August 16, 2023

「ごんぎつね」の語彙の指導

ずいぶん昔の「ごんぎつね」の授業実践が出てきた。
① 「ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった 」
「このような気持ちを短く言うと何と言いますか?」と聞く。
みんなピンと来ないので、 「後かい」という言葉を教える。これは教えるしかない。
「しまったなあ、というような気持ちのことだよ」と補足する。
できれば「ごんぎつね」の授業に入る前に、道徳の授業や生活指導などで繰り返し使っておくと、ここはすんなり進む。
②「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か」
「このような気持ちを短く言うと何と言いますか」と聞く。
これもピンと 来ないようだったで、サッサと教えた。
「同情」と言います。(「共感」でも良い)
③ごんは、いわしやくりやまつたけを兵十に持っていきました。
「この時のごんの気持ちを短く言うと何と言いますか」
「先生、漢字ですか?」
「いいえ、ひらがなです。 どこかに書いてあります。
「うなぎのなんとか」 とヒントを出して「つぐない」 を出させる。
「後かい」も「同情」も「つぐない」も、この作品を読む上で(ごんの心情を読む上で)とても大切な要素になる。
しかし、これらの言葉を知らなければ、使えないわけだから、感想が貧弱になる。
語彙を増やすことは、言語環境の整備でもある。
「豊かな日本語の使い手」を育てることは、なかなか大変なことで、1時間の授業で解決する問題ではない。
だからこそ場面場面で、具体的に手を打つことが大事になる。

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社会科は「語彙」が勝負!

高学年になると、学習内容が難しくなる。
何が困ると言って各教科の専門用語・語彙。日常生活に出てこない言葉が次々に出てくるからだ。
これまで授業を聞いてなくても何とかなった子が、各教科の専門用語を疎かすると分からなくなり、それが苦手意識にもなっていく。
社会科の教科書では、すでに4年生で言葉の難しさが出てきている。
・ こう水量、積雪、じょ雪、輸入、らく農、耕地面積、下水、取れ高、産業
等の言葉が理解できないと社会科の授業が成立しない。
例えば、かつて、社会科テストには、次のような穴埋め問題があった。
選択肢問題だが、カッコが多くて一目で見ただけでは何が何だか分かりづらい。
市の人たちのねがいは( ① ) や( ② )にうったえる。
このことを(  ③ )と言い、この願いは( ④  )でそうだんして決められる。
公園を作るためには、( ⑤  )だけではたりないことが多く、( ⑥ )や県にほじょを求める。
解答は、①市長 ②市会議員 ③ちんじょう ④市議会 ⑤ 市  ⑥国 
この場合、選択肢が8個あって2つ余るようになっていた。
同じようなものが並んでいるから、1つ間違えると間違いの連鎖が起きる。
③の「ちんじょう=陳情」などは、授業中に意味をきちんと押さえておかないと何のことか分からない。
「陳情」がわかるためにはその前の「訴える」も分かっておく必要がある。
意味のわからない言葉があるのに、理解できるわけがない。授業についていけるわけがない。
全校集会などで高学年の先生が話をすると、どうしても難しい言葉が出てくる。
自分が話していると気づかないが、第三者として聞いていると「この言葉では低学年には伝わらないな」と心配することがある。
教師にとっての当たり前の言葉を疑ってかからないと、子供が置いてきぼりになる。

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April 20, 2021

関連付けて思考するための言語能力 ~要するに「言い回し」の習得~


東京書籍の出している「ことのは」2019年3月号に、兵庫教育大学の勝見健史氏の論稿がある。
https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/ten_download/2019/2019123942.pdf

関係づけて思考するための言語能力 
〜「しっかり考えなさい」からの脱却〜

と題し、関係づける思考の具体例と思考を促す言語表が示してある。

・・・比較、類別、分析、理由付け、推論・解釈、具体化・一般化、評価・批判といった思考の項目については特に驚かない。

この表ではそれぞれの思考を促す表現例を示している。
そこに心を奪われた。

比較「どちらが〇〇でしょう」
類別「〜から見ると。○と□は同じ仲間です。
分析「〜はA、B、Cから成り立っています」
理由付け「〜と書かれているから、=と思います。
推論「○と□だとすると、〜ではないでしょうか」
解釈「これは〜と言うことです」
具体化・一般化「これは例えば〜です。「これらの例から=といえます」
評価・批判 「○は=□の方が良い。理由は=だからです」

