対比の授業を考える
「二項対立・二元論」について書いておきたい。
石原千秋氏は、「二項対立・二元論」について次のように述べている。
==================
たとえば、「自己」ということについて考えるとしよう。そのとき、まずしなければならないのは、「自己」とは反対の概念を思い浮かべることである。それは「他者」だ。すると、「自己」という概念は、この「他者」という概念との『関係の中で考えればいいことになる。こういう方法を、二項対立とか二元論と呼ぶ。
「近代」を問い直す文章自体が、二項対立のレトリックを用いずには成立しないのだ。〈前近代/近代〉とか〈近代/現代(あるいはポストモダン〉といった二項対立はよく見かけるレトリックだ。独善的にならずに、関係の中でものを考えようとするなら、どこかで二項対立を用いるしかないのである。その意味で、二項対立は思考の基本である。
『教養としての大学受験国語』(ちくま新書)P14~16
※太字は原文通り
=============
・・・小学校で扱う文学作品でも、二項対立(対比)で読めるものが多い。
作品の対比構造を整理すると、主題が明らかになるのだ。
(1)「ごんぎつね」の対比
「『ごんぎつね』の作品の中で重要な対比を考えさない。」と問うと、たとえば
、
①「いたずら」と「つぐない」
②「すれちがい」と「通じ合い」
という意見が出る。
ただし、「と」で並べるだけでは、漠然としているので、説明をさせる必要がある。
①いたずら好きだったごんが、兵十に同情して、つぐないをするようになった。
だから「いたずら」から「つぐない」へとごんが成長したという意味の対比だ。
②ごんが兵十に撃たれた直後にごんがつぐないに来たことが分かった。
だから、すれちがってしまったけど、最後の最後に心が通じ合ったという意味の対比だ。
「ごん/兵十」、「うなぎ/栗」などの具体物を取り上げても深い読みにはつながらないかもしれないが、とりあえず列挙してみると、そこから抽象思考に移行できる場合もある。
どんな対比(二項対立)でもいいから、まずはたくさん列挙させてみるのがいい。
(2)「一つの花」の対比
「『一つの花』の作品の中で重要な対比を考えさない」と問うと、
「戦争中/戦後」、「ほしがるゆみ子/与えるゆみ子」、「貧しさ/豊かさ」、「戦争/平和」、「おにぎり/コスモス」といった対比が出る。
これらを、大きな対比で括ってみると、
◆「戦時中の貧しさ」と「戦後の豊かさ」
あたりが出る。
◆「戦争中は貧しくておにぎりも十分にもらえなかったゆみ子が、戦争が終わったら豊かな食事を楽しんでいる」
対比は強調のレトリックだから、戦争中が悲惨であればあるほど、戦後の豊かさが浮かび上がってくる。
(3)「海の命」の対比
「『海の命』の作品の中で重要な対比を考えさない」と問うと、結構むずかしい。
この作品は「二項対立では捉えられないのかな」と疑ってもいる。
具体物で列挙してみる。
①「太一/じいさ」 ②「太一/父」 ③「太一/クエ」 ④「父親/与吉じいさ」
④「クエを逃がす前/クエを逃がす後」 ⑤「命を奪う海/命を救う海」
などから、何か抽象思考に移行してみた。
「二項対立」というよりは「二面性」と言った方がぴったりくるものもある。
◆太一の成長
①「父のような漁師になりたい太一」から「与吉じいさのような漁師になりたい太一」への成長
②「魚をたくさん捕る漁師」から「ほどほどの量で満足できる漁師」への成長
③クエを獲って復讐したい太一から、クエを逃がして「海の命」を守りたい太一への成長
◆海の二面性
①「父の命を奪う海」であると同時に「皆の命を救う恵みの海」
◆父の二面性
①「村一番の漁師」ではあると同時に「海の命を大事にしない漁師」
一番重要な対比を考えさせたとき、題が「海の命」だから、、「海の二面性」の方に子どもは惹かれるかもしれない。
(4)「やまなし」の対比
以前「陰陽二元論」という東洋的な思想を取り上げた。
「『やまなし』の作品の中で重要な対比を考えさない」と問うと、この思想が絡んでくる。
二枚の幻燈だから「5月/12月」で分けられることは、すぐに分かる。
①「五月/十二月」 ②「かばの花/やまなし」
③「かわせみ/やまなし」 ④「こわい/いいにおい」
そして、大きな対比で括ってみると、
◆「五月=動の中の死」と「十二月=静の中の誕生」
のようになる。
まさに「陰陽二元論の「陽の中の陰・陰の中の陽」の世界なのである。
石原千秋氏は、「二項対立・二元論」について次のように述べている。
