関連付けて思考するための言語能力 ~要するに「言い回し」の習得~
東京書籍の出している「ことのは」2019年3月号に、兵庫教育大学の勝見健史氏の論稿がある。
https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/ten_download/2019/2019123942.pdf
関係づけて思考するための言語能力
〜「しっかり考えなさい」からの脱却〜
と題し、関係づける思考の具体例と思考を促す言語表が示してある。
・・・比較、類別、分析、理由付け、推論・解釈、具体化・一般化、評価・批判といった思考の項目については特に驚かない。
この表ではそれぞれの思考を促す表現例を示している。
そこに心を奪われた。
比較「どちらが〇〇でしょう」
類別「〜から見ると。○と□は同じ仲間です。
分析「〜はA、B、Cから成り立っています」
理由付け「〜と書かれているから、=と思います。
推論「○と□だとすると、〜ではないでしょうか」
解釈「これは〜と言うことです」
具体化・一般化「これは例えば〜です。「これらの例から=といえます」
評価・批判 「○は=□の方が良い。理由は=だからです」
・・・このように、話型で具体的に推奨してもらえると、指導もしやすいし、評価もしやすい。
このような話型=言い回し=フレーズについては、以前も書いたことがある。
以前から気になっていたとも言える。
改めて再編集。
文科省が求める論理の技法~言い回し~
(1)小学生以下の論理の言い回し
文科省のHPにある中教審の「新しい時代の初等中等教育の在り方について(諮問)」
関係資料P24 「幼稚園教育要領の改訂(平成29年3月告示)」の「遊びを通しての総合的な指導」に「思考力、判断力、表現力等の基礎」の要素として、次の7項目が挙げられている。
①試行錯誤、工夫
②予想、予測、比較、分類、確認
③他の幼児の考えなどに触れ、新しい考えを生み出す喜びや楽しさ④言葉による表現、伝え合い
⑤振り返り、次への見通し
⑥自分なりの表現
⑦表現する喜び等
・・・しかし、こうして項目だけ挙げられても、何をどう指導したらよいかが分からない。
かつて、奈須正裕氏の講演を聞いて以下のメモ書きをした。
◆「あれ?おかしいなあ」は、仮説との不一致を示す言い回し。
◆ 「ほら、やっぱり~」は、仮説との一致を示す言い回し。
◆「だってさあ」は、根拠や反論を示す言い回し。
◆ 「それじゃあ」は、代案を示す言い回し。
・・・このように、発する言葉と項目を関連付けると指導も評価も分かりやすくなる。
試しに自分で埋めてみると、全項目は埋まらなかった。
「発する言葉」が思い浮かばないということは、「指導の手が思い浮かばない」「文科省が伝えたい内容が具体的に理解できてない」ということである。
①試行錯誤、工夫
「もし~してみたら、どうかな」 「いいこと考えた」「あれ、おかしいな」
②予想、予測、比較
「たぶん~」「きっと~」「やっぱり」「絶対に~」「~はずだ」「~にちがいない」
②分類、確認
「こっちの方が~」「分けてみると」
③他の考えなどに触れて新しい考え
「なるほど」「たしかに」
③伝え合い
「ねえ聞いて」「ねえ教えて」「あのね」「だからさ」
⑤次への見通し
「よおし今度は」「これからは」
(2)小学生の論理の言い回し
文科省資料の「言語活動の充実に関する指導事例集」では、中学年で「判断と根拠・結果と原因」や条件文、高学年で演繹法や帰納法の論理を用いて表現できるよう指導せよとある。
これも、一部、具体的な言い回しの明示がある。
逆に、明示されていない項目は指導が難しい。
【低学年】
○判断と理由の関係を明確にして表現する。
○時系列(まず,次に,そして,など)で表現できる。
【中学年】
○判断と根拠,結果と原因の関係を明確にして表現する。
○条件文(「もし○○ならば△△である」)で表現する。
【高学年】
○演繹法や帰納法などの論理を用いて表現する。
○規則性やきまりなどを用いて表現する。
・・・これも、「言い回し」と組み合わせてみる。
◆判断と理由(結果と原因)
「○○だから△△」 「なぜならば」「ということは」