 

・・・このように、話型で具体的に推奨してもらえると、指導もしやすいし、評価もしやすい。

このような話型=言い回し=フレーズについては、以前も書いたことがある。
以前から気になっていたとも言える。

改めて再編集。


文科省が求める論理の技法~言い回し~

(1)小学生以下の論理の言い回し

 文科省のHPにある中教審の「新しい時代の初等中等教育の在り方について(諮問)」

 関係資料P24 「幼稚園教育要領の改訂(平成29年3月告示)」の「遊びを通しての総合的な指導」に「思考力、判断力、表現力等の基礎」の要素として、次の7項目が挙げられている。

①試行錯誤、工夫 
②予想、予測、比較、分類、確認 
③他の幼児の考えなどに触れ、新しい考えを生み出す喜びや楽しさ④言葉による表現、伝え合い
⑤振り返り、次への見通し
⑥自分なりの表現
⑦表現する喜び等


・・・しかし、こうして項目だけ挙げられても、何をどう指導したらよいかが分からない。
かつて、奈須正裕氏の講演を聞いて以下のメモ書きをした。

「あれ?おかしいなあ」は、仮説との不一致を示す言い回し。
◆ 「ほら、やっぱり~」は、仮説との一致を示す言い回し。
「だってさあ」は、根拠や反論を示す言い回し。
◆ 「それじゃあ」は、代案を示す言い回し。

・・・このように、発する言葉と項目を関連付けると指導も評価も分かりやすくなる。
試しに自分で埋めてみると、全項目は埋まらなかった。
「発する言葉」が思い浮かばないということは、「指導の手が思い浮かばない」「文科省が伝えたい内容が具体的に理解できてない」ということである。

①試行錯誤、工夫
「もし~してみたら、どうかな」 「いいこと考えた」「あれ、おかしいな」

②予想、予測、比較
「たぶん~」「きっと~」「やっぱり」「絶対に~」「~はずだ」「~にちがいない」

 ②分類、確認
「こっちの方が~」「分けてみると」

③他の考えなどに触れて新しい考え
「なるほど」「たしかに」

③伝え合い 
「ねえ聞いて」「ねえ教えて」「あのね」「だからさ」 

⑤次への見通し 
「よおし今度は」「これからは」

 

 (2)小学生の論理の言い回し

 文科省資料の「言語活動の充実に関する指導事例集」では、中学年で「判断と根拠・結果と原因」や条件文、高学年で演繹法や帰納法の論理を用いて表現できるよう指導せよとある。
 これも、一部、具体的な言い回しの明示がある。
 逆に、明示されていない項目は指導が難しい。

 【低学年】

○判断と理由の関係を明確にして表現する。
○時系列(まず,次に,そして,など)で表現できる。

 【中学年】

○判断と根拠,結果と原因の関係を明確にして表現する。
○条件文(「もし○○ならば△△である」)で表現する。

 【高学年】

○演繹法や帰納法などの論理を用いて表現する。
○規則性やきまりなどを用いて表現する。 

・・・これも、「言い回し」と組み合わせてみる。

◆判断と理由(結果と原因)

 「○○だから△△」 「なぜならば」「ということは」

◆時系列
「まず」「次に」「そして」


◆規則性やきまり
「~のはずだ」「~だと言える」「きっと」「たぶん」

◆条件文
「もし○○ならば△△である」


◆演繹法・帰納法
「AならばB」「○○ということは△△」

  
・・・このように、子どもの言い回しの語彙によって、使わせたい話法=使わせたい思考法が規定される。
ある時期、教師がきちんと教えていく必要があるのだ。


 (3)光村国語の6年間の「考え方を表す言葉」の系統

さて、光村図書の2020年度版の「国語」完全活用ガイドという4つの小冊子がある。

https://www.mitsumura-tosho.co.jp/2020s_kyokasho/kokugo/

注目したのが、④語彙力を高める「言葉の宝箱」。
光村の国語教科書の特設コーナーである「言葉の宝箱」とリンクしており、学年ごとに「考えや気持ちを伝える言葉」が具体的に列挙されている。

