO ONE」とは言えないのだ。
ノーベル賞をとるような科学者のほとんどは、決してZEROからひらめいたわけではなく、従来の知見の蓄積とたゆまぬ努力があった。
「準備ある心の持ち主にのみ、幸運の女神は微笑む」というパスツールの「準備」は、「たゆまぬ努力を続けてきた」という意味であって、漠然と心待ちにしている人に幸運はやってこない。
そういう意味では、安易にシリコンバレーの企業家が主張する「ZERO TO ONE」という言葉のカッコよさに惑わされてはいけないと思う。
1冊の書籍でヒートアップしたが、別の書籍に目を通すことで少し冷静になれたといった気分である。
むろん気持ちを覚まし過ぎると現状維持になってしまうので、常に現状改革の意識はもっていたい。
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