◆文部科学省「大学入学者選抜改革推進委託事業」選定事業
個別学力試験「国語」が測定する資質・能力の分析・評価手法に関する研究~記述式問題を中心に~
という報告書がある。A4で41ページ分。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/__icsFiles/afieldfile/2019/01/22/1397824_001.pdf
27年度の大学入試問題(旧帝国大学)の分析なので、今後のことは分からないが、現状を理解するには参考になった。以下、まとめながら示す。
P6~7
◆「文脈に照らし筆者の主張(考え)の理由を問う」設問
→出題者の意図と合致し,かつ求められている能力に対応した記述ができることがポイント。
(1)字数制限がない場合は、解答する「文脈」の範囲をどこまで拡げて記述するかで解答する内容や文章表現が変化する。
だから、「小説における自由記述問題では,文章中には表現されていないことを自分の頭の中で想像して読み解いて記述する必要があるため,多種多様の解答が生じる」。
(2)字数制限がある場合は、本文読解で理解できた内容を制限字数内で要約して記述する力が求められる。
・・・受験生からすれば、字数制限は「ヒント」である。字数制限があるかないかは、出題者の意図が違うと言えるし、求められる能力が違うとも言える。
私が興味深いと思ったのは研究チームが設問内容を24項目に分類してみたが、15項目しか出題されていないことだ。
【出題された設問】
①本文全体を読み筆者の主張(考え)を問う ②登場人物の心情を問う
③文脈に照らし指示語の内容を問う ④語句の意味を問う ⑤文の意味を問う
⑥ 文の示す状況を問う ⑦筆者の主張(考え)を問う
⑧筆者の主張(考え)の根拠や理由を問う
⑨登場人物の心情を問う ⑩ 登場人物の心情の理由を問う
⑪登場人物の行動を問う ⑫ 登場人物の行動の理由を問う
⑬登場人物の考えを問う ⑭登場人物の関係性を問う
⑮本文を踏まえて想像できることを問う
【出題されなかった設問】
①文脈に照らし 登場人物の考えの理由を問う ②段落等の要約を問う
③本文の要約を問う ④データを読み出し,結果を考察させる
⑤情報を分析した上で仮説を形成させる
⑥筆者の主張を踏まえて,言えること/言えないことを問う
⑦本文におけるある部分の位置付けや役割を問う
⑧文章の構造と接続詞の関係を問う
⑨表現の特色を問う
さらには、こうした設問の分類が人によって異なることも問題で、以下のような指摘があることが、まだまだ国語が科学的でない実態の表れだ。
◆設問の文言と内容の解釈において,WG構成員が全員同じ分類軸に分類できるものもあれば,異なるものもあった。多くの分類者が同じ分類軸に分類できなければ,フォーマットによる分類やその結果は,妥当性に欠けることとなる。P8
また、P12には興味深い記載があった。一部を改変して示す。
◆小学校6年生と中学校3年生を対象とした全国学力・学習状況調査[国語]では,PISA調査 [Reading Literacy]の出題及び結果をふまえて,従来の国語科試験では出題されていない設問が出題されている。
しかし、この種の設問は,平成27年度の大学入試「国語」の問題群には,ほとんど存在しない。PISA[Reading Literacy]で測定しようとしている能力に関して,義務教育段階では対応が始まっているが,現時点での大学入学試験では対応が難しいのではないかということが類推できた。
P13の表(フォーマット)には、PISAに対応した設問の分類もなされていた。
【テキストの精査・解釈】
①テクストの一部分を把握・理解する
②テクストの複数部分を通貫して説明(解釈)する
※指示語が指している内容を抜き出す、指示語が指している内容を要約して説明するなど。
③テクストの全体を把握・理解して説明(解釈)する
④テクストを編集・加 工・操作し て説明(解 釈)する
※読み取った情報(連続テクスト)をもとにして位置関係を示す、読み取った情報(連続テキスト)をもとにして計算等を経て結果を説明するなど。
【考えの形成・深化(自分の考え)】
⑤テクスト以外の考え(知識・体験)を組み込んで説明す(論じ)る
⑥複数のテクストを比較検討して説明(論じ)る
⑦表、グラフなどの 定量的テクストの分 析をふまえて、説明 す(論じ)る*?
※読み取った情報(非連続テクスト)をもとにした判断を説明する。ただし、ここでは、文
章(連続テキスト)の一部として図表(非連続テクスト)が挿入されていて、図表の解釈が
解答するために不可欠な場合とする。
⑧テクストによって触発された自分の考えを論じる
⑨構成・表現形式を理解(解釈)して論じる
◆旧帝国大学系が出題している問いを含めて,多くの問いは,「テクストの精査・解釈」に分類される。第3フォーマット①②③欄である。ほとんどの問いは,テクスト内部の解釈が正確に読解できるかどうかを見ている。日本の国語科教育が伝統的にとってきた「読解」の定義にあてはまる。
東京大学及び京都大学では,テクスト内部の正確な解釈だけでは説明出来ない問いがある。つまり,⑤欄に分類される問いが多い。しかし,1つのテクストの提示に止まっている。複数のテクストを比較検討して解答するという問いはない。つまり,⑥欄に分類される問いはない。
(中略)
つまり,国語科という枠の試験では,テクスト内部の正確な読解ができているかどうかを問うことが一般的となっている。「(自分の)考えの形成・深化」を見ていない。あるいは,国語科という枠内では,このことを問うのが困難なのかもしれない。
ただし,一部の大学では,旧帝国大学系が踏みだしていない④⑦⑨欄に分類される問いを出題している。全国学力調査のB問題などに類する問いである。
・・・さて、2020からスタートする大学入試改革によって、これまでほとんど存在しなかったPISA型の問題が出題されるだろうか。
これまでのプレテストを見ると、PISA型問題が出題される。YESだ。
しかし、従来の大学入試では出題されていないのだから、ノウハウは少ない。
ところで、小中学校の実践では、全国学テ問題に対応が始まっている。
小中から大学入試を貫く国語のノウハウが見えてきそうだ。
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