2年から6年の「考え方を表す言葉」を列挙してみる。

【2年】①~みたい ②~のよう ③~ににた ④~と同じ ⑤~と違う  ⑥~にそっくり ⑦~くらいの ⑧同じところは~  ⑨ちがうところは~ ⑩ぼくだったら・わたしだったら


【3年】①まるで~のよう ②~と等しい ③~とことなる ④~と反対の ⑤~とぎゃく ⑥~のなかま ⑦理由は~ ⑧一方~は ⑨大きく分けると ⑩~にあてはまる ⑪たとえば~ ⑫このように


【4年】①どちらかが~かというと ②~は、~を含む ③~の点では ④~に対しては ⑤もし~なら ⑥まとめると ⑦つまり~ ⑧例えば ⑨たとえ~だとしても ⑩~による ⑪~かもしれない ⑫~のはずだ ⑬ ~にちがいない


【5年】①~の点から分類すると ②~の点で比べると ③~といえる ④~と思われる ⑤~とはどういうことかというと ⑥原因として考えられるのは


【6年】①~とみられる ②具体的には~ ③共通点は~ ③中でも、~ ④多くは、~ ⑤~の場合は ⑥ ここから~と言える

詳細にみると、「理由は~」が3年、「~といえる」が5年、「~と見られる」が6年など、指導レベルに合わないものもあるが、参考にはなる。

小冊子には次のようなアドバイスがある。

◆書くことの指導の際に、「考え方を表す言葉」を示せば、文章を展開させるヒントになりそう。


・・・こういう「考え方を表す言葉」=「思考を促す言語」を使いこなせるかどうかが論理的思考を促すための大きな力になる。ただし、教科書に書いてあっても付録の扱いだから、きちんとやるかやらないかは担任に委ねられている。だから担任の責任は重い。

追記

それで思い出したんだけど①

「それで思い出した」というフレーズを、書き留めたことがある。

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「それで思い出した」という言葉は、イマジネーションと記憶を結び付けて一つの思考を他の思考へ導く能力ーー連想ーーという創造力を端的に表している。
古代ギリシャ人はこれを重視した。プラトンはその著書の中でこれを盛んに論じ、アリストテレスは人間心理学の根本原理だと強調した。

『創造力を生かす』アレックスオズボーン(創元社)昭和50年6版 P68
================

・・・「連想」は、イマジネーションと記憶を結び付けて1つの思考を他の思考へ導く能力だとある。

 

それで思い出したんだけど②

県の採用試験の論文は、ある資料から読み取った事実と、自分の教育観を述べる2段構成が基本形。
資料からどんな事例を思いつき自分の主張につなげるかが試されている点では。

事実と、その事実から想起される意見を分けて書くためには「それで思い出したんだけど」の思考が有効だ。
 

・・・「それで思い出したんだけど」というフレーズは、 レベル的には、小学校以前でも使えそうな言い回しだから、中学年くらいでは、ぜひ、使いこなして、事実に基づく意見を述べるようになってほしい。

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January 04, 2021

「語彙力を鍛える」(7) 言葉にこだわる

品のない論争の場合は、悪意のある同義語を駆使して、イメージダウンを図る。これを「攻撃用語」と呼ぶ。
例えば、昨年12月30日の中日新聞の社説。

今年大統領選が行われた米国では現職大統領が自国民を威圧、分断し、投票結果にも難癖をつけて覆そうとしています。

・・・「威圧、分断」はトランプ陣営だけの問題なのか、「難癖」とあるが全ての投票結果に不正はないと確定したのか、そう思うと、明らかに攻撃用語を駆使しているなと思う。