◆時系列
「まず」「次に」「そして」
◆規則性やきまり
「~のはずだ」「~だと言える」「きっと」「たぶん」
◆条件文
「もし○○ならば△△である」
◆演繹法・帰納法
「AならばB」「○○ということは△△」
・・・このように、子どもの言い回しの語彙によって、使わせたい話法=使わせたい思考法が規定される。
ある時期、教師がきちんと教えていく必要があるのだ。
(3)光村国語の6年間の「考え方を表す言葉」の系統
さて、光村図書の2020年度版の「国語」完全活用ガイドという4つの小冊子がある。
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/2020s_kyokasho/kokugo/
注目したのが、④語彙力を高める「言葉の宝箱」。
光村の国語教科書の特設コーナーである「言葉の宝箱」とリンクしており、学年ごとに「考えや気持ちを伝える言葉」が具体的に列挙されている。
2年から6年の「考え方を表す言葉」を列挙してみる。
【2年】①~みたい ②~のよう ③~ににた ④~と同じ ⑤~と違う ⑥~にそっくり ⑦~くらいの ⑧同じところは~ ⑨ちがうところは~ ⑩ぼくだったら・わたしだったら
【3年】①まるで~のよう ②~と等しい ③~とことなる ④~と反対の ⑤~とぎゃく ⑥~のなかま ⑦理由は~ ⑧一方~は ⑨大きく分けると ⑩~にあてはまる ⑪たとえば~ ⑫このように
【4年】①どちらかが~かというと ②~は、~を含む ③~の点では ④~に対しては ⑤もし~なら ⑥まとめると ⑦つまり~ ⑧例えば ⑨たとえ~だとしても ⑩~による ⑪~かもしれない ⑫~のはずだ ⑬ ~にちがいない
【5年】①~の点から分類すると ②~の点で比べると ③~といえる ④~と思われる ⑤~とはどういうことかというと ⑥原因として考えられるのは
【6年】①~とみられる ②具体的には~ ③共通点は~ ③中でも、~ ④多くは、~ ⑤~の場合は ⑥ ここから~と言える
詳細にみると、「理由は~」が3年、「~といえる」が5年、「~と見られる」が6年など、指導レベルに合わないものもあるが、参考にはなる。
小冊子には次のようなアドバイスがある。
◆書くことの指導の際に、「考え方を表す言葉」を示せば、文章を展開させるヒントになりそう。
・・・こういう「考え方を表す言葉」=「思考を促す言語」を使いこなせるかどうかが論理的思考を促すための大きな力になる。ただし、教科書に書いてあっても付録の扱いだから、きちんとやるかやらないかは担任に委ねられている。だから担任の責任は重い。
追記
それで思い出したんだけど①
「それで思い出した」というフレーズを、書き留めたことがある。
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「それで思い出した」という言葉は、イマジネーションと記憶を結び付けて一つの思考を他の思考へ導く能力ーー連想ーーという創造力を端的に表している。
古代ギリシャ人はこれを重視した。プラトンはその著書の中でこれを盛んに論じ、アリストテレスは人間心理学の根本原理だと強調した。
『創造力を生かす』アレックスオズボーン(創元社)昭和50年6版 P68
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・・・「連想」は、イマジネーションと記憶を結び付けて1つの思考を他の思考へ導く能力だとある。
それで思い出したんだけど②
県の採用試験の論文は、ある資料から読み取った事実と、自分の教育観を述べる2段構成が基本形。
資料からどんな事例を思いつき自分の主張につなげるかが試されている点では。
事実と、その事実から想起される意見を分けて書くためには「それで思い出したんだけど」の思考が有効だ。
・・・「それで思い出したんだけど」というフレーズは、 レベル的には、小学校以前でも使えそうな言い回しだから、中学年くらいでは、ぜひ、使いこなして、事実に基づく意見を述べるようになってほしい。
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