対比は奥が深い(1)
樋口裕一氏は、論理的思考の条件の1つとして「二項対立思考」を勧めている。
以下、『ホンモノの思考力 口ぐせで鍛える論理の技術』(集英社新書)より引用。
◆このようにフランス人は様々なことを、対にして考える。そして、顕在的な面、プラス面、肯定面、現象として現れている面を思い浮かべると、必ず、潜在的な面、マイナス面、否定面、現象として現れていない面を想定すると言えるのではないか。(P18)
◆フランス人は何かを考えるとき、連続的に考えるのではなく、二項対立として、そして顕在・潜在として分けて考える。それは日常生活の中まで浸透しているのではないか。日常の様々な出来事の背後に、二項対立があるのだ。顕在があると、潜在を想定する。イエスがあるとノ―、真実があると偽りがあるいうように考える。現象の背後に、そのような二項対立を想定する。だから、論理的、分析的に考える。(P19)
◆言うまでもなく、論理的で科学的思考の基本は、主体と客体、すなわち観察する自分と対象とを明確に分けることだ。そうすることによって、人間は対象を自分から引き離して客観的に観察できるようになった。しかも、対象がある要素をもっているかいないかという二項対立を明確にすることによって、物事と物事の差異をきちんと認識するようになった。たとえば、猿と人間の違いを、様々な項目に分けて、ある要素をもっているかどうかを判断する。そうすることによって猿と人間の違いを体系的に捉えることができる。(中略)そもそも、物事を二つにきっぱり分けて考えることにおって、分析ができる。ある要素が存在するか存在しないか、真であるか偽であるか、好ましいか好ましくないかを明確にすることによって、現象を分析できる。「分析」とは、「ある物事を分解して、それを成立させている成分・要素・側面を明らかにすること」(広辞苑)は要素を分けて思考することを前提にしている。そればかりではない。顕在・潜在、イエス・ノ―を対置することによって、物事を一方的に見ないようになる。ある見方あれば、別の見方がある、賛成意見があれば、反対意見がある、あることを好む人間がいれば、好まない人間もいうことが明確になる。そして、ある意見を考える考えると、別の意見の存在を前提つぃ、それを考慮するようになる。こうして、様々な二項対立によって、人間は分析し、厳密に思考し、自分の意見をもてるようになり、また多様な意見を考えるようになったのだ(P20/21)
◆ある現象を見たら、それがどのような二項対立に基づいているのか、その二項対立の中のどのような点に位置するのかを考えることによって、その現象の意味を分析することができる。(P58)
・・・元々「『分かる』は『分ける』」だ。そして、2つに分けるというのは、「分かる」ための基本中の基本作業だ。
賛成側と反対側、メリットとデメリットの両面から考える複眼的な思考も、ベースは「二項対立」だ。
選択的な発問を用いてAかBかで討論に導く場合が多いが、これも二項対立で、逆の立場も思考を及ばせる為の手段だ。
作品分析における「対比」は、「二項対立」と同義だ。
これまで、国語の中で「対比」について扱ってきた。
「ひとつの花」は、①ひとつだけしかないもの(不足しているもの)と、たくさんあるもの(手に入るもの)②悲惨な戦時中と、平和な戦後
「ごんぎつね」は、①ごんの「いたずら」と、「つぐない」②加害者の「ごん」と、被害者の「兵十」③「通じ合い」と、「すれちがい」
「海のいのち」は①父親の生き方と、与吉じいさの生き方②「殺す」と、「生かす」③「弱肉強食」と、「共生」などが、ぱっと浮かぶ(ほかにも対比があってよい)
しかし、分析批評の重要なものさしである「対比」は、国語の作品分析方法にとどまらず、もっと広い「思考法」として重要であることを、この「二項対立」の解説は裏付けている。
私は「二項対立」の有用性を読みながら、「対比思考」の有用性を考えている。
※石原千秋氏は、「二項対立・二元論」について次のように述べている。「二項対立は思考の基本である」と言う。
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たとえば、「自己」ということについて考えるとしよう。そのとき、まずしなければならないのは、「自己」とは反対の概念を思い浮かべることである。それは「他者」だ。すると、「自己」という概念は、この「他者」という概念との関係の中で考えればいいことになる。こういう方法を、二項対立とか二元論と呼ぶ。「近代」を問い直す文章自体が、二項対立のレトリックを用いずには成立しないのだ。〈前近代/近代〉とか〈近代/現代(あるいはポストモダン〉といった二項対立はよく見かけるレトリックだ。独善的にならずに、関係の中でものを考えようとするなら、どこかで二項対立を用いるしかないのである。その意味で、二項対立は思考の基本である。
『教養としての大学受験国語』(ちくま新書)P14~16
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