追求する野党議員に対し、安倍氏はこう強弁し続けました。これらがすべて虚偽だったわけです。
(中略)安倍氏が首相任期在任中、国会審議の中で行った虚偽答弁は百十八回に上ります。

・・・安倍氏本人は「結果として、答弁の中には、事実に反するものがあった」と述べている。
「事実に反する答弁」と「虚偽答弁」は意味が違う。「虚偽答弁」は意図的なものだ
相手を貶めるために「虚偽答弁」という表記を使い、フラットな「答弁」を。悪意ある「強弁」に置き換えて「傲慢さ」を印象付けた。
私は冷静に読んでいるが、この社説を読んで「安倍氏はとんでもない」と思う人もいるわけだ。

言葉にはフラットなものと、感情を加味したものがある。
野球の試合の「勝利」がフラットなら、「快勝」「大勝」「楽勝」「辛勝」は感情が入っている。
「勝利」の反対語は「敗北」。「敗北」と言った時点で感情が含まれている気もするが、「惨敗」「惜敗」「大敗」などが感情の入った表現だ。スポーツ新聞の見出しは、語彙の宝庫である。

前にも書いたが「言いました」は、場面に応じて様々に言い換えることができる。
言い換えることで、その場に応じた感情を加味することができる。
だから「要約・大意・ストーリー」にこだわると、些細な言葉の違いにこめた感情がスポイルされる。

若い頃、「何が書かれているか(内容読み)」と「どう書かれているか(表現読み)」の双方の指導が必要だと教わってきた。
時々そのことを思い出して、内容に偏りがちな自分の読み方を戒めている。

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「語彙力を鍛える(6) ~ワーキングメモリーが弱い子ども~

手元に「読み理解を促す語彙学習」の資料がある。

「実践障害児教育」2019年1月号・2月号「学習困難な子に効く ワーキングメモリー活用術」河村暁氏の論稿だ。

冒頭に「語彙はなぜ大事なのか」の章がある。

◆「今年の柿は 豊作で、安い価格で おいしいものが 出回っている」

子供に馴染みがない太字の単語を「実在しない非単語」に置き換えると、例えば次のようになる。

◆「のけさの柿は くみぬらで、安いそめらで おいしいものが どみらみもいる」

知らない単語に出会った子は、たとえ文字は読めても意味が分からないことを、このように非単語を用いた文例で示している。

河村氏は「ワーキングメモリーの言語領域が弱いと、語彙量が少なくなりがちである」と述べる。

①初めて聞く音を覚えられない
言語領域のワーキングメモリーが弱い子どもの中には、初めて聞く言葉を正しく認識できない子がいる。
「へいこうしへんけい」のような長い言葉を「へい・・」としか復唱できなかったり、「テレビ」を「てびれ」にように覚え間違えたりして、効率的な語彙学習が難しくなる。

②情報を処理しながら覚えられない。
文章を読むことは子どもの語彙の大きな供給源になっている。しかし言語領域のワーキングメモリーが弱い子どもは、言葉の意味を学ぶ学習(情報の処理)をしている間に言葉を忘れたり、言葉の意味を思い浮かべられなかったりして、効率的な学習が難しくなる。



定型発達の子は1年間におよそ7500語(1日に20語)の言葉を覚えていく。
語彙量が多い子は、読んだ内容を理解できるので読書量が増え、ますます語彙量が増える
一方、語彙量が少ない子は、読んでも理解できないので読書量が増えにくく、語彙量も増えない。各教科の「れき岩」「前方後円墳」「直方体」などの単語の意味を覚えにくい。
しかも、「読めない」「書けない」に比べて、語彙量が少ないことは発見されにくい。

