美智子さまの講演録
地元中日新聞に、美智子さまの1998年の講演録が再掲された。
久しぶりにこの講演録を読んでみて、改めて素晴らしい内容だと思った。
第26回IBBYニューデリー大会(1998年)基調講演
子供の本を通しての平和--子供時代の読書の思い出--美智子
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/ibby/koen-h10sk-newd...
美智子さまが紹介した新見南吉の「でんでんむしのかなしみ」。
美智子さまの語る粗筋で引用すると
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そのでんでん虫は,ある日突然,自分の背中の殻に,悲しみが一杯つまっていることに気付き,友達を訪ね,もう生きていけないのではないか,と自分の背負っている不幸を話します。
友達のでんでん虫は,それはあなただけではない,私の背中の殻にも,悲しみは一杯つまっている,と答えます。
小さなでんでん虫は,別の友達,又別の友達と訪ねて行き,同じことを話すのですが,どの友達からも返って来る答は同じでした。
そして,でんでん虫はやっと,悲しみは誰でも持っているのだ,ということに気付きます。
自分だけではないのだ。私は,私の悲しみをこらえていかなければならない。
この話は,このでんでん虫が,もうなげくのをやめたところで終っています。
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このお話は、すごく深い。
人は誰しも悲しみを背負っている。
自分だけが理不尽な苦しみを背負っていると思いたくなることもある。しかし、結局のところ辛いのは自分だけじゃない。
それが分かることで、人は強く優しくなれるのだと思う。
合わせて感動したのは、美智子さまのコメントだ。
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この話は,その後何度となく,思いがけない時に私の記憶に甦って来ました。
殻一杯になる程の悲しみということと,ある日突然そのことに気付き,もう生きていけないと思ったでんでん虫の不安とが,私の記憶に刻みこまれていたのでしょう。
少し大きくなると,はじめて聞いた時のように,「ああよかった」だけでは済まされなくなりました。
生きていくということは,楽なことではないのだという,何とはない不安を感じることもありました。それでも,私は,この話が決して嫌いではありませんでした。。
(中略)
読書は私に,悲しみや喜びにつき,思い巡らす機会を与えてくれました。
本の中には,さまざまな悲しみが描かれており,私が,自分以外の人がどれほどに深くものを感じ,どれだけ多く傷ついているかを気づかされたのは,本を読むことによってでした。
自分とは比較にならぬ多くの苦しみ,悲しみを経ている子供達の存在を思いますと,私は,自分の恵まれ,保護されていた子供時代に,なお悲しみはあったということを控えるべきかもしれません。
しかしどのような生にも悲しみはあり,一人一人の子供の涙には,それなりの重さがあります。
私が,自分の小さな悲しみの中で,本の中に喜びを見出せたことは恩恵でした。
本の中で人生の悲しみを知ることは,自分の人生に幾ばくかの厚みを加え,他者への思いを深めますが,本の中で,過去現在の作家の創作の源となった喜びに触れることは,読む者に生きる喜びを与え,失意の時に生きようとする希望を取り戻させ,再び飛翔する翼をととのえさせます。
悲しみの多いこの世を子供が生き続けるためには,悲しみに耐える心が養われると共に,喜びを敏感に感じとる心,又,喜びに向かって伸びようとする心が養われることが大切だと思います。
そして最後にもう一つ,本への感謝をこめてつけ加えます。
読書は,人生の全てが,決して単純でないことを教えてくれました。
私たちは,複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。
人と人との関係においても。国と国との関係においても。
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長い講演録だが、「悲しみを乗り越える」で一貫していることが分かる。
個人の体験だけではあまりに狭い。だからこそ、読書体験によって視野を広げ、見識を広げよと述べている
本当に奥深い。
これほどの講演ができる美智子さまは素晴らしいと今回も痛感した。
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