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たとえば、「自己」ということについて考えるとしよう。そのとき、まずしなければならないのは、「自己」とは反対の概念を思い浮かべることである。それは「他者」だ。すると、「自己」という概念は、この「他者」という概念との『関係の中で考えればいいことになる。こういう方法を、二項対立とか二元論と呼ぶ。
「近代」を問い直す文章自体が、二項対立のレトリックを用いずには成立しないのだ。〈前近代/近代〉とか〈近代/現代(あるいはポストモダン〉といった二項対立はよく見かけるレトリックだ。独善的にならずに、関係の中でものを考えようとするなら、どこかで二項対立を用いるしかないのである。その意味で、二項対立は思考の基本である。
『教養としての大学受験国語』(ちくま新書)P14~16
※太字は原文通り
=============
・・・小学校で扱う文学作品でも、二項対立(対比)で読めるものが多い。
作品の対比構造を整理すると、主題が明らかになるのだ。
(1)「ごんぎつね」の対比
「『ごんぎつね』の作品の中で重要な対比を考えさない。」と問うと、たとえば
、
①「いたずら」と「つぐない」
②「すれちがい」と「通じ合い」
という意見が出る。
ただし、「と」で並べるだけでは、漠然としているので、説明をさせる必要がある。
①いたずら好きだったごんが、兵十に同情して、つぐないをするようになった。
だから「いたずら」から「つぐない」へとごんが成長したという意味の対比だ。
②ごんが兵十に撃たれた直後にごんがつぐないに来たことが分かった。
だから、すれちがってしまったけど、最後の最後に心が通じ合ったという意味の対比だ。
「ごん/兵十」、「うなぎ/栗」などの具体物を取り上げても深い読みにはつながらないかもしれないが、とりあえず列挙してみると、そこから抽象思考に移行できる場合もある。
どんな対比(二項対立)でもいいから、まずはたくさん列挙させてみるのがいい。
(2)「一つの花」の対比
「『一つの花』の作品の中で重要な対比を考えさない」と問うと、
「戦争中/戦後」、「ほしがるゆみ子/与えるゆみ子」、「貧しさ/豊かさ」、「戦争/平和」、「おにぎり/コスモス」といった対比が出る。
これらを、大きな対比で括ってみると、
◆「戦時中の貧しさ」と「戦後の豊かさ」
あたりが出る。
◆「戦争中は貧しくておにぎりも十分にもらえなかったゆみ子が、戦争が終わったら豊かな食事を楽しんでいる」
対比は強調のレトリックだから、戦争中が悲惨であればあるほど、戦後の豊かさが浮かび上がってくる。
(3)「海の命」の対比
「『海の命』の作品の中で重要な対比を考えさない」と問うと、結構むずかしい。
この作品は「二項対立では捉えられないのかな」と疑ってもいる。
具体物で列挙してみる。
①「太一/じいさ」 ②「太一/父」 ③「太一/クエ」 ④「父親/与吉じいさ」
④「クエを逃がす前/クエを逃がす後」 ⑤「命を奪う海/命を救う海」
などから、何か抽象思考に移行してみた。
「二項対立」というよりは「二面性」と言った方がぴったりくるものもある。
◆太一の成長
①「父のような漁師になりたい太一」から「与吉じいさのような漁師になりたい太一」への成長
②「魚をたくさん捕る漁師」から「ほどほどの量で満足できる漁師」への成長
③クエを獲って復讐したい太一から、クエを逃がして「海の命」を守りたい太一への成長
◆海の二面性
①「父の命を奪う海」であると同時に「皆の命を救う恵みの海」
◆父の二面性
①「村一番の漁師」ではあると同時に「海の命を大事にしない漁師」
一番重要な対比を考えさせたとき、題が「海の命」だから、、「海の二面性」の方に子どもは惹かれるかもしれない。
(4)「やまなし」の対比
以前「陰陽二元論」という東洋的な思想を取り上げた。
「『やまなし』の作品の中で重要な対比を考えさない」と問うと、この思想が絡んでくる。
二枚の幻燈だから「5月/12月」で分けられることは、すぐに分かる。
①「五月/十二月」 ②「かばの花/やまなし」
③「かわせみ/やまなし」 ④「こわい/いいにおい」
そして、大きな対比で括ってみると、
◆「五月=動の中の死」と「十二月=静の中の誕生」
のようになる。
まさに「陰陽二元論の「陽の中の陰・陰の中の陽」の世界なのである。
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