・・・このように「語彙の少なさ」が抱える課題は多いのだ。

①その言葉を知っているかどうか・・「既知度」
②どういう意味か・・・・・・・・・「辞書的定義」
③どんな風に使うか・・・・・・・・「文脈的定義」

の3つの質問で子どもの語彙量を把握せよと述べているが、この①②③は語彙習得のステップである。
ステップ③までいかないと、語彙は自分のものとして活用できない。

部屋の整理をしていたら、息子の大学入試問題集が出てきた。
数学や物理の問題は、まさに「宇宙語」で書いてあるように思える。

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December 28, 2020

語彙力を鍛える(5) 〜齋藤孝著「語彙力こそが教養である」〜

「語彙力こそが教養である」斎藤孝(角川新書) 2016年版

語彙力が教養である事を説明するのに、斎藤氏は、「より多くの語彙を身に付ける事は、手持ちの絵の具が増えるようなものです」と「絵の具」の比喩を用いた。5、6ページ
 

「すごい」「やばい」「なるほど」「確かに」ばかり使う人は、8色の絵の具しか持っていない人。一方で、200色の絵の具を使える人は、あまねく表現を駆使して相手を動かします。部下にかける言葉も、自己アピールの言葉も、ビジネスでの商談も、プライベートな雑談も、「200色」の彩りを持って表現できるようになる。当然、それに伴って、あなたが受ける評価も大きく変わっていくでしょう。

 

・・・さすがだと思う。ここで8色と200色の絵の具の違いで説明するとは!

「彩り」という言葉も上品だ。

52ページには「頑張る」の別表現が例示されている。

「精一杯尽くす」「全力であたる」「精進する」「粉骨砕身する」「全身全霊を捧げる」

こうしたバリエーションの多さが知性であり、教養なのだ。

これまで私自身が意識してきたのは、次のような点だ。
 

※子どもの作文は「楽しかったです」で終わりがちだから、「楽しかった」以外の言葉を使わせる。

※会話場面で「○○さんは言いました」の繰り返しではくどいから、「言いました」以外の言葉で表現させる。

※文のつなぎが「そして」ばかりでは単調だから、別の語句を使わせる。
 

自分は何でも「最高」と褒める人を信じない。「最高」をそんなに乱発したら「最高」の意味がないからだ。同じ意味で「もう、最悪」などとよく言う人も信じない。「一生のお願い」を使う人も信じない。もっと、その場に合った言葉を吟味して使ってほしいと思う。

 

誰しも自分が頼りがちな口癖、常套句があるから、まずそのNGワードを自覚して封印せよ、そして別の言葉に言い換えよ、と斎藤氏は説く。

「語彙力」イコール「言い換え力」であることが、よく分かる。

ただし、NGワードを封印すると言いながら、そのNGワードを冒頭で使って、後で具体化すれば良いと述べているところもスゴイ。

 

◆一度「おいしい!」と感情を見せ、その後に「さくさくしていて、歯ごたえが気持ちいいですね」と続ける。そうすれば、ただ「おいしい!」で終わる場合と違って語彙の貧困な人には見えません。(中略)単純なワードを冒頭に持ってきてから具体的な描写に移る癖をつけると、バランスの良いコメントができます。46ページ

 

なお、斎藤氏は、語彙力を測るポイントの1つとして、「耳で聞いた単語を反射的に漢字変換できるかどうか」を挙げている。

 

◆私たちは、人と話している時やテレビを見ているときはひらがなの「音」を聞いているんですが、決して「平仮名のまま」理解しているわけではありません。無意識のうちにそして瞬時に漢字かな混じり文に変換しながら聞いてるんです。p34

 

なるほど。同音異義語の多い日本ならではの、語彙力の定義だ。

それは、脳裏に言葉のイメージが明確に浮かぶかという問題でもある。

入力した音を文脈に合わせて漢字変換できないようでは、語の意味、文全体の意味を理解できるはずがない。

 

ところで、語彙を高めるのに「漫画」が良いとは、斎藤氏は挙げていないが、以前から漫画はスゴイと思っている。

漫画の良いところは、言葉の意味を画像が補うし、文字情報も提示しているから「漢字仮名交じり文」で情報がインプットされること。テレビの場合は字幕表示していなければ、文字としては補えない。

