抽象化と具体化の往復で思考が深まる
例えば、自分の好き嫌いを分析する場合は、具体化して考えてみる(実話ではありません)。
①カツ丼いいなあ。
②ラーメンもいいなあ。
③チャーハンもいいなあ。
その後、①②③の3つの具体例から共通項を見出す。
◆ということは、俺って脂っこいものが好きなんだ。
◆色々あるけど、要するに俺って脂っこいものが好きなんだ。
これが「抽象化」である。
キーワードは、「ということは」「つまり」「要するに」などだ。
その後、「抽象化」から再度「具体化」を導く。
◆ということは、俺って天ぷらも好きかな。うん、確かにそうだ。
◆ということは、俺って魚より肉が好きかな。うん、確かにそうだ。
具体と抽象の往復活動・・・それが「論理化」である。
さて、日常的な例で書いたが、教育実践で言えば、次のような理屈になる。
①実践Aがうまくいった。
②実践Bもうまくいった。
→ ということは、ABに共通する△△の指導が成果をもたらしたということだ。
これが「具体例から抽象化」である。
その後、「抽象化」から再度「具体化」を導く。
→ならば、次の実践でも△△の要素を取り入れたら、うまくいくかもしれない。
具体と抽象の往復活動が「論理化」である。
そして、これが「教育技術の法則化運動」の肝であった。
「授業の腕をあげる法則」の10原則は、いわば「抽象化」だ。
授業の原則は、向山洋一氏の挙げた具体例が身に染みるから腑に落ちる。
教職体験のない学生よりは、数年、学級がうまくいかない体験をした先生の方が、具体例に共感できるから、抽象化された原則の意味や価値に気づくことができる。
そして、10の原則が、自分のふだんの授業行為、指導場面どう生かせばよいかを具体的に考え実行してみることで、その原則の意味や価値にさらに気づくことができる。
これが「抽象と具体の往復」だ。
「抽象から具体」が弱い人は、書籍に載った実践場面でしか追試できない。原則を自分の実践に応用できずに終わってしまう。いわば「ないものねだり」だ。
「具体から抽象」が弱い人は、自分がうまくいったとき・自分がうまくいかなかったときの原因を、共通化できない。
ビキナーズラックのようにうまくいった実践があったとしても、「たまたま」のまま終わる。
あるいは、うまくいかなかった指導の原因が分からず、その後も繰り返したりする恐れがある。
授業の腕を上げる10原則を暗記するだけで成果が上がらないのは、それを具体的な指導の場に降ろせないからだ。
楠木氏の「経営センスの論理」(新潮選書)の6章は「思考の論理」ということで、「抽象」と「具体」の往復運動について数ページ書いてある。
◆もちろんビジネスの現場で抽象的なことばかりでは「じゃあ結局どうするんだ」という話になる。どんな仕事も最後は具体的な行動や成果での勝負である。ただし、具体のレベルを右往左往しているだけでは具体的なアクションは出てこない。抽象度の高いレベルでことの本質を考え、それを具体のレベルに降ろしたときにとるべきアクションが見えてくる。P218
◆抽象的な思考がなければ具体についての深い理解や具体的なアクションは生まれない。P211
◆実務経験がある人でも、具体的な経験はしょせんある仕事や業界の範囲に限定されている。抽象と具体の往復運動ができない人は、いまそこにある具体に縛られるあまり、ちょっと違った世界に行くとさっぱり力が発揮できなくなってしまう。また、同じ業界や企業で仕事を続けていても、「抽象化や論理化ができない人は、同じような失敗を繰り返す。ごく具体的な詳細のレベルでは、ひとつとして同じ仕事はないからだ。必ず少しずつ違ってくる。抽象化で問題の本質を押さえておかないと、論理的には似たような問題に直面したときでも、せっかくの具体的な経験をいかすことができなくなる。P217
・・・抽象度が高い典型は「算数」の授業で、例題と違う数字にして練習問題を解く。文章題の場合は、数字はもちろん状況設定が変わる。
これが「数学」になると、数字を抽象化して、NやXなどの記号で数式を表すようになる。
社会科でも、たとえば「トヨタの自動車工場」で学んだことを、別の「工場」に応用して考える。これが「具体から抽象」だ。
これに対して、通常の国語は、授業で「ごんぎつね」で扱い、事後のテストでも「ごんぎつね」を扱う。
「ごんぎつね」で学んだ読みの力が、「おじいさんのランプ」の読みになかなか直結しないから、抽象的な(汎用的な)国語の力が付かないと言われる。
「汎用的読解力」というワードが注目されるのは、具体的な作品を読み取る授業だけに没頭していては、別の作品を読む力が身につかないからだ。
まさに「具体から抽象」が課題になっているのだ。
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