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August 14, 2020

「文体」がいかに重要か 〜「ベストセラーコード」②〜

『斉藤喜博を追って』の少し長いあとがきで圧巻だったのは向山洋一氏の文体選定の場面であった。
 向山氏はこれまでも、5つの文体を内容によって使い分けてきたと述べている。

①論文風  ②大衆小説風  ③美文風   ④叙述風   ⑤私小説風

※註: それぞれの具体例となる文章に納得します。ぜひ原文をご覧ください。

◆これらの文はむろん内容によって違ってくる。逆に言えば文体によって、内容も限定されてくる。

※註: それぞれの文体の活かし方の解説に納得する。ぜひ原文をご覧ください。

 以上の五つの文体のどれにするかを悩んだのである。

◆つまるところそれは、何を表現するかと言う事でもあった。

という部分にしびれたことを思い出す。

A 教育論を書くのか
B 学校での出来事をパノラマ風に書くのか。
C 教師の心情を書くのか。
D 事実の描写とその分析を書くのか。
E 教師としての歩みを書くのか。

・・・そして、最後は「私小説風」の文体を選んだと言う。
 
文体を意識する、文体を選ぶとは、これほど重要な作業なのだ。
 
 
 さて、『ベストセラーコード』(日経BP社)の第4章「デビュー 句読点は語る」は、まさに文体研究であった。
有名な作品の冒頭の一文を列挙する箇所を読んでいて、向山氏のあのあとがきを思い出した。
 
作家の文体をコンピューターで研究するのは、応用言語学の一分野で、計量文献学とも呼ばれているそうだ。これによって作者不詳の作品を誰が書いたか推定することも可能になる。

「人は誰でも言葉に指紋、すなわち文体を持っている」 P155

という指摘も魅力的だ。the やof の使用回数というようなかなりマニアックな分析も行われている。
 
◆数千冊の本を、ベストセラーメーターに読ませて、こうした文体の基本要素をチェックさせてみたところ、売れる本に特有のパターンが明らかになった。もっともよく使われる単語や句読点を491個チェックしただけで、コンピューターは70%の確率で売れる本と売れない本を正確に区別したのである。p180
 
◆要するに、文体は重要だということだ。プロットやテーマ、登場人物を届ける手段である文体は、機械的なものであると同時に有機的なものでもあり、持って生まれた才能と後天的に身に付けた技術が結合して生まれるものである。p160
 
◆作家の文体を操る力量は冒頭の1文に現れると思うのでここでは有名な3作品を見てみよう。(具体例略)
これらの文のどこがよいのだろうか。まずひとつには、3つともこの最初の一文から声が聞こえることだ。長さ、句読点、簡素さに注目してほしい。誰かが私たちに話しかけていて、それがリアルに感じられる。そこにはある種の力がある。ためらいも迷いも不安もない。作家には個性を作り出すいう課題がある。それが魅力的であろうとなかろうと、とにかくそれが小説の中に存在し読者を引っぱっていく限りは、小説は読んでもらえる。大勢の読者をつかむ作家というのは、さりげなく文体をコントロールしながら、一文目から読者にこの個性の存在を感じさせる。p161〜164
 
◆最高のオープニングとは、純文学だろうが娯楽小説だろうが関係なく、300ページの物語がはらむ対立のすべてを20ワード以下の一文に盛り込んだものだ。作家は文法を駆使したり、わたしたちには思いもよらない言い回しを使ってそれを成し遂げる。p169
 
◆こうした文体の微細な特徴を、作家ごとに分析したところで大きな発見にはならないと思われるかもしれないが、実際には集めるうちにベストセラー小説のパターンが浮かび上がってきた。I wouldの代わりに、I‘d、 You areの代わりにYou'reを使う事は、皆が思う以上に重要なことだと分かった。形容詞と副詞、特に形容詞は使われる頻度が低いということもわかった。つまり、売れる小説は、余計な言葉を含まずに、より短く簡潔な文で成り立っているということだ。余計な従属節で飾りたてる必要もなければ、名詞を3回言いかえる必要もない。動詞のあとに「ly」で終わる単語を続けるのも好まれないようだ。p184


・・・付箋だらけになってしまった。どこも外せない。翻訳者の文体が優れているから魅了された。

およそ30年前に『斎藤喜博を追って』のあとがきを読んだときに見抜けなかった「文体論」の価値が、今になって、少しだけ分かった。

これもまた「向山実践」のバックボーンと言えるだろうか。夏休みの成果である。

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