「物のかぞえかた」の覚書
(1)数助詞・助数詞
例えば、日本では人の数は「5人」で、「5本」とは言いません。
ところが英語では人でも鉛筆でもfiveです。
そしてfive pencils (5の鉛筆)とは言っても「5本の鉛筆」と、わざわざ「本」を付けません。
数助詞は、日中韓越及び東南アジアでがよく発達しており、分類毎に数え方を変える方式はこの地域の他に南北アメリカ大陸の西側の原住民に共通である。この事から数助詞の発達は環太平洋地域の特徴といえます。
日本語ではこの種類の語が非常に発達しており約500種類もの数が存在するが、今日では意識される事が少なくなりつつあり、「個」、「匹」(動物)、「本」(細長いもの)、「枚」(平たいもの)等の多数の語に充てられる助数詞を使う事が多くなっています。
日本人なら自然に区別できる数助詞ですが、海外留学生には理解が難しく、留学生に対するある日本語指導の業者は次のようにPRしています。
「日本語の基礎を教えます。まずは、あいさつ、数の数え方、日常会話などお教えします!」
この数助詞は、日常における言語環境の整備が大切で、言葉を大切に育っていないと、数助詞の区別ができないまま放置されてしまいます。
たとえば、次のような調査結果があります。
◆小学生の国語力が不足していると感じる教師が約9割に上ることが「岩波書店」(東京都千代田区)が教師100人を対象に行った調査で分かった。同社は「現場の先生が危機感を持っている表れではないか」としている。具体例を挙げてもらったところ、4年生が「八つ」を「はちつ」と誤読したほか、数え方を知らずに、何でも「個」とする児童がいたという。
・・・私の感覚では、年齢で「二個上、一個下」と「個」は使わない。でも「二個上、一個下」はスタンダードだ。
NHKでは、かつて大人向けの教育テレビで4回にわたり「数え方」を特集したことがある。
「知って納得! 数え方レッスン~タンスからロボット犬まで~」
◆電子メールは「1通」それとも「1件」?
携帯電話は「1台」から「1個」へ
年齢や学年が「1個上」はおかしい?
などの話題提示があり、「数え方は日本語の貴重な財産」と記しています。
ロボット犬AIBOの表記が推移したことが紹介されています。
1999年6月24日付けの朝日新聞には、AIBOを「1台2台」と表記していたが、一般家庭にAIBOが浸透しはじめると、「1頭2頭」(1999年8月25日付)。やがて、ペットと同じように「1匹2匹」と表記(1999年9月28日付)されるようになり、以後「○匹」と数えるようになったということです。ちなみにソニーは「3000体を完売」と表記。電気量販店でのAIBOの数え方は「1点2点」だったそうです。現在、ASIMOの数え方は「1体2体」。
講師の飯田朝子氏の著作は、『数え方でみがく日本語』「数え方もひとしお」「数え方の辞典」「数え方と単位の本」など多数あります。
お寿司の数え方は1貫・2貫、一巻き・二巻き。でも子どもたちの感覚は一個・二個、あるいは一皿・二皿でしょう。身近な例で考えると、助数詞の問題は、日本語の奥深さを学び、言語感覚を磨くのにとてもいい機会になるでしょう。
ものを数える場合の注意点は「対象ごとの数助詞の変化」以外に3つあります。
1つは、数の読み方の変化。イチバン・イッポン・ヒトツ
2つは、数助詞の読み方の変化。イッポン・ニホン・サンボン
・・・この読み方で、かつては「十本=ジッポン」だったが、今は「ジュッポン」もOKとなった。
(2)算数の数・・3者関係の体得
数(かず)を教える場合・・「いち」「に」「さん」「し」と数の言葉を暗記させるのではなくて、「実物」と対応させる「タイル」とを同時に、「目に見える」ように教えると説明されています。
「1」とは、ミカンでもリンゴでも、ビスケットでも、「ひとつ」の量しかない場合の事実を指す、というようにです。
「ひとつ」(1)という「量」を分からせることが大切である、といわれています。この「1個のタイル」に対応させて「いち」(1)という数称が「話し言葉」として話されます。
「いち」「に」「さん」といった数詞があらわしている最も重要なものは「大きさ」(集合・量)である。「順番」ではない。
「いち」(1)というのは「一つの大きさ」をあらわしている。
「に」(2)というのは、「2の大きさ」のことをさしている。
「一番目」「二番目」という意味は第二義的である。英語では「two」(2)と「second」(2番目)とでは明らかに区別されているが、日本では、量(集合)も順序も「いち」「に」「さん」という言葉でいいあらわす。
日本では、「順序」を教えることから指導している。
左の「タイル」から順に「いち」「に」と唱えると「二つ目のタイル」だけが「2」だと思い込む間違いが生じる。
実際は、「一個のタイル」を二個集めた集合が「2」の「大きさ」である。
日本の子どもは「二つ目のタイル」を取り出して、これは「1」であるにもかかわらず「に」(2)であるという誤った「認識」を記憶している傾向がある。
『幼児の算数』(国土社・刊)(遠山啓・栗原九十郎)より
「一対一の対応」とは、「ミカンの1」も「リンゴの1」も「クッキーの1」も、形や姿、属性もそれぞれ異なるけれども、抽象化した量(りょう)としては「どれも同じ1である」という「意味」の理解のことです。
遠山啓(ひらく)は、子どもに「数」(かず)を教えるにあたっては「数」(かず)の「意味」を正しく分からせることが重要である、と説明しています。「数」(かず)の意味とは、「実物」のもつ「属性」や「形象性」などを抽象化して捨象(しゃしょう)した実体のことです。それが「量」(りょう)です。「数」(かず)の意味とは「量」(りょう)の集合のことです。
この遠山啓(ひらく)の「数(かず)の教え方」(水道方式)の説明で重要なところは、「数の唱え主義」「暗算中心の教え方」と「水道方式」とが、ハッキリ区別されている点です。
「数の唱え主義」とは、「1,2,3,4…」というように、数称だけを暗記することをいいます。
この「数称の暗記主義」は数(かず)をただ「順序」としてたどるので、「量」(りょう)(集合)の把握ができません。リンゴを「1,2,3,4…」と一つずつ指で抑えてたどります。「リンゴの数(かず)はいくつ?」と問うと、「4番目のリンゴ」を手に取って、「リンゴの数(かず)は4(よん)です」と、「1個のリンゴ」を示す、という誤りを起こします。
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