音として入ってきただけの知らない言葉は理解できない。

辞書的な意味を知っただけでは、腑に落ちていないから、自分の言葉としてアウトプットできない。

「端的な言葉に言い換える」「分かりやすい言葉に言い換える」ためにも、語彙力を鍛える手立てをきちんと体系化したい。

「本を読め」だけでは、あまりに根性論的な指導なのだ。

確かに「語彙といえば、読書量」となりやすい。

しかし、振り返ってみて、自分はそんなに読書をしてきたのかというと、案外そうでもないのかなと思う。

読書にも質があるから、軽い読み物を好んだ自分の語彙が、難解な文章を読む際に役立ったとも思えない。

2人の息子も、読書に熱心だったようには思えない。

となると、結局、日常生活と異なるジャンルでの語彙習得に一番寄与したのは、高校や大学の入試問題かなと思う。

実際のところ、久しぶりに大学入試問題に取り組んでみて、頭が「難解な論説文」モードに入った。

「入試」という壁がなければ、あれほど難解な評論文を読む機会もなかっただろうと思う。

 

語彙力は教養の表れであり、ウイットに富んだ会話ができると信頼を得られると斎藤氏は述べているが、そういうことで語彙の必要性を語る気はない。

◆正しく情報を読み取り、かつ他者に伝えるために必要なのが語彙なのだ。

◆難しい言葉を分かりやすく言い換える具体化、冗長な言い方を端的に言い換える抽象化、この抽象と具体の往復ができることが語彙力なのだ

と思っている。

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語彙力を鍛える(4)

これまで一度も目を通したことがなかった光村図書の指導書。


「小学校国語 語彙に着目した授業事業をつくる」(本校にあるのは平成27年度版)
 
語彙の習得過程について、次のようなステップを示している。
 
1、ある教材での「語」との出会い
2、語の様々な面の学習・・・・語構成、語源、新出語句や難語句の学習
3、「理解語彙」として学習・・教材本文に食した文脈的な意味
4、認識、想像、思考・・・・教材以外に広げた応用場面での学習
5、「表現語彙」として習得・・自分の表現のための語彙の活用
 
 理屈がややこしい中で、一番腑に落ちたのが、「外国人児童への語彙指導のアイディア」のページだ。
「語彙」の課題であると同時に「スキーマ」の課題なのかと思う。
 
◆異なった文化背景を持つ児童は、日本で暮らしてきた児童、教師が当然だと思い、気にも留めていないことがわからないことがある。これは、一つ一つの言葉の意味が理解できても、場面の状況が正しく把握できないことにつながる。
 
・・・とあるが、これは当然、日本の児童にもあり得ることだ。

小学生にとって、自分の周りとは違う環境を「異なった文化背景」と受け止めるのは当然のことなのである。小学生は日本人としてとらえるより、外国人として捉えた方が、指導のモレがない。 
指導のポイントの「言葉を言葉だけで説明しない」が重要な指摘だ。
 
◆児童がわからない言葉を、他の言葉に言い換えたり、優しい言葉で説明したりする事は有効だが、それだけにとどまらず、実物や写真を添えて説明することが大切になる。


 
「理解語彙」として学習や生活の中で定着させるための継続的な手立てについて、本文を自分なりに①②③で整理してみた。
 
①児童が新しい言葉に出会う場面で、実物や絵、図、映像があったり、体験ができたりすれば、理解における言語面での負担が減る。

②表現するときにも、具体物やジェスチャーなどの手段を利用できれば、児童の負担が軽減される。

③学んだ表現や学ぼうとする語彙などの言語材料を補助資料として提示しておき、児童が自らそれを利用して、理解したり表現したりすることができるように環境を整えれば、学習の助けになる。
 


◆日本語を母語としない児童は、単に日本語が理解できないだけではなく、日本で生活できた児童が当然のように接してきた言葉や物語、気候、行事、風物詩に触れていない可能性が高い。「読むこと」の学習、特に文学作品においては、言葉から場面を想像することや事物や天候等の描写の象徴性に気づくことを気づくことができないことで、学習に支障をきたすことが少なくない。だからといって、教師がつきっきりで言葉の説明をすることも現実的ではない。
そこで、作品中の言葉を取り上げた「絵言葉辞典」をあらかじめ作成しておくと、児童が授業中に参考にでき、また自宅学習でも活用でき有効である。

