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February 04, 2021

つまらない授業しかできなかったあの頃

昭和59年、採用試験に落ちた私は高校の非常勤講師として漢文の授業を数コマ担当していた。
「読んで、解説して、板書して、ノートに写させる」の繰り返しだった。
その授業展開をどうしたら変えられるかも分からないままの1年間だった。
フツーの高校だから、つまらない授業をしても騒ぎはしない。居眠りする生徒はいたが、注意する術もなかった。自分にとっての「黒歴史」だ。

最後の授業で「ショージ君」を題材にテストを行った。

「サンドイッチなどの正しい食べ方」

文芸春秋社「オール読物」の連載されていた東海林さだお氏の文章だ。

テキストの内容も質問も、正直言っておふざけだった。
テスト問題が配付されると、あちこちで「何だコレ?」という声や、クスクス笑いが聞こえてきた。

◆「サンドイッチの正面」はどこですか?
・・たとえばパン屋さんのショウウインドウに並んでいるときは、客側を向いているほう

◆「サンドイッチに於ける反ダ―ウイン理論」とは何ですか?
・・優良、高価な品種ほど早く絶滅するという理論

◆「全サン愛育連盟」の正式名称は?
・・全日本サンドイッチ愛好育成改善連盟

◆タマゴサンドに「圧迫感知」の必要がないのはなぜですか?
・・卵はそれほど高価でないゆえに、途中で絶滅することなくかなり深奥部にまで展開しているはずだから。

さりげない日常場面にややこしい理屈をつける東海林氏の文章は、くだらないが極めて論理的なのだ。

授業時間内に答え合わせ。
問題の指示に正対してもらおうと、問8では、意地悪な採点基準を示した。

◆このテストはおもしろいですか、くだらないですか。解答欄に大きく書きなさい。
・・・「おもしろい」「くだらない」以外の言葉を書いたら×です。「おもしろいけどくだらない」「どちらでもない」「とってもおもしろい」なども×です。
なお、解答欄に大きく書きなさいと書いてあるから、小さく書いた人も×です。解答欄の半分くらいのサイズで書いてなければ×です。


これまで「1人の人間」として授業に臨むことのなかった自分だったが、最後に自分らしさを出したかった。
採点まで楽しんで、予想以上に盛り上がったが、盛り上がった分、生徒の感想に心が痛んだ。

「これからも、こんなふうに楽しいテストを作ってください」
「実際のテストでもこの手の問題を作ってくれたらテスト中楽しくてしょうがないと思う」
「難解な文章じゃないから頭に無理なく入る」
「あまりにも大人げない感じがする」
「T氏の意外な面を知ったみたい」

・・・1年間、国語の楽しさを伝えられなければ、自分という人間性も伝えられなかったと思うと情けない「最後の授業」であった。

「無味乾燥な教材だけでなく、興味のわく教材を使った授業をしたい」という感想を編集部に送ったら「東海林先生も大変喜んでおられました」とのお返事をいただいた。

「黒歴史」の講師経験であったが、だからこそ、翌年、子どもたちを熱中させる「法則化運動」に自然とのめりこんでいった。「人として子供に対峙したい」という思いが強かった。

今回、中高の先生を対象に教え方セミナーを開催したいのも、この原体験があるからだ。

ちなみに、向山先生の「アチャラ」にショージ君が登場することを後で知った。
『教室ツーウエイ呼びかけ号』には、「ショージ君の論理から学べ」というページもあった。
向山先生と自分は趣味が合うんだなあと思わずニンマリしたのであった。

 

中高の先生方へ 「教え方セミナー」開催します!

https://senseiportal.com/events/62474?mid=dailysun&mlid=14524196

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