12月26日、ボクシングで4団体統一戦王者となった井上尚弥選手。
ネットの次の見出しが刺激的だった。
井上尚弥は闘う前から脳内の「最強タパレス」に勝っていた ボクシング2階級制覇した圧巻の想像力
井上尚は対戦相手のビデオを熱心に見るタイプではない。相手の映像をある程度チェックして特徴をつかみ、動きをインプットする。そこから、頭の中で対戦相手を徐々に強くしていくのだ。
実際、タパレスはそんなパンチを打てないかもしれない。そこまでディフェンスをしないかもしれない。だけど、頭の中であえて過大評価し「最強のタパレス」をつくりあげる。
シャドーボクシングでは、目の前に強くなったタパレスがいるかのように「これを避けられたら今度はこうして」と自身の動きを合わせていく。「当たりそうだな」というパンチを何度も繰り返す。だから、誰よりも入念にシャドーボクシングを行い、多くの時間を割いている。
八重樫トレーナーは練習での動きをそのまま試合で再現し、KOする井上尚の姿を何度も見てきた。「それって、相手のイメージがめちゃくちゃリアルじゃないと試合ではできない。本当にすごいこと」と称賛する。
試合後、タパレスは「できることはすべてやり尽くした」と言った。だが、そのはるか上を行くかのように井上尚が倒しきり、顔には傷一つなかった。それは頭の中でずっと「最強のタパレス」と闘い続けていたからに、ほかならない。
・・・「頭の中であえて過大評価し『最強のタパレス』をつくりあげる」
つまり、最悪を想定し、脳内で「最強の相手」を想定し、打ち勝つ練習を積んだ。
だから、本番の試合を見ると、シロウト目には余裕だった。記事にあるように井上選手の顔は傷一つなかった。
「最悪を想定する」というのは、単純な楽観主義とは真逆の発想だ。
「やってのける』ハルバーソン(大和書房)には、次のように書いてある。
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◆ポジテイブ思考の人は、物事がうまくいくと信じているために、起こり得るさまざまな問題を十分に検討しようとしません。そのために準備を怠ったり、危険な行動を取ろうとします。(中略)
一方、ネガティブ思考の人は、つねに最悪の状況を想定します。物事がうまくいかなくなる状況も含め、さまざまな可能性に備えようとします。
◆「トラブルのもとになる非現実的な楽観主義」と「目標達成に欠かせない現実的な楽観主義」との違いは、楽観的になる理由の違いから生じます。
自分は適切な計画を立てたり効果的な戦略を見つけることによって成功するか失敗するかを自分でコントロールできる、そう考えて楽観的になるのが現実的な楽観主義です。この考えは自信と意欲を高めます。
非現実的な楽観主義は、計画や努力とは無関係の要素ーたとえば才能(わたしは頭がいいから成功する)や運(自分はラッキーだからうまくいく)-を根拠にします。そのため必要な準備を怠り、状況が悪くなるとすぐにあきらめてしまうのです。
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楠木建「絶対悲観主義」(講談社+α新書)の冒頭には次のようにある。
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世の中に言う悲観主義は実のところ根拠のない楽観主義です。最初のところで「うまくいく」という前提を持つからこそ、「うまくいかないのではないか」と心配や不安にとらわれ、悲観に陥るという成り行きです。
こと仕事に関していえば、そもそも自分の思い通りになることなんてほとんどありません。この身も蓋もない真実を直視さえしておけば、戦争や病気のような余程のことがない限り、困難も逆境もありません。逆境がなければ挫折もない。成功の呪縛から自由になれば、目の前の仕事に気楽に取り組み、淡々とやり続けることができます。GRIT無用、レジリエンス不要――これが絶対悲観主義の構えです。
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・・・ 才能や運を根拠にした楽観主義は、必要な準備を怠り、状況を悪くする。
そもそも自分の思い通りになることなんてほとんどないと思うから、抜かりない準備ができる。
井上尚弥選手の歴史的快挙は、才能ではなく、努力なのだ。
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