 
・・・ここも、もちろん日本の児童も起こりえる。
「絵言葉辞典」とは、教材に出てくる言葉で、児童の生活経験上ではあまりなじみのないものの名前や動き、様子を表す言葉を取り上げ、絵や写真、図表などを添えて説明するものである。
デジタル教科書には、よく参考となる写真や動画などがついている。無論、教科書の挿絵や写真なども子供たちの知らない言葉(概念)を補足する手立てになっている。

以前「スキーマ」に関わって、子どもの理解の補助資料を準備することを書いた。

「語彙」に関わる支援と重なっていることがよく分かる。

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語彙力を鍛える(3) 言語コード論

『学力を育てる』志水宏吉著(岩波新書)2005年初版。

◆バーンステインの「言語コード論」が印象に残っている。

労働者階級の子どもが中産階級の子どもに比べて、学校で成功しにくい(よい学業成績をおさめにくい)理由を探る中で、彼が注目したのが「子どもたちの言語使用」である「言語コード」であった。
中産階級の家庭では、5W1Hが伝わる「精密コード」での会話がされる傾向が強い。
一方、労働者階級の家庭では、「メシ・フロ・寝る」のような単純な言葉(限定コード)で会話が成立することが多い。

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文化伝達の機関である学校では、授業を中心とするほとんどのコミュニケーションが精密コードでなされるため、それに習熟しているMC(ミドルクラス)の子どもたちは成功しやすく、逆に習熟していないWC(ワーキングクラス)の子どもたちは成功しにくくなる。
端的に言うならば、母親の話す言葉と先生の話す言葉とが近いWCの子どもたちはスッと自然に学校生活に入っていけるのに対して、その両者のギャップが生じやすいWCの子どもたちは、学校不適応・学力不振に陥りやすいというわけである。P101
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・・・「論理的な表現」と「精密コード」が一緒だと思って読んでいたが、今は「語彙」と一緒かと思う。


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クラスで喧嘩やトラブルがあったときに、あったことを筋道立てて説明できる子がいる一方で、言葉にならず、感情の赴くままの言動に走ってしまいがちの子がいる。バーンステインの「言語コード論」は、そうした現象の底流にあるものを析出しようとするものであった。P104
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・・・家庭の言語環境(保護者の言葉かけ)が学業成績に大きな差を生じさせるとしたら、日本の一般家庭はどうか?

日本の家族の会話は、子どもに合わせて易しい言い回しをすることが多い。
それが「限定コード」=「語彙習得の機会損失」になっているのではないか。

言葉足らずな表現を大人が安易に受け入れてしまうことについては、かつて次のように書いた。

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皆さんのお子さんは、言葉が足りないということはありませんか?
うちの息子は大学生ですが、テレビを見ながら、よく「水」と言います。
すると母親は「そうか、水が欲しいんだな」と水を用意してしまいます。
世間では旦那さんが「飯・フロ・寝る」しか言わないなんて話題になりますね。
これ、家族なら伝わりますが、社会では通じません。

給食の時に箸を忘れた子は、(本校では)職員室にスプーンを借りに来ます。

「先生、箸を忘れました」っていう子には、「だから何ですか?」と聞きます。

「スプーンを貸してください」と言う子には、「なぜですか?」と聞きます。

「何年何組の〇〇です」「箸を忘れました」「スプーンを貸してください」

この3つがそろわないと言葉足らずで相手に伝わらないのです。
これからは「伝え合う力」が求められます。
ご家庭でも「水がほしいんだね」みたいに子どもの言葉足らずの部分を先どりするのではなく、ちゃんと自分の言葉で説明する訓練をしていただきたいです。

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不十分な子どもの言葉を安易に受け入れる大人は、語彙力をスポイルしているのだ。

