「語彙力こそが教養である」斎藤孝(角川新書) 2016年版
語彙力が教養である事を説明するのに、斎藤氏は、「より多くの語彙を身に付ける事は、手持ちの絵の具が増えるようなものです」と「絵の具」の比喩を用いた。5、6ページ
◆「すごい」「やばい」「なるほど」「確かに」ばかり使う人は、8色の絵の具しか持っていない人。一方で、200色の絵の具を使える人は、あまねく表現を駆使して相手を動かします。部下にかける言葉も、自己アピールの言葉も、ビジネスでの商談も、プライベートな雑談も、「200色」の彩りを持って表現できるようになる。当然、それに伴って、あなたが受ける評価も大きく変わっていくでしょう。
・・・さすがだと思う。ここで8色と200色の絵の具の違いで説明するとは!
「彩り」という言葉も上品だ。
52ページには「頑張る」の別表現が例示されている。
「精一杯尽くす」「全力であたる」「精進する」「粉骨砕身する」「全身全霊を捧げる」
こうしたバリエーションの多さが知性であり、教養なのだ。
これまで私自身が意識してきたのは、次のような点だ。
※子どもの作文は「楽しかったです」で終わりがちだから、「楽しかった」以外の言葉を使わせる。
※会話場面で「○○さんは言いました」の繰り返しではくどいから、「言いました」以外の言葉で表現させる。
※文のつなぎが「そして」ばかりでは単調だから、別の語句を使わせる。
自分は何でも「最高」と褒める人を信じない。「最高」をそんなに乱発したら「最高」の意味がないからだ。同じ意味で「もう、最悪」などとよく言う人も信じない。「一生のお願い」を使う人も信じない。もっと、その場に合った言葉を吟味して使ってほしいと思う。
誰しも自分が頼りがちな口癖、常套句があるから、まずそのNGワードを自覚して封印せよ、そして別の言葉に言い換えよ、と斎藤氏は説く。
「語彙力」イコール「言い換え力」であることが、よく分かる。
ただし、NGワードを封印すると言いながら、そのNGワードを冒頭で使って、後で具体化すれば良いと述べているところもスゴイ。
◆一度「おいしい!」と感情を見せ、その後に「さくさくしていて、歯ごたえが気持ちいいですね」と続ける。そうすれば、ただ「おいしい!」で終わる場合と違って語彙の貧困な人には見えません。(中略)単純なワードを冒頭に持ってきてから具体的な描写に移る癖をつけると、バランスの良いコメントができます。46ページ
なお、斎藤氏は、語彙力を測るポイントの1つとして、「耳で聞いた単語を反射的に漢字変換できるかどうか」を挙げている。
◆私たちは、人と話している時やテレビを見ているときはひらがなの「音」を聞いているんですが、決して「平仮名のまま」理解しているわけではありません。無意識のうちにそして瞬時に漢字かな混じり文に変換しながら聞いてるんです。p34
なるほど。同音異義語の多い日本ならではの、語彙力の定義だ。
それは、脳裏に言葉のイメージが明確に浮かぶかという問題でもある。
入力した音を文脈に合わせて漢字変換できないようでは、語の意味、文全体の意味を理解できるはずがない。
ところで、語彙を高めるのに「漫画」が良いとは、斎藤氏は挙げていないが、以前から漫画はスゴイと思っている。
漫画の良いところは、言葉の意味を画像が補うし、文字情報も提示しているから「漢字仮名交じり文」で情報がインプットされること。テレビの場合は字幕表示していなければ、文字としては補えない。
音として入ってきただけの知らない言葉は理解できない。
辞書的な意味を知っただけでは、腑に落ちていないから、自分の言葉としてアウトプットできない。
「端的な言葉に言い換える」「分かりやすい言葉に言い換える」ためにも、語彙力を鍛える手立てをきちんと体系化したい。
「本を読め」だけでは、あまりに根性論的な指導なのだ。
確かに「語彙といえば、読書量」となりやすい。
しかし、振り返ってみて、自分はそんなに読書をしてきたのかというと、案外そうでもないのかなと思う。
読書にも質があるから、軽い読み物を好んだ自分の語彙が、難解な文章を読む際に役立ったとも思えない。
2人の息子も、読書に熱心だったようには思えない。
となると、結局、日常生活と異なるジャンルでの語彙習得に一番寄与したのは、高校や大学の入試問題かなと思う。
実際のところ、久しぶりに大学入試問題に取り組んでみて、頭が「難解な論説文」モードに入った。
「入試」という壁がなければ、あれほど難解な評論文を読む機会もなかっただろうと思う。
語彙力は教養の表れであり、ウイットに富んだ会話ができると信頼を得られると斎藤氏は述べているが、そういうことで語彙の必要性を語る気はない。
◆正しく情報を読み取り、かつ他者に伝えるために必要なのが語彙なのだ。
◆難しい言葉を分かりやすく言い換える具体化、冗長な言い方を端的に言い換える抽象化、この抽象と具体の往復ができることが語彙力なのだ
と思っている。
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