伊坂幸太郎 「逆ソクラテス」
伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』は、小学生を主人公にした5つの短編集。
2020年4月初版だから、多くの人が読了していると思う。
何と無く読む機会を逸していたが読んでみれば、イッキだった。
◆僕はそうは思わない
◆敵は先入観
◆世界をひっくり返せ
というキャッチフレーズが示す通りで、いじめを誘発する「社会の構図」を再認識させられた。
・彼が才能がないとは限らない。
・彼女が足が遅いとは限らない。
・身なりの貧相な彼が、貧乏とは限らない。
・挫折した彼が、そのまま活躍の場を失うとは限らない。
・頼りない先生が、頼りないとは限らない。
・彼の体のあざが、虐待のせいとは限らない。
・犯罪者を厳しく罰する事排除することが正しいとは限らない。
といったどんでん返しの話題が満載で
◆最終的には、威張らないやつが勝つよ。
◆真面目で約束を守る人が勝つんだよ。
◆相手によって態度を変えることほど、格好悪いことはない。
◆今僕を馬鹿にしている人は気まずくなるなるだろうね。
◆人間関係にとって重要なのは評判だ」
「評判がみんなを助けてくれる。もしくは、邪魔してくる」
◆もしわたしがいじめられたら、いじめてきた相手のことは絶対に忘れないからね。
というような道徳的なアドバイスも、すんなり入ってくる。
職業柄、ずしんときたのは、「逆ソクラテス」の
「何をやっても駄目みたいな言い方はやめてください」
という教師への毅然とした訴えだ。
多くの子供が、教師の何気ない決めつけで自分への自信を失っているだろう。この場面では、友達に対する度重なる教師の侮辱に心を痛めた少年が怒りをぶつけている。
一方、「アンスポーツマンライク」の感情的なコーチの場合は、
「恫喝じみた指導に成果があるとは、 限らない」ではなく、
「恫喝じみた指導に成果があることは、ありえない」を強調していた。
◆「いい大人が怒鳴りつけないと教えられないっ、て時点で恥ずかしいんだよな」
◆「怖がらせる以外に指導方法を持っていない、そのコーチ、詰みじゃん。」
◆「子供の気持ちを引き締めるためなら、それに相応しい叱り方をすればいいだけだよ。感情的にならずに、毅然と。相手の自尊心を削ったり、晒し者にしたり、恐怖を与えたりする必要はない。」
そして、怒鳴り散らすコーチの代わりとなった礒憲先生は、次のような対応をした。
声を荒らげることもなく、常に落ち着いて僕たちを指導した。試合の際も、「どうしてお前はそうなんだよ」であるとか、「早くやれよ」であるとか、「どうしたらいいか考えているのか」であるとか、抽象的な上に威圧感を与えるような、無意味な大声を上げる事は一切なく、具体的なプレイ、走るラインや立つべき位置の指示を分かりやすく出してくれた。大幅に点差のついた負け試合となれば、「点差を忘れよう。次にやったときには勝つように」と相手の弱点を探りながら、連係プレーを何度もトライさせてくれた。
格言や名言、テンポの良い会話、散りばめた布石の回収によるどんでん返し(仕返し)がお見事で、どれも読後感が良い。
かつて、「水戸黄門」や「遠山の金さん」のように、立場逆転のテレビドラマが好まれたのは、外見や立場で人を見下す社会への戒めだったもかもしれない。
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