「本時のわくわく」という発想 ~つまらない授業かどうか自問せよ~
愛知教育大学附属名古屋小学校 令和3年度 冬のオンデマンド公開授業が行われ、データが送られてきた。
指導案の本時の目標のあとに、「本時のわくわく」という項目がある。
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書いてある目標の内容は置いておくとして、「本時のわくわく」を設定する発想がすごく良いと思う。
誰の提案なのかは定かではないが、ぜひ取り入れたい。
かつて「わくわく感」=「WOWファクター」として、まとめたことがあるので、復習。
(1)「WOW Factor」
2019年10月のエネルギーシンポジウム。東京大学の飯本先生の特別講座の中に「企画実施の各々の立場でWOW Factor 導入の工夫を」とあった。
WOW つまり感動や驚きの要素を持ち込め、というのは、
◆理科は感動だ
◆面白くなければ授業じゃない
に通じるもので、とりわけエネルギーシンポの授業や小森先生の授業にはモノがあって、仕掛けがあって、感動があるので、まさにWOW factor導入そのものだと思った。
授業の中に、いくつWOWが入るかは、「どれだけ巻き込み感をつくれたか」の表れである。
知的な逆転現象の授業も「WOW」だ。
「ワクワク感」と「WOW Factor」は、まずまず近いと理解できる。
(2)「楽しい」
向山先生は、学級経営で最も大切なことをたった1つあげるとしたら「楽しいことをすること」だと話されたというメモ書きがある。
「私の精神としては95パーセントと5パーセントです。
管理することが5パーセントで、楽しいことが95パーセントだと思います。」
◆何かをやっていて、うれしいとドーパミンが出る。
◆快感を生み出す行動が次第にクセになり、繰り返していくうちにその行動が上達していく。
楽しいことを続けていればどんどん上達する。これを「強化学習」と言う。
「ワクワク感」と「WOW Factor」と「楽しい」は、これもまずまず近いと理解できる。
(3)「知的好奇心」
『知的好奇心』(波多野誼余夫・稲垣佳世子著 中公新書1973初版)。
自由な探索の過程で自分の能力に合わせて挑戦することが興味を維持し学習効果を高める。
その一例として「磁石」の学習場面が挙げられている(P104~107)。
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たとえば、磁石を使って、どういう物がすいつき、どういう物がすいつかないかを子どもに知らせる場面を考えてみよう。このとき、どういう性質の物が磁石につきやすいかがよくわからないうちに砂鉄や石(磁鉄鉱)を出して、「さあ、おもしろいですよ。これもすいつきますよ」といった導き方はあまり好ましくない。子どもにとっては、そのおもしろさがわかりにくい。彼のそのときに持つ「知識」に挑戦する対象として砂鉄が示されたのではないからだ。
このようなときには、まず最初のうちは、子どもに自由に磁石をいじらせる。彼は自分のまわりの物に対して手あたり次第磁石をつけてためしてみようとするだろう。多くの場合、磁石にすいつくか否かに関して典型的な事物が試されるだろう。そうしているうち、木製の物はすいつかない、つくのは金っ気のあるもの、ピカピカ光る物らしい、という予想が形づくられるだろう。
しばらくいろいろためしていて興味がやや低下したとみられるところで、彼らの予想に「挑戦する」事物を与えてみるのである。
たとえば、メッキされたアルミニウム製の物と、メッキされた鉄製の物を準備したり、磁鉄鉱や砂鉄を用意したりする。あるいは、棒磁石、大小のU字型磁石、電磁石などを用意するのである。
みかけはピカピカに光っていても、磁石につく物もあれば、つかない物もある。石や砂など磁石につくものか、と思っていたらすいついた。これらは、子どもを驚かせ、さらに探究することを動機づけるだろう。また磁石を近づければ、近づけるほどそれからはなれようとすることがある。スイッチを押すと磁石のようになるが、スイッチをはなすとそうでなくなる物がある・・・。これらはさらに事物のいろいろな側面を綿密に探索することを動機づけるかもしれない。」