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語彙力を鍛える(2)

樋口裕一氏の2冊の本。

◆「『頭がいい」の正体は読解力」 幻冬舎新書 2019年11月版
◆「すばやく鍛える読解力 」幻冬舎新書 2020年9月版


どっちがどっちか分からなくなるほど、同じようなテーマ。全く同じ内容の部分もある。

(1)語彙力を鍛える
(2)文章力を鍛える
(3)読解力を鍛える。


2019年の書籍を、2020年に焼き直したという印象が強い。
語彙力を鍛えるためには「言い換え力」が大切だと説き、練習問題を課している点は同じだが、2020版は、リニューアルして7つに減っていた。

①提示された一文に合う具体例を示す
②提示された一文に合うまとめの言葉を入れる
③持って回った表現をわかりやすく書き直す
④漢字熟語などを加えて簡潔な文に変える
⑤直接表現を婉曲表現に書き直す
⑥「言う」「行く」などを別の表現に改める
⑦古文を現代文に訳す


・・・この中で、まず、面白いと思った1つが⑥。

「言う」は、抗議する・叱る・語る・つぶやく・ぼやく・約束するなど、場面に応じて様々な表現が可能だ。
逆に場面状況を理解しないと、適切な「言う」の代案が出てこない。
こういう指導は、とても大事だと思う。

光村図書の「国語教育相談室(小学校)」98号にあった実践は、セリフ中心の「お手紙」で、「言いました」で終わりそうな箇所に、別の表現を入れてみようという試みだ。
https://sns.toss-online.com/u/54vxkxbuoo/gufhfoyok6usjt

これぞ、語彙指導の授業だ。

続いて、面白いと思ったのが③と④。例文が良いので納得感が強い。

③は、わかりにくい文を、やさしい文に改める問題

◆政府の度重なる失態が原因で国民の信頼が失われ、その結果として経済が末期的症状を呈するに至ったため(後略)
→政府が何度も失敗したため、国民が信用しなくなりって経済がひどいことになったので・・・


④は、③の逆で簡潔に言い換える問題

◆子どもたちが勉強したいという気持ちをだんだんともたなくなっているのが、勉強できない子が増えている原因だと思うが(後略)
→学習意欲の減退が学力不足の子どもが増加している原因だと思うが・・


・・・子供の言い訳が冗長すぎるとき「結局、何があったの?」と結論をきちんと言わせるのは、まさに、この③や④の対応なのだと思う。
 やさしく言い換えたらかえって分かりづらくなることもあるし、簡潔に言い換えたら熟語が多くてかえって分かりづらくなることもある。
 そのバランスを調整できるのが「語彙力」だ。

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December 19, 2020

高学年の授業は、語彙との闘い

学校で定期購読している小学館の「教育技術」今月の5・6年号に、次の記述があった。

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高学年の授業は、語彙との闘いなんです。科目によっては、1時間授業をしただけで、学習に必要な語彙が一気に増えることも多いのです。読み書きに課題がある子は、『授業に参加するための語彙』を意識して指導して欲しいのです。
新しい語彙への抵抗をなくすためには、言葉に触れる回数を増やすことが大切です。勉強として『暗記が必要』になると本人も心理的な抵抗感も大きくなるので、それ以前に、『何となく触れておく機会』が欲しいのです。私は『NHK for スクール』の視聴などもよい方法の1つだと思っています。P64

NPOえじそんくらぶ高山恵子氏と松江市の支援学級担任の井上賞子氏の担当箇所
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・・・新井紀子氏が、中学校の卒業時に教科書が読めない子が三割いるという指摘も同じだ。
日常会話に必要な語彙に問題がなくても、ふだん使わない学習の語彙に問題があれば、授業にはついていけない。

難解な用語が苦手な子は、まんまと詐欺にあう。
語彙不足・基礎的読解力の不足は国家の危機なのである。

新井紀子氏は、あるオンラインセミナーで、次のように発言していた。

「中学を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることが公教育の最重要課題」

しっかり肝に銘じたい。

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