« AIの限界を「ゲシュタルト知覚」で解釈する | Main | 文科省が求める論理の技法~言い回し~ »

June 17, 2019

大学入試講演会で分かったこと!

6月9日(日)、朝日新聞主催の講演会「これからの大学入試はどう変わる?」に参加した。
 講師は鹿児島大学の渡辺弘氏。センター試験元出題者だそうだ。
 大学入試制度の改革は「覚える」から「考える」がキーワード。
しかし9割の保護者は改革の意味や意義を理解していないと言われた。

2030年までに半分の職業がなくなる。AIが得意なことを人間がやる必要はないということで、2つの要素を挙げられた。

①クリエイテイブに考える力
②交渉力・伝える力

このあたりは元文科大臣である下村博文氏の著書と同じだ。
②は通常コミュニケーション能力として表記される。
いくら論理的に正しくても相手が納得しなければ意味がないので説得する技術(話法)が求められる。

石炭から石油へと産業構造が変わることは過去にもあったが、職業の半分もなくなる自体は過去にない。
そうした時代に対応する人材の育成はまさに国家戦略なのだ。

よく誤解されるのが「暗記から考える」への移行に伴って「知識」が要らないと思われていること。
文科省は「知識」とともに「思考力・判断力・表現力」が必要と主張しており。知識が要らないとは一言も言ってないそうだ。

新しい大学入試共通テストの特徴を渡辺氏は何点か挙げられた。

【特徴1】 「分量が多い」

センター入試に比べてプレ入試の国語は5ページ増え、数学は8ページ増えた。天声人語を2分で読む速さでは、問題文を読むだけで試験時間が終わってしまう。
だから「制限時間内に早く正確に読む力が求められる」と結論づけたが、ここは違うと思う。

 丁寧に全文読んでいたら間に合わないことを自覚すべきだ。
テキストの必要な部分を素早く見抜き、余分な箇所は読まない覚悟が必要なのだ。
これは、椿原正和先生の主張だが、分量の多くなった大学入試にも活かせることが分かる。

【特徴2】 テキストと非連続型テキスト

参加された保護者は初耳だったかもしれない。本文と一緒に図表やグラフが提示され、複数資料を組み合わせて読み解かなくてはいけない。
このあたりは、学テ対策と全く変わらない。
学テに慣れた子どもなら今更驚かないが、学テ経験のない保護者は図表やグラフの多さにビックリしているだろう。

【特徴3】 各教科で社会的なテーマ・時事問題が取り上げられる

数学で「建築基準法」が出たり、英語でオバマ大統領の広島訪問が出たりしている。
問題文の中から重要な要素を見抜くことが大事だと渡辺氏はいわれた。
社会的なテーマが取り上げられるから「新聞を読もう」という主催者のPRにつながるのだが、渡辺氏は英語の話題の場面で次のように話している。

◆社会的な知識があれば、英文を流し読みするだけで解答できる。

これは、特徴1で自分が渡辺氏に異論を唱えたのと同じだ。テキストや資料が膨大でも先行知識があれば、全部読まなくても大丈夫だ。
「要所をピックアップする」「流し読みをする」というスタンスが大事なのだということが分かる。

 学テも、生徒会新聞を取り上げるような問題がある。社会的なテーマへの日頃からの関心の高さが、解答処理能力に大きな影響を与える。

【特徴4】 記述式問題

①与えられた条件にそって
②論理的な文章を
③所定の文字数で書く

字数が3番目であるのは、椿原先生の指導と同じだ。指定された条件で書き始めると、結果的に所定の字数になると分かっていれば、文字数を最初から気にしないで解答できる。
与えられた条件にきちんと対応させることを渡辺氏は「情報処理の力」と言っていた。「情報処理能力」ってそんなレベルの低いことを言うのかと少しがっかりしたが・・。

 正確な数値ではないが試行調査(プレテスト)の結果、80字から120字指定の国語の問題の完全正答率が0.7%で無回答率も高かったという。
 書くべき内容と書き方の指定の仕方が不親切だったとの指摘もあるようだが、椿原先生の学テ対策でも条件設定をしっかり確認させているから、大学入試にまで対応できることが分かる。

渡辺氏は記述式の問題に対応できない原因の1つとして、リーデイングスキルテストの結果の低さに言及された。あの新井紀子氏のグループの研究結果だ。「問題文を正しく読み取れない」「教科書の記述が正しく読み取れない」では、とうてい入試問題を解けない。