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(1)自由試行させる(飽きるまでの体験させる)。
(2)予想させ、自我関与させる。
(3)固定概念を崩すような難しい課題に挑戦させる。
などのポイントが読み取れる。
当然ながら、向山学級が思い浮かぶ。
(4)「熱中する」
畿央大学大学院の島恒夫教授は、中教審道徳専門部会の委員を務め、学習指導要領解説の作成協力者もされている方だ。
その島氏は「子どもにとっても教師にとっても楽しい道徳科とは?」について、講演会の中で次のように指摘していた。
◆子どもにとって、「納得」と「発見」のある授業。
◆子どもの頭がフル回転する授業
◆子ども1人1人の思いが自由に出て、認め合いのある授業
◆45分・50分があっという間に感じる授業
◆授業が終わってからも、教室のあちらこちらで、まだ話が続いたり、余韻に浸っている授業。
◆「先生、またしようよ」という声の出る授業。
チクセント・ミハイの「ゾーン」のようなイメージだろうか。
「熱中体験」も、「ワクワク」の1つである。
(5)「好き」
◆モチベーションを上げる鍵を握っているのが、感情脳にある1.5センチの扁桃核というところなんです。
この扁桃核をコントロールすることが重要で、ここが好き、嬉しいという快の感情を抱くと、脳幹からプラスのホルモンが分泌される。
反対に、嫌いとじゃ辛いとか不快な感情になれば、マイナスのホルモンが分泌されてしまう。それは嘘でもいいんです。
絶対にうまくいく、絶対によくなるって嘘でも思い込むと、肯定的な感情が生まれるんです。
「致知」2019年4月号 P25「天運を呼ぶ行き方」西田文郎の言葉より
(6)「笑顔」になる
◆笑顔を作ると「セレトニン、ドーパミン、エンドルフィンという3つの脳内物質が出ます。
これらの物質が出ると、ストレスホルモンが下がり、副交感神経が優位になります。つまり、笑顔には緊張を緩和して、ストレスを解消する作用があるのです。
「笑顔効果 ~笑顔を作ると10秒でハッピーになれる~」https://hiromi.fun/?p=2672
(7)「ワクワク」と「ドキドキ」
緊張して「ドキドキ」というと、失敗を恐れる気持ちが感じられて、ややマイナス。
一方、期待が膨らむ状態の「ワクワク」は、これから起こる出来事に対するプラスのイメージ。
「あー、緊張して、ドキドキするなー」と言いたいときに
「あー、興奮して、ワクワクするなー」とリフレーミングできるメンタルを育てたい。
ちなみに、東京オリンピックのメダリストのインタビューで「勝負を楽しみました」というような言い回しをよく耳にした。
ドキドキをワクワクに変換して、よい緊張感で試合に挑み、成果を出したのだと考えられる。
(適度な緊張感がないと、アドレナリンが出ないから、よいパフォーマンスは出ない)。
・・・(1)から(7)が同義語だとは言わないが、いずれも「つまらない授業」の対極にある語群だ。
本時の「わくわく」を意図的に授業に取り込むというのは、とても意義があると思う。
そして、その指標は「子どもがつまらないと感じるかどうか」。
「そんな授業は、つまらない。誰も熱中しない」の裏返しで授業を創るから、盛り上がる。
できない子にも優しい、知的で楽しい授業になる。
「自分がどう思うか」ではなく「子どもがどう思うか」が大事なのだから、自己満足で済ませてはいけない。
無論、これは「子ども」だけの問題ではない。
「そんな対応では、相手に通じない」
「保護者はどう思うか」「職員はどう思うか」「世間はどう思うか」を常に謙虚に振り返る「メタ認知能力」がないと自己満足になってしまう。
「弱者」という言葉は語弊があるかもしれないが、常に弱者の立場で物事を見て決断していきたい。
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