◆読めない・書けない・ニュースを知らないが課題。
◆英語だけではなく国語の4技能(読む・話す・聞く・書く)が問われている。

これでは、大学入試に対応できないというのが渡辺氏の見解だ。

 大学入試対策を聞けば聞くほど小学校からの学テ対策がそのまま通用することが実感できるような講演会だった。

※過去の覚書より

東京書籍発行「小学校・中学校 教育情報 教室の窓 Vol.55」の難波博孝氏の論稿は参考になった。
https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/ten_download/2018/2018097...

大学入試が求めるもの(記述式)
①複数の種類の実用文を読ませること
②複数の文章を組み合わせて考えさせること
③大量の情報を処理させること
④最大で200字程度の文章を20分程度の短時間で書かせること
⑤多くの条件を踏まえた文章を書かせること
⑥誰かの立場で文章を書かせること

 そして、次の指摘は、まさにその通りだと思った。

◆実はこの方向性は、文科省がずっと追い求めてきたことであった。小学校・中学校関係者の方ならすぐわかるだろうが、今まで10年以上行われてきた全国学力・学習状況調査のB問題と共通テストのここまでの傾向はそっくりだからである。文科省は10年かけて、共通テストの基盤をつくってきたといえる。

長文に対応するスキルとして次の2点が挙げられる。
①ていねいに抜き出す作業が課せられている。
②よく読めば、解答が「常体で書くか敬体で書くか」は決まってくるし、「敬語表現」がいるかも決まってくる。

  だから、繊細で緻密で慎重な子が求められている。しかし、その一方で 

①分量が膨大だから全部のページを丁寧に読んでいたら間に合わない。
②選択問題など、深く考えなくても解ける問題がある。

  だから、迷わず大胆に決断できる子が求められている。

ところで、朝日新聞には「いちからわかるコーナー」という時事問題をわかりやすく解説している箇所があるそうだ。
QAによる進行、グラフや図表、イラストなどもあって、まさに学テや大学入試問題に出そうなパターンになっている。
そのことを利用した朝日新聞は、このコーナー専用の切り抜きノートまで作っていると知って、これもびっくりした。
http://manabu.asahi.com/ichikarawakaru/

①タイトルや見出しを意識させ、

② グラフや図表に対応する本文はどこか線を引かせ、

③ 自分はどう思うかを書かせる

 この流れだから、学テや大学入試に役立たないはずがない。
このノートを使うかどうかは別にして、こういう取り組みがあることは評価したい。

こうしたコーナーを読むだけでなく、こののようなレポートを自分で書かせ、連続テキスト非連続テキスト融合型の資料の読み方に慣れさせることも大切だと思う。


 最後に、この大学入試説明会で、再確認したワードが2つある。

①「セレンディピティ」

 渡辺氏の話の中には出てこなかったが、スクリーンには表示されていた。

セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

・・・林修氏も、以前、次のように話していた。「セレンディピティ」のことなのだと納得した記憶がある。

◆辞書を引くとたまたま近くの言葉を調べて興味が広がることがある。電子辞書でピンポイントでワードを検索していると、こういう楽しみはない。だから自分は紙の辞書引きが好きだ。

 効率のよさを求め、関心のあるニュース・知りたいニュースだけを求めていては、視野が広がらない。
ネットで書籍を買うと関連本しか案内されないが、書店に行ってブラブラしていると思わぬ書物を見つけることがある。
ノーベル賞のような発見にもセレンディピティが関与した例は多い。セレンディピティを受け入れるだけの「余裕」がほしい。

 ②努力の見える化

 渡辺氏は新聞の切り貼りノートをできれば毎日続けるようにと勧めた。
スクラップしたノートがずらっと並ぶことで、日々の努力が「見える化」される。受験前日にその厚みを確認することで自信をもてるだろうと。
 渡辺氏の「ハードデイスクでは努力の量は実感できない」という言葉が腑に落ちた。

|

« AIの限界を「ゲシュタルト知覚」で解釈する | Main | 文科省が求める論理の技法~言い回し~ »

国語」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« AIの限界を「ゲシュタルト知覚」で解釈する | Main | 文科省が求める論理の技法~